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vol.118 ランドスケープアーティスト 石原和幸
石原和幸 | Kazuyuki Ishihara keywords
昭和33年長崎市生まれ。大学卒業後、生け花『池坊』に入門。花屋の修行を開始。その後、パリでフラワーデザインを学ぶ。花の路上販売を経て、平成5年株式会社『風花』設立。平成16年イギリス・2004チェルシーフラワーショーに出展し、シルバーギルドメダルを獲得。同年『長崎県民表彰特別賞』受賞。平成17年には『長崎市特別表彰』を受ける。平成18年イギリス・2006チェルシーフラワーショーにてゴールドメダル・ベストガーデンを獲得。翌年のイギリス・2007チェルシーフラワーショーでは2年連続のゴールドメダルを獲得。現在、株式会社大島造船所グループ所属。
ひょっとすると、彼の名前は日本よりも海外での方が有名なのかもしれない。石原和幸さんは、ランドスケープアーティスト界において世界的な権威を持つ大会『チェルシーフラワーショー』において2年連続で金賞を受賞するという快挙を成し遂げた、いわば『ランドスケープアーティスト界の世界チャンピオン』だ。しかし、そうした名誉を手にしている彼の言葉から強く伝わってきたのは、彼が日頃扱っている草花に対するただひたすら純粋で深い愛情。詳しくは本文に譲るが、彼の頭から花や緑のことが離れることは片時たりともないのだそうだ。だが、彼が愛しているのは草花だけではない。『花には人を感動させる力がありますよね』。花をプレゼントした時に相手がどんな顔をするか。自分が作った庭や公園を人が見た時にどんな気持ちになるか。常に受け手の心をイメージしながら仕事に取り組んでいるという石原さん。彼が深い愛情を注いでいる相手は植物だけでなく、自然と共にこの世界を生きている人間でもあるのだ。
ガーデニングをもっと身近に感じ、草や花のある生活を楽しむ日本人がもっと増えてほしいとおっしゃる石原さん。彼の言葉通りアマチュアのガーデナーがたくさん出てくれば、きっとこの国に生きる人々の笑顔は今より増えることだろう。
花や緑の力を使い、世界中の人々の幸せな笑顔を生み出し続ける石原さんの活動に今後も注目である。   <Yusuke Sawaki>

「すごく驚いていらっしゃいましたね。」
― 現在最も注目を集めているランドスケープアーティストの1人、石原和幸さん。最近『ランドスケープアーティスト』という言葉を耳にすることも多くなってきましたが、これはそもそもどういった職業なのでしょうか?
「簡単に言うと、植物を絵の具に見立てて絵を描く仕事ですね。それもキャンバスではなく、ビル、公園、そして街全体に描きます。似た言葉で『ランドスケープアーキテクト(architect)』という仕事がありますが、これは建築の範疇に属するものなんですよ。『アーティスト(artist)』の方は、植物を使ってあらゆる場所をアートにして、みんなが楽しめるものにする仕事です。例えば、公園でもレストランでも、緑をただ植えればいいというものではないですよね。植物を使い、その場所を通った人が楽しんでくれるようなことを一生懸命考え、実現する。それが僕たちの仕事です。」
― そして、そのランドスケープアーティストの世界大会『チェルシーフラワーショー』にて、去年、今年と2年連続で金賞を受賞するという快挙を成し遂げている石原さん。
「これは王立園芸協会が主催をしている大会で、世界各国からランドスケープアーティストが集まって世界チャンピオンを決めるんです。この大会はイギリスでは非常に有名で、チャールズ皇太子やエリザベス女王もいらっしゃるんですよ。開催期間は毎年大体5月22、23日くらいから5月の末まで。そして入場料は開催初日が王立園芸協会会員とVIPのみで約7万円、他の日も6時間で約1万円と決して安い訳ではないのですが、それでも2ヶ月前にはチケットが売り切れてしまうくらい人気があるんです。入場者数はおよそ20万人。若い方から少しお年を召された方まで、本当にたくさんの方がいらっしゃいます。これだけすごい規模の大会であるのにもかかわらず、日本ではあまり知られていないので、まだ知らなかった方にはぜひオススメしたいですね。本当に素晴らしいショーですよ。」
― そして右の写真が、石原さんが今年チェルシーフラワーショーにて出品した作品。これ、メインの植物はなんと「こけ」ですね?
