JT with Farmers #02
法人化で変わる、生産性と働き方
内藤将吾さん/大分県臼杵市

2022/09/12

JTが目指すサステナビリティの一つに、日本のたばこ産業全体の持続可能性を探り、それを未来につなげていくことがあります。それは、たばこの製造過程で地球環境に与えるインパクトを最小限にすることや、地域経済への貢献、農業課題の解決・改善など、さまざまなテーマがあります。JTがそれらひとつひとつと真摯に向き合い、より良い環境づくりに挑み続けるために、欠かすことのできないパートナーが葉たばこ農家です。本特集「JT with Farmers」では、日本全国にいらっしゃる葉たばこ農家の、農業に対する想いや課題、新しい取り組みや未来の展望などを取材しました。彼らに寄り添い、ともにアクションを起こすことが、たばこ産業の持続可能性を探る第一歩であると考えています。

第2回は、大分県臼杵市で日本最大級の葉たばこ畑を営む内藤将吾さん。数年前に法人化し、葉たばこ農業をより発展的なビジネスとして捉えるようになったそう。生産性向上や雇用面の仕組みづくり、また他作物の栽培など、多様なアクションに共通する視点は、葉たばこ農業の持続可能性、でした。

生産性を高める秘訣は法人化!?

大分県臼杵市に、日本最大級の葉たばこ畑があります。その面積は、2022年現在で実に約7.5ヘクタール(サッカーフィールド約10.5面分)。広大な土地に、生き生きとした葉たばこが青々しく輝く光景は、まさに幻想的。この大きな畑の持ち主は、内藤将吾さん。葉たばこ農業の新しいかたちを模索する若手農家です。

「祖父が葉たばこの栽培を始めて、私で3代目になるのですが、葉たばこ農業を取り巻く環境は祖父や父の代とは大きく変わってきています。未来を見据え、持続的に農業を営むためになにができるのか、と常に自問自答しています」

喫煙人口の減少や担い手の高齢化など、葉たばこ農業が抱える課題は少なくありません。そこで内藤さんは、課題解決のためにある決断をしました。 2019年、株式会社ネクストアグリイノベーションとして法人化したのです。葉たばこを栽培する農家は個人事業主として活動するケースが多く、法人は全国でもごくわずか。いったいなぜ、法人化を?

「個人事業主として農業をやっていると、さまざまなリスクがあります。たとえば家族で営んでいる場合、もし誰かに万一のことがあれば事業が成り立たなくなってしまう。法人化することで福利厚生や雇用面での環境を整え、持続可能な農業を実現したいと思いました。」

内藤さんは、法人化することで農業を“ビジネス”として捉えられるようになったといいます。「いかに利益を最大化するか」という視点で葉たばこ農業を見直すと、改めて葉たばこ農業の可能性を見出せるようになったと言います。

「品質を高め、生産量を増やし、経費を抑えることが、このビジネスの基本です。その点、葉たばこ農業はまだまだ昔ながらのやり方が残っているので、機械やITの導入、作業の仕組みを改善することで生産性はもっともっとあがる。ポテンシャルは高いと思います」

若い人材が集まる理由は、“働きやすさ”にあり

葉たばこ農業の可能性を引き出すために、内藤さんがまず取り組んだのは“徹底したデータ活用”です。

「葉たばこ栽培に最適な肥料を計算・配合する施肥設計は、品質向上のために重要です。それを、昔ながらの勘を頼りにしたやり方だけではなく、それを裏付けるため、土壌分析をし、肥料のデータも蓄積することで、より精度を高めていけます。それ以外にも、日々の作業をデータとして記録していくことで、何が良くて悪かったかを省みることができ、作業効率の改善につながります」

デジタルネイティブ世代らしく、内藤さんはデータの記録にオンラインサービスや表計算ソフトを積極的に活用。そうすることで、自分だけでなく、社員や関係者とも情報をシェアできるようになるのも利点だと言います。

