インタープリター 五味 愛美さん

インタビュー

自然と人との関係性(全2回)

インタープリター 五味 愛美さん

自然を守る心を育て、
自然にやさしい生活を実践するためには、
どのようなことが大切なのでしょう?
2010年の夏、山梨県北杜市の清里高原に
インタープリター(※)をされている五味愛美さんを訪問。
ストレス緩和や癒し効果があるという森林療法や
インタープリテーションの秘訣について、お話をうかがいました。

インタープリター:自然が発するさまざまな言葉を人間の言葉に翻訳し、自然と人との関係性を教育する人。自然観察や自然体験などを通してプログラムの全体構成を自ら演出し、参加者との一体感を創出したりすることで、自然を守る心を育て、自然にやさしい生活の実践を促す。

  • 第1回
  • 第2回

森林療法とインタープリテーションがもたらすもの

「とことん」って面白いんです

―森林療法に熱心に取り組むようになったきっかけは?

自然体験型の学習プログラムなどを行っているキープ協会での1泊2日のプログラムを担当していたときの、ある出来事がきっかけだったんです。一人の女性の方が帰りがけに私の目をまっすぐ見て、「私、森がこんなに自分を元気に癒してくれることに気付いていませんでした。ほんとに森はすごいんですね。守らなきゃいけない存在ですね」と言ってくれたんです。短期間のプログラムでしたが、森を身近に感じてくれて、「森を守らなきゃ」と言ってくれたことに、驚きと嬉しさで“ぞぞぞっ”と震えを感じたんです。森林療法でこんなに森の見方が変わるんだって。

―そもそも森林療法とはどんなことをされるんですか?

実は、森林療法の内容は環境教育プログラムをインタープリテーションの手法で実施しているものと大きくは変わらないんです。何かを教えるのではなく、目に見えるものを使って、森のたくましさや繊細さ、時間の悠久の長さなどを体験しながら感じていただくことが、人の心に響いてくるのかなと思うんです。プログラムの中では、「この花は何ですか?」と聞かれれば答えますけど、普段はそんな話はしないんです。森林療法では、心が疲れている人には五感を一生懸命に使ってもらうんです。例えば、植物に触れるときには手袋を取って直接触ってもらって、葉っぱの細かな特徴までを感じてもらったりとか。

―五味さんの活動のキーワードにある「発達五感」とは?

五感というのは、もともと誰でも持っていると思っていたんです。でも、普段は機能していないんだなと感じたことがあります。例えば、耳。耳は意識しなくても聞こえているものだと思っていたんですが、森の中で鳥の声を探してもらってもなかなか鳥の声を探すことができない方がいらっしゃいます。そんなとき、一番遠くから聞こえる音に注目したり、一番近くから聞こえる音に注目したりして耳を立体的に使えるように意識します。そうすると、鳥の声が複数聞こえてくるんですよ。“五感って訓練すると発達するんだ”と感じた一コマでした。

そのほかにも、目の例です。例えば、キノコがあるとします。指導者の方が見つけたものをただ見るだけだと、受身になってしまってそれで終わってしまいます。そこで、皆さんにとことんキノコを探してもらうんです。すると、すぐにキノコを見つけられる“キノコ目”が養われるんです。この“とことん”というのが結構面白いんですよ。とことんすることで、機能していなかった五感がどんどん発達すると思うんです。

皆と一緒になって参加することが大事

―インタープリテーションでの秘訣って何ですか?

それぞれのインタープリターに特徴があります。私の場合は、私自身が感性を研ぎ澄まして、森で発見したことにまず驚くことですね。これを“共感型”って自分では言っています。森の中では予想外のものが存在しています。この「予想外のもの」が存在しているという自然界の空間が大切です。プログラムの中で花や虫やキノコを探すときにも一緒になって声を掛けてあげて、あきらめずに探すことが大切ですね。探して見つけたときの感動をみんなで共有することも大事にしています。森に馴染めば参加者がいろんなものを見つけてくれるんです。

―あきらめずに皆が探すことが大事なんですね

インタープリテーションのプログラムの中では森の素材を使って、森そのもののことを知ることができますし、同時に自分自身のことも知ることができます。自分が行動することで、自分が何に興味を持っているか、自分が何に興味を持っていないかなど、自分のことが少し分かるようになります。つまり、インタープリテーションプログラムの中で意識しているのは、自分自身だということに気付いてもらうことだと思うんです。森という空間は自分自身を知る手助けをしてくれるのです。インタープリテーションプログラムや環境教育プログラムを“関係教育”とか“人間教育”と呼んでいる方もいらっしゃいますが、その通りだなと感じます。

―そのときの工夫は?

参加されている方々をよく観察することを心がけています。楽しいのか、つまらないのか。ちゃんと五感を使っているのか、五感ではなくて頭を使っているのか、観察しています。それなので一度に多くのお客様を連れて案内することは難しいです。ネイチャーゲーム(※)をするときにも、私も皆さんと一緒になって探し物をするんです。皆さんのされている会話に耳を傾けることも大事ですね。その会話の中の様子で参加されている方の要望を見極めて予定していたプログラムを変更することもあります。

ネイチャーゲーム:遊びを通して、自然の不思議や仕組みを学べる、大人も子どもも楽しめる環境教育プログラム

違いが分かるって幸せなこと

―今、できるとしたら何をしたいですか

もうすでにしていますが(笑)、地球で遊びたい。この地球に生きていることが幸せだなって心の底から感じるのです。そのためにもっと地球を感じたい。地球も、海も、農業も満喫したい。地球のマグマ、熱さにも触れたい。日々の困難があるけれど、一つひとつ乗り越えて、地球の自然に支えられている。そんな「人間像」って素敵だと思うのです。地球を感じるために、遠くの国に行く必要はありません。まずは自分の住んでいる地域の自然を知っておくことが先です。自分の地域を知っておくと、地球上を旅した時、別地域の自然との違いを見て、地球の多様性に驚き、類似性に気付くことができます。「地球って豊かだなぁ、地球って一つだなぁ」って心の底から感じるでしょう。

もっと興味のある方は花とか木とかの名前を知ってくると、さらに違いがよくわかるでしょう。それって幸せなことだと思うんです。そうすることで自分の存在価値も見えてきます。自分の地域を観察し愛着を持ち、地球を観察し愛着を持ち、自分を観察し愛着を持ち、いつも心をキレイに生活できたら嬉しいなと感じます。
日本は季節が移り変わる地域です。明日は、どんな自然をあなたは感じることができるでしょうか?

五味 愛美(ごみ あいみ)

五味愛美さん プロフィール

五味 愛美(ごみ あいみ)
財団法人キープ協会を経て,現在フリーランスのネイチャーインタープリター。五味五感企画主宰。静岡県出身。神戸女学院大学人間科学部卒業。学生時代は植物生態学を専攻。「森」「発達心理」「発達五感(造語)」「地球」「八ヶ岳」「森林療法」をキーワードに活動している。著書に「森林療法あらかると」(共著・全国林業改良普及協会)。
山梨県北杜市在住。
五味愛美さん インタビューINDEX
第1回 インタープリターに学ぶ森での過ごし方
第2回 森林療法とインタープリテーションがもたらすもの