「はい。これは雲庭というテーマを元に作り上げました。今、地球は温暖化で暑くなってきていますよね。でも、このこけのモールがあればどんなところであっても涼しく過ごすことができるんです。そして、それと同時にこのモールは、僕の生まれ故郷の長崎を表現したものでもあります。段々畑や小川のせせらぎといった、自分が小さかった頃に見ていた風景。それをモールの中の現代的な空間と融合させ、世界に向けて発信したいと思いこれを作りました。
今回はこけを全体的に使ったということで、イギリスの方はすごく驚いていらっしゃいましたね。あちらでは、こけはごみのような扱いを受けているんです。芝にこけが入るともうダメだ、なんてことも言うくらいですから。チェルシーフラワーショーにおいても、こけを使ったデザインは初めてだったみたいでしたね。」
― これを作るのには、どれくらいの期間がかかるのでしょう?
「全体のスケジュールでいくと、ほとんど1年がかりですね。まず、これを作るための植物をイギリスで集めないといけないんですよ。こけはどこにあるのか、あるいはいい松はどこにあるのか、ということを前もって調べないといけないんです。しかも今回の作品ではアヤメを使っているのですが、今回のショーではジャッジしてもらう時間に合わせて、これを5月22日の朝7時30分に咲かせないといけなかったんです。これも本当に大変でした。というのも、通常イギリスでアヤメが咲くのは6月の終わりくらいなんです。だから、まずこれを3週間くらい前に温室に入れ、それから当日の温度を読んで1週間前に部屋から出して・・・。それからは祈るのみです。『咲いてくれ!僕のために何としても咲いてくれ!』と(笑)。で、向こうの方もこういうことをご存知なんですよ。だからこそ、僕の作品を見た時には皆さんすごく驚いて下さいました。
ちなみに、イギリスの方は人口の95%が庭好きなんです。日本のお相撲以上の存在ですね。だから、街を歩いていてもみんな庭がすごくきれいで、その辺の家の窓辺にちらっと見えている花の色合いでさえも、バランス感覚が絶妙なんです。まさに国民が皆ガーデナー、という感じですね。」
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「ほぼ24時間、花を売っていましたね。」
― では、普段日本ではどういったお仕事をされているのですか?
「現在は東京の日本橋にある『石原和幸デザイン研究所』という会社を拠点に、日本各地のいろんなところでお仕事をさせて頂いています。リゾートホテルやレストラン、そして結婚式場など、最近は企業の方からの依頼が多いですね。東京だと、原宿の『ベニーレベニーレ』というイタリアンレストランのベランダは僕が作らせて頂いたので、もしよろしければ行ってご覧になって下さい。
あと、この間の春には札幌に行ってきました。4月だと、札幌にはお花がないんですよ。そこに僕が行って『お花を埋め尽くします』と。『それは無理でしょう』と言われましたが、結局4日かけて4トン車を運転してお花を持っていって、依頼された場所をお花でいっぱいにしてきました。それも一時的なものではなく、ちゃんと計算してあるので10月くらいまではもつはずです。普段お花が無い所にまでお花があるってすごく素敵ですよね。
こうやって毎回、面白いアイデアでいろんな場所を楽しませるのが僕の仕事です。きっと皆さんにびっくりして頂けるようなアイデアがまだまだたくさんありますので、ぜひ仕事を依頼して下さい。電話して頂ければ、すぐにお邪魔いたしますよ。」
― また、生まれ故郷の長崎でフラワーショップも開業されているそうですね?
「はい。僕はいつも、基本週末は長崎に帰るんです。そこで地元の方の個人庭を作ったりしながら、自分が経営している花屋を見ています。僕のキャリアの始まりはそもそも花屋さんなんですよ。20年前くらいですかね、当時は花屋のチェーン店を開業していたのですが、ある日配達で花の苗を持っていったんです。それまで僕は1度もお花を植えたことはなかったのですが、そこでいきなり『植えてみて』と言われて。で、適当にやってみたらすごく褒められたんですよ。それから『じゃあ、壁も作れるんじゃないか』と思ってやってみたら、それも褒められて。以後、ホームセンターでやり方を聞きながら自分でいろんなものを作るたび、皆に『すごくいいね』と言われたので、『ひょっとしたら自分は素質があるんじゃないか?』と思ってしまったんですよね(笑)。そういった流れで、花屋の経営だけでなく、庭作りもするようになっていきました。」
― では、花屋を開業するに至ったいきさつは?
