JT UPCYCLE PROJECT #01
「葉たばこ」×「美濃和紙」
異色コラボが生んだサステナブルプロダクト

2022/12/1

JTが目指すサステナビリティのひとつに、日本のたばこ産業全体の持続可能性を探り、それを未来につなげていくことがあります。それは、たばこの製造過程で地球環境に与えるインパクトを最小限に抑えたり、地域経済に貢献したり、また農業課題の解決・改善などに取り組むなど、さまざまなテーマがあります。

本特集「JT UPCYCLE PROJECT」では、たばこ製造から生まれる資源を再活用し、新たな価値を生み出したプロジェクトにスポットライトを当てていきます。「UPCYCLE」は「創造的再利用」とも呼ばれ、サステナビリティを考える上では重要なキーワードです。

1回目では、葉たばこの「幹」が美しい「和紙」に生まれ変わったプロジェクトをご紹介します。意外に思えるタッグですが、実はそこには長い伝統やものづくりへのこだわり、そしてサステナビリティへの思いなど、いくつもの共通点がありました。プロジェクトにご協力いただいた丸重製紙企業組合の辻晃一代表と、本プロジェクトを担当したJTの鍵谷竜二、大山功太郎の3人にお話を伺いました。

伝統工芸新時代の旗手と、JTの邂逅

「本美濃紙」の手漉和紙技術は、石州半紙(島根県浜田市)、細川紙(埼玉県小川町・東秩父村)と共に2014年にユネスコ無形文化遺産に登録された

岐阜県の中心部に位置する美濃市。山々に囲まれた風光明媚なこの街は、古くから和紙の産地としてその名を馳せてきました。

「奈良の正倉院には美濃和紙による戸籍用紙が所蔵されており、約1300年の歴史があるといわれています。ここは、清流がそそぎ、水が綺麗なことや、紙の原料となるコウゾなどの植物に恵まれており、和紙づくりには最適な環境だったんです。長良川を経て岐阜城城下町(今の岐阜市)で提灯や和傘に使用されたり、近江商人の手によって江戸や京都や大阪といった大都市に供給できるという地の利もありました」

そう美濃和紙の歴史を紐解いてくれるのは、和紙メーカーの丸重製紙企業組合(以下:丸重製紙)代表の辻晃一さん。丸重製紙も創業こそ1951年ですが、辻家は少なくとも江戸時代から代々和紙に関わる仕事を営んできた家系とされています。美濃市は、和紙製造のピークだった明治時代には、近隣の集落で約3700軒、実に9割以上の家が和紙づくりに携わっていたほどの一大産地でした。しかし、近代化と大量生産の波が押し寄せると安価な洋紙が主流となり、今では数少ない職人が昔ながらの手漉きで和紙づくりを行っている状況です。その中で、丸重製紙は機械化を果たし、企画・製造・流通までワンストップで手掛ける総合メーカーとして、和紙の魅力を多方面に伝えるべく挑戦し続けています。特に、サステナビリティの分野には力を入れており、CO2削減や森林環境に配慮した和紙づくりを心がけています。

丸重製紙企業組合代表の辻晃一さん。名古屋と東京でベンチャー企業に勤務後、家業であった和紙メーカーである丸重製紙企業組合を継ぐ。以降、和紙の新たな魅力を発信すべく直営店の開業や新たな商品開発なども実施。サステナビリティやまちづくり分野への取り組みも積極的に行っている

丸重製紙は2018年にFSC/CoC認証を取得している

そんな伝統工芸の新しい未来を担う辻さんとJT岐阜支店(※現在岐阜支社)のコラボレーションが始まったのは2020年のことでした。

「JTの企業活動において、地域貢献はとても重要なテーマ。地域に信頼されることが、持続可能なビジネスにもつながります。支店の同僚と意見を交わす中で出てきたアイデアが、美濃の伝統工芸である和紙とご一緒できないか、ということでした。そこでもともと地域活動で面識のあった方から辻さんをご紹介いただいたのがはじまりです」(鍵谷)

この時はJTが運営する「喫煙所マップ」のサービスを周知するカードを、美濃和紙を使って製作。評判も良く、何よりも和紙の技術や辻さんの想いに触れたことで、翌年、次なるプロジェクトへと発展していくことになります。

愛知支社で営業企画業務に従事する鍵谷竜二(当時岐阜支店所属)。「私たちも責任ある地域コミュニティの一員として、地域の方たちの信頼を得ることはますます重要になります」と、本取り組みの経験を活かし、地域貢献のあり方を追い求めている

