JT with Farmers #05
世代交代も資源の有効活用も、地域で育むサステナビリティ
三浦健太さん/岩手県岩手町

2022/12/14

JTが目指すサステナビリティの一つに、日本のたばこ産業全体の持続可能性を探り、それを未来につなげていくことがあります。それは、たばこの製造過程で地球環境に与えるインパクトを最小限にすることや、地域経済への貢献、農業課題の解決・改善など、さまざまなテーマがあります。JTがそれら一つひとつと真摯に向き合い、より良い環境づくりに挑み続けるために、欠かすことのできないパートナーが葉たばこ農家です。本特集「JT with Farmers」では、日本全国にいらっしゃる葉たばこ農家の、農業に対する想いや課題、新しい取り組みや未来の展望などを取材しました。彼らに寄り添い、ともにアクションを起こすことが、たばこ産業の持続可能性を探る第一歩であると考えています。

第5回は、岩手県岩手町の葉たばこ農家・三浦健太さんの実例を通して、同地で行われている葉たばこ栽培のあり方や、農家たちのマインドについて掘り下げます。相互扶助、土地の再利用、世代交代に地域貢献……。サステナビリティを考える上で重要なキーワードが、続々登場します。

助け合いの精神が、当たり前にある土地で

作業中に雨が降り、休憩する三浦さん一家。左から父の信悟さん、母の昌恵さん、健太さん、妻の弥生さん

葉たばこ農家は、多くの場合、特定の地域や地区に集結しています。だからこそ、近隣の農家同士の関係性は深く、彼らは当たり前のように助け合いの精神を持ち合わせています。

ここ、岩手県岩手町の太田地区も、そんな地縁が息づく古くからのたばこ産地です。

「収穫の最終盤の『幹刈』という作業に差し掛かった際に、ちょうどうちの母が病気で倒れてしまったことがありました。家族経営ですから、人手が足りず困っていたところ、周辺の農家さんが10名以上かけつけてくれて作業を手伝ってくれたんです。あれは本当に助かりましたし、ありがたかった」

そんなエピソードを話すのは、三浦健太さん。80年の歴史を持つ葉たばこ農家の4代目です。農業では、こうした相互扶助の精神は「結(ゆい)」や「手間替え」という言葉で表されますが、この地域ではいまだに当たり前のように実践されているのだとか。

農家同士の結びつきの強さは、別の部分でも感じさせてくれます。葉たばこ畑の利活用です。農家の引退などにより手放されることになった葉たばこ畑は、なるべく他の葉たばこ農家が受け継いでおり、実際、三浦さんの畑のひとつも辞めていった農家が所有していたものだとか。

「引退した方にしても、その畑ではなるべく葉たばこを育ててほしいという思いが強いんです。それに、一回他の作物を育ててしまうと、その畑でもう一度葉たばこをつくるのが難しくなる。だから、スムーズに畑を引き継ぐことが大事なんです」

乾燥のために、家族で葉たばこを乾かす。両親も葉たばこ農家として現役だ

三浦さんの葉たばこ畑の一つ。約1ヘクタールもの面積を誇る

同じ植物とはいえ、野菜と葉たばこの栽培は似て非なるもの。肥料や農薬の種類や量も異なります。葉たばこ畑から野菜畑への転換は比較的容易だそうですが、その逆のパターンでは葉たばこに合う土壌をつくりなおすのに時間がかかるそうです。

「やっぱり、地域の畑はなるべく活かしていきたいですからね」

と三浦さん。先人の知恵だけでなく、畑という資産も地域ぐるみで受け継いでいく。「結」の精神が岩手町の葉たばこ栽培という文化を守っているようです。

「みんなで頑張って、みんなで報われる」

岩手町は、ブランドキャベツ「いわて春みどり」の産地としても有名です。実は父の信悟さんも、葉たばこと並行してキャベツを育てていた時期がありました。キャベツの栽培は高い収入をもたらしましたが、そのうち葉たばこ一本にしたと言います。