「実は僕、小さい頃はモトクロスをやっていたんです。中学校の時から始めたのですが、全日本選手権に出場していたくらいだったんですよ。スポンサーもついてね。でも、19歳の時に近眼になってしまって。この競技をやる人間にとっては致命的なことでした。それで20歳の時に早くも引退したんです。そして22歳になり大学を卒業した頃、何か手に職をつけたいと思って、ある日突然生け花を始めたんですよ。男性が花を生けるなんてすごくかっこいいじゃないかと。ほんの前まではモトクロスだったのにいきなり(笑)。でも、実家が農家で花を市場に出荷したりもしていたので、小さい頃から馴染みはあったんですよね。
きっかけはそうした本当に単純なことだったのですが、実際に始めてみると、花の生け方とか育て方とか、それはもうすごく深い世界で。それでどんどんのめり込んでしまったんです。そして23歳の時にはもう、将来は花屋になると決めていましたね。」
― そして花屋になる決意した石原さんは路上販売の花屋さんで修行を開始。その後、パリに渡ったそうですね。
「パリと言えば『華の都』ですからね。まあ、字が違うんですけど(笑)。なんだかパリに行くと、すごくたくさんお花があるというイメージが当時の僕にはあったんです。
で、実際に行ってみるとすごく個性的な花屋さんがたくさんあったんですよ。白いお花だけを売っている店とか。しかも、あちらでは金曜日になると花屋に人が並んだりするんです。それを見てすごく驚きました。それで僕は、そういう花屋を自分でやりたいと思い、まずは路上販売を始めたんです。29歳の時でしたね。でも、当時は向こうに知り合いなんて誰もいないので、まずは直接生産者の所に行って花を買いに行く訳です。だけど当時はお金がないもんだから、免許を人質にして『今度払いにきますから』と(笑)。花を手に入れるだけでも必死でしたね。それでもなんとかバラの花を手に入れて。そしてシャンソンをかけながら、路上で販売を始めました。でも、僕の場合は通常の路上販売と違い、頼まれもしないのに『奥さん、ブーケ作りましょうか?』なんて話しかけて、ハンカチをポッと出してリボンをつけてあげたりする売り方でした。で、昼はそうやって路上でパフォーマンスをしながらお花を売って、夜は飲み屋に行ってお花を売って・・・と、当時はほぼ24時間、眠い目をこすりながら花を売っていましたね。
僕は今でもそうですが、趣味と生活と仕事が全部一緒なんです。日本に帰ってきてから花屋をスタートした当初なんか、店にいる時は店で寝て、車で生産地を回る時は車の中で寝るという生活を数年間続けていましたから。それでも辛かったなんて記憶は全然ないです。頭に浮かんでくるのは楽しいことばかりですよ。『あの花がもう1度見たい』とか。まだまだ世界中にはたくさんの植物がありますし、日本だけでも、まだ見たことがないものもたくさんあります。そういうものを見る度に感動してアレンジしたくなりますから・・・もう花に関する仕事は辞められないですね。」
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「男だけの花教室をやっています。」
― そんな石原さんだったら、『オフタイム』なんて存在しないのでは?
「そうですね。お花を触ることが趣味であり仕事なので、『オフ』という感覚がないんですよ。散歩に行っても、人の家の庭を見ていて、草が生えていると取ってあげたくなるんです(笑)。で、手入れをしている人を見ていると『ここは病気になっちゃっていますから、こういう薬をあげるといいですよ』なんて、頼まれてもいないのについついアドバイスをしちゃう(笑)。そうやっていろんな人と仲良くなったり。僕にはオンとオフの境界はないですね。」
― 何か集めているものはありますか?
「以前は珍しい植物をたくさん集めて自分の家に植えていたのですが、最近は自分のオフィスに色々植えています。マングローブも植えていて、今ではもうジャングルみたいになってしまっていますね。スタッフからは『もう多すぎますよ!』と言われるのですが、僕はこの際、壁も全て緑にしようじゃないか、なんて思っています(笑)。最近は蚊も増えて皆に困ると言われているのですが・・・僕は緑を減らさずに済む方法を考えているところです(笑)。」
― 週末は長崎のバーで花の教室を開いていらっしゃるそうですね。
「はい。僕の行きつけのバーで、それも女人禁制、男だけの花教室をやっています。ある時『女性に教えるよりも、男だけで生けている方がかっこいいんじゃないか』とみんなの前で言ったら、みんな『やりたい』と言い出して(笑)。まずは飲まないでお花を生けて、それからお酒を飲みながらみんなにアドバイスしていくんです。『キミは迷いがあるねえ』なんて言ってね(笑)。でも、生けたお花を見ているといろんなことが分かるんですよ。この人はきっとこういうことを考えているんだろうなあ、とかね。今のところこの教室は2ヶ月か1ヶ月に1回やっていますが、すごく面白いですよ。」
― 石原さんにとって『オトナ』とは?