「今後さらにデジタル化や機械化は進んでいくので、どんどん取り入れていきたい。それが結果的に、農業が抱える人手不足の解決にもつながっていくと思っています」

人材の確保は、担い手が高齢化している現状において重要なテーマ。一般的な農家は主に親族や近隣の農家など、知り合いの力を借りて人材不足を補うことが多いそうなのですが、内藤さんはインターネットを活用して担い手を広く募集。実際に数名の人員を雇っています。取材した当日も、東京から大学を卒業したばかりの2人が研修生として汗を流していました。そのうちの一人、早野大さんに話を伺いました。

「普通に就職する前に、いろいろなことを体験してみたかったんです。その中でも葉たばこに関してはまったく知識がなかったので逆に興味を持ちました。ここではみなさん温かく迎えてくれて、作業も丁寧に教えてくれるので毎日充実しています」

「昔ながらの見て学べというスタイルは今では通じない」と内藤さんが話すように、ベテランが研修生の早野さん(左)に丁寧に指導する

と、日焼けした精悍な表情で話してくれました。早野さんたちは、ネクストアグリイノベーションが用意した社員寮に入居。また、家族経営だった時は休日もあいまいになることが少なくなかったものの、法人ともなれば従業員を休ませる「義務」が発生するため、しっかりと休日をとり、安心して農業に打ち込めています。

「農業はきついというイメージがありますが、効率化を進めると同時に、働きやすい環境も整備して、多くの若い人たちを迎え入れていきたい。何より若い方々と働くことで私たちもすごく刺激になりますから」

働きやすく、やりがいのある環境づくりは、葉たばこ業界の未来に直結しそうです。

いざ、次世代型の葉たばこ農業へ

栽培現場での労働環境のあり方は、JTでも強く意識しているテーマです。JTは耕作労働規範(ALP)を設けており、「児童労働の防止」「労働者の権利尊重」「適切な労働安全衛生の維持」を3つの基本として掲げています。まさにそれを実践しているのが、内藤さん。未来の葉たばこ業界を担う存在だからこそ、JTはさまざまなシーンで内藤さんに協力を仰いでいます。たとえば農家への研修での法人化に関する講演や、葉たばこ生産コストの低減に関するアイデア、農機の検証など、ワンチームでより良い葉たばこ農業をつくろうとしています。

「やっぱり一人だけじゃ業界は変えられない。家族や従業員、地域の仲間やJTとともに、新しい試みをどんどんしていきたいですね」

法人化した後には、ニラやゴボウの栽培もはじめました。内藤さんは「まったくの素人だった」そうですが、地域で共感する先輩のもとを訪ね、弟子入り。育て方を教わり、今では立派な収益源になっています。

JTのリーフマネージャーとも密にコミュニケーションを取り、日々新たな情報をインプットする

ニラのビニールハウス。葉たばこ栽培とは繁忙期がずれるため、無理なく育てることができる。ビニールハウスの設備投資も、法人化することで融資を受けられるようになった

「もともと、臼杵市はピーマンやニラ、かぼすなど、多くの作物が栽培されていました。最近は他の業界から転身した若い就農者も増えていて、彼らと話をしていると農業に打ち込む姿勢やアイデアなどがとても新鮮で、勉強になるんです」

農業が盛んな臼杵市では、環境保全型農業・有機農業を強く推進しており、化学肥料を使わずに生産された農産物を市長が認証する「ほんまもん農産物認証制度」を制定しているほど。そのような地域のバックアップもあるからこそ、志の高い農家が集まり、内藤さんを含め、新しいチャレンジをしやすい環境になっています。

「旧来のやり方だけを行っていたら、葉たばこ農業は衰退していくかもしれない。挑戦できるのは、僕たちの世代の特権です。そこで得た成果を、次世代へとつないでいきたいですね」

広い視野と行動力、そしてたゆまぬ向上心を持って、挑戦を続ける内藤さん。その視線の先にあるのは、葉たばこをはじめとする農業の革新――まさに、ネクストアグリイノベーションでした。

今回のサステナブルなポイント「持続的な農業経営」

1.

法人化することで新たな試みが可能に!

2.

データを活用し生産性を高める

3.

働きやすい環境を整備し、若手就農者を育てる

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謎に包まれた日本屈指の磨崖仏
「臼杵石仏」

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