「野菜は市場とのバランスで価格が変動するから、常にハラハラしていました。その点、葉たばこはJTとの契約栽培だから、見通しがついて安心感がある」

これが育てた葉たばこは全てJTが買い取る「全量買い取り制」です。その年の品質や収穫量で個々の農家の収入に差は生じますが、基本的に一定の収入が保証されているといっていいでしょう。この、JTとの契約栽培という仕組みが、農家間の相互扶助の精神を育むことにもつながっている、とは健太さんの弁。

「葉たばこ農業は他の農家さんと競争しません。むしろみんなで生産性を上げられれば、全員が報われる構造です。だから、どんどん情報を共有して、お互いに技術力を高めあっているんです」

実際、健太さんは耕作組合の若手でつくったSNSグループに加入しており、そこではその日の作業内容や新しい農機を使った感想など、情報共有が行われているそうです。交流は地域内だけにとどまらず、二戸市浄法寺町といった近隣の産地から南は九州まで全国に及びます。

なかには何も言わずに突然視察に来る他地域の農家もいるとか。右はJTのリーフマネージャー中平里歩

「研修などで年に1、2回は全国の農家さんと顔を合わせる機会がありますし、近隣の地域だとお互いが視察に行き来することも少なくありません。やはり同世代で頑張っている方々と話すとヒントがたくさんもらえるし、モチベーションが上がりますよね」

他の農家はライバルではなく、仲間。特に若い世代にはそんな意識が色濃く、競争よりも共存共栄を目指して、オンライン・オフラインを問わない「シェアリング」=情報共有が活発化しているようです。

世代が変わっても、やるべきことは変わらない

実は三浦さんは、2022年にご両親から事業継承をしたばかり。36歳の若さで一家の畑を守り、さらに耕作組合青年部の部長も務めています。後継者不足や高齢化が指摘される農業ですが、岩手町では若い農家が中心となってがんばっているそう。その理由の一つは、地域の独自の世代交代のあり方にあります。

息子の三浦さんにバトンを手渡した父の信悟さんは言います。

「ずっと一緒にがんばってきた仲間たちと、足並みをそろえて一線を退いた。そろそろ俺たちの時代は終わりにして、息子たちの若い世代に引き継いでいくべきだろうって思ったんだ」

太田地区では、かねてより還暦を超えたあたりで後継者へ道を譲るのが自然の流れだと言います。だからこそ世代交代が一度に起こり、そのたびに耕作組合といった組織や地域の農業が若返る。このシステムは、地域の農業が持続するために生み出された知恵なのかもしれません。

「自分の時代、小学校の同級生の数十人は葉たばこ農家の子どもだった。今は少なくなったけど、それでも若い世代にしかできないことがある。胸を張って農業をしてもらいたいね」

と息子世代にエールを送る信悟さん。担い手は減ったとはいえ、今も町にとって重要で親しみある農業のひとつであることは間違いありません。

JTにとっても、地域貢献は非常に重要なテーマの一つ。たとえば岩手県では、健太さんも交流のある葉たばこ産地の二戸市と「漆の林づくりパートナー協定」を締結。ウルシ苗木の植栽活動など、地場産業である漆の振興に向けて取り組みを進めています。

パイプハウスなどの設備も「父がほとんど整備してくれたから、今こうして栽培に集中できる」と三浦さん

二戸市でのウルシの苗木植栽活動での様子。JT、耕作組合、そして地元の小学校の児童が作業を行った

地域に根を張り、助け合いの精神をもって、地域に恩恵をもたらす持続可能な葉たばこ農業を——。若手農家の代表として三浦さんに寄せられる期待は大きいですが、三浦さんの姿勢は明快です。

「毎日、当たり前のことを地道に、しっかりと行っていく。その繰り返ししかありません」

言い換えれば、持続可能性はすぐに叶えられるものではなく、日々の積み重ねの先にしかないもの。そしてそれは、何十年と営みを続けてきた葉たばこ農家だからこそ、実感を持って言える言葉なのかもしれません。

今回のサステナブルなポイント「相互扶助」

1.

「困ったときの助け合い」が当たり前の風土

2.

情報共有を通して、共存共栄を

3.

地域に親しまれる産業であるために

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