「好きな趣味を仕事にできる人が最高にかっこいいと僕は思います。自分の仕事を通してその趣味の楽しみ方を人に教えてあげられる。そんな人っていいですよね。
あと、やはり僕は何かと植物のことを考えてしまうのですが、例えば、家を1軒建てたのであれば、まず木を1本植えてほしいですね。そして、『道路から見たらこれはどういう風に見えるんだろう?』というように、自分の家が街の中でどういう役割があるのかということについても考えてみてほしいです。それは本当に大切なことだと思います。そのことで街がよくなったり、人が笑顔になったりする訳ですから。」
― 最近の喫煙環境について、何か感じていることはありますか?
「道にポイ捨てする人はちょっと・・・。灰皿はいつも携帯して頂きたいですね。」
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「ガーデンは人生そのものなんです。」
― 石原さんのお花屋さんでは、プレゼントをする場合は花の種類だけでなく、渡すシチュエーションなんかも一緒に考えてもらえるそうですね?
「はい。花をプレゼントするストーリーをお客さんと一緒に考えていると、自分もわくわくするし、やっぱりお客さんにも喜んでもらえるんです。それは本当に大切なことですよ。人によって喜んでもらえるパターンは色々違うと思いますが、それを考えるのもまた楽しいですよね。プレゼントといっても、本当にいろんなバリエーションがありますから。例えばバラ1つにしても、ブーケで大きい花をあげるのもいいですが、すごく珍しい、匂いのいいものを1輪で、バラの歴史と一緒にプレゼントしても素敵ですよね。こういうことで悩むのは本当に楽しいことです。
あと、プレゼントといえば、日本だったら、ある日突然花を奥さんに買ってきても『何かあったの?』なんて勘ぐられたりしちゃいますけど、それは続けていないからなんですよ。1回、2回、それ以上、と繰り返しているうちに、必ず奥さんともいい関係を築けるようになってくるはずです。
花には人を感動させる力がありますよね。皆さんにもぜひ、人の心に響くような使い方を覚えてほしいです。」
― 最近日本でもガーデニングがブームになっていますが、ガーデニングを楽しんでいる人に何かオススメの庭の作り方があれば教えて下さい。
「いちじくやハーブのように、食べられるものを植えるのもいいと思います。お店をやっている方であれば、その花も店内に飾って、『あの花はその食材の?』なんて言ってお客さんに説明するとか。すごく素敵だと思います。あと、フェンスを作ってそこにミニトマトをたくさんならせると、夏になるとまるでイルミネーションのように見えるんです。それもすごくオススメですね。で、見ている人に『2個までだったら食べていいよ』とかね(笑)。
日本だと、まだまだ『ガーデニングは特別なこと』という意識があると思うのですが、例えばイギリスの方にとっては、ガーデンは人生そのものなんです。日本人の方にも、もっとガーデニングを身近なものに感じてもらえたらいいなと思います。別に花が奇麗だとかいうことだけではなく、例えば自分で野菜を植えて、できたものを食べてみるとすごくおいしいですよね。そういう単純なところから始めても、お庭を好きになって頂けるんじゃないかと思います。」
― では最後に、石原さんのこれからの目標を教えて下さい。
「まず、チェルシーフラワーショーにもっと出たいですね。ショーには全部で4つ部門があるのですが、現在はその中の2部門で金賞を頂いているんです。全部門を制覇した人間はまだ誰もいないので、これを狙いたいですね。来年も出るので期待して下さい。
あと、来年7月にはシンガポールで開催されるフラワーショーにも参加する予定です。これからは世界中でもっと仕事をしていきたいですね。そして、世界で見たいろんなものがきっかけになって、また新しいアイデアがどんどん浮かんでくるので、それを東京でも実践していきたいなと思います。」
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