葉たばこの幹が、美しき和紙に生まれ変わった

JTの原料グループに所属する大山功太郎は、グループ内で展開されるある活動を先輩社員より引き継いだ。

「ここ数年、国産葉の魅力訴求活動をグループ内で実施しておりました。その中で、葉たばこの残幹(収穫後に廃棄される幹の部分)をどうにか活用できないものか、とメンバー間で議論しておりました。残幹はごみ処理施設などで焼却処分を行うこともあります。少なからずCO2も排出しているでしょう。なにか人にも環境にも価値のある使い方はないか、と思案していたんです」

農家とともにより良い葉たばこの調達に励むJT原料グループの大山功太郎。2022年から今回のプロジェクトに参画した。

残幹は焼却処分以外にも、葉たばこ畑の土壌に鋤き込みするなどの処分方法もあります。しかし、それを実施した場合、病気予防の観点から農家さんが対策を講じる必要があります。そしてある時、あるメンバーが、社内SNSで「バナナペーパー」などの取り組みを知り、葉たばこの残幹と美濃和紙の技術をかけあわせて新しい価値を生み出せないか? と考え、鍵谷を通して辻さんにこのアイデアを話しました。辻さんの答えは、「やりましょう」。即答でした。

「和紙の素材以外で紙づくりをすることはこれまでもありました。でも、さすがに葉たばこは初めて(笑)。ただ、植物であればたいていのものは紙にできるという自信はありました。メーカーとして面白い挑戦だし、なによりJTさんと一緒にサステナブルな取り組みができることに意義を感じましたね」(辻さん)

かくして、お互いに初めてづくしのプロジェクトがスタート。まず、JT側で収穫の終わった農家さんを回り、残幹を集めます。その量、実に23.5キログラム(乾燥後の重量)。それらを乾燥させて丸重製紙に持ち込むと、後はプロの仕事。角釜で残幹を煮熟することで繊維を解きほぐし、木材パルプといった他の原料と混ぜ、叩くことで紙の性質を強くします。その後、ゴミを除き、紙として抄き上げ、乾燥を経て、サンプルは完成しました。

葉っぱを収穫したあとに残る葉たばこの幹。かなりの量にのぼるため、処分にも一苦労だ

丁寧な作業で進む和紙づくり。澄み切った水質が不可欠だ

「工程自体は変わりませんが、普段の原料より葉たばこの残幹は硬かったので、より丁寧に手でほぐしました。全体の原料のうち残幹は10%。これは異素材を活用した和紙づくりではかなり高い比率です。その結果、こうして紙のなかに独特の表情が生まれました」

辻さんがそう話すように、和紙の繊細な質感のなかに残幹の素材が溶け込むことで、ランダムに茶色の模様が浮かぶ風情のある逸品となった「残幹美濃和紙」。JT担当者の2人もその出来栄えに感動し、和紙を活かしたノベルティグッズをつくろうと動きます。そうして生まれたのが、「A4ファイル」と「卓上カレンダー」、そして喫煙所マップについて記した「カード」の3つのグッズです。

パートナーシップが意識を変える

「グッズ化にあたってはかなり悩みましたが、やはり私たちの取り組みを広め、メッセージを伝える手段として、営業時に活用できる3つに決まりました。実際にこのグッズをきっかけに、『いい取り組みをしていますね』と言っていただくことも増えましたし、私たちの想いを伝えるかたちとして良かったと思います」(鍵谷)

開発されたそれぞれのグッズには今回のプロジェクトの概要が記されています。その上で、A4ファイルは名刺を挿し込むことができたり、カレンダーは季節に応じた葉たばこ畑の光景と岐阜の名所を写した2種を用意するなど、話題性だけでなく実用性にも富んだアイテムになりました。

「こちらのリクエストに対して、和紙の表現力や印刷技術で全部応えてくれた丸重製紙さんには感謝しかありません。だからこそ、一回きりのプロジェクトではなくて、今後のたばこ産業のサステナブルな取り組みのスタートにしたい」(大山)

実際に、葉たばこ関係者やお客様に配った際にも良い反応があった。そして、JT社内にも変化が生まれました。

「実は今、これに続くアップサイクルのプロジェクトのアイデアを社内で出し合っているんです。やはり具体的な成果を手にすることで、社員にもより積極的に取り組む姿勢が育まれてきたように感じます」(大山)

残幹がうっすらと浮かび、風情ある表情となった「残幹美濃和紙」

JTとの取り組みを経て、辻さんにも改めて思うところがありました。

「パートナーシップの大切さです。国連の持続可能な開発目標の17番目にも、『パートナーシップで目標を達成しよう』という項目があるように、一人や一社では難しいことも、力を合わせることでできることはたくさんある。今回の残幹和紙もそうです。今後もサステナブルな和紙の魅力をさまざまなパートナーとともに発信していき、人々の意識を少しでも環境に向けられるようなものづくりに励んでいきたいですね」

ともに文化として長い歴史を有するたばこづくりと和紙づくり。その邂逅と協働は、2つの伝統産業そのものを“アップサイクル”するきっかけになるかもしれません。