「フェロモントラップ」って知ってる? 世界100カ国で活躍中の、グローバルでニッチな商品とは!?

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ともこ

こころノート編集部

仕事と育児を両立させながら、こころノート編集部リーダーとしてスタッフをけん引。元新聞記者の経験を生かし、ビジネスから暮らしまで幅広いジャンルをカバー。中でも衣食住など、生活にまつわるテーマの取材に力を入れている。猫好き。

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JTグループの企業が手がける、害虫対策の商品って?

 

​​先日、自宅のキッチンでとても小さな虫を発見! どこから来たのかと思い、辺りを探してみると、棚の奥の小麦粉が発生源だったよう。大ショックです……! 小麦粉は処分し、周辺は徹底的に掃除したけれど、殺虫剤も使ったほうがいいのかしら? でも、うちには子どもがいるし、キッチンで使うのも抵抗感があるなあ……。

 

そんなことを悩んでいたら、以前、JTグループの企業を調べていた時に見つけた、害虫対策の商品を扱う「富士フレーバー株式会社」のことが頭をよぎりました。富士フレーバーでは主にたばこの香料の開発・製造を手がけていますが、ホームページを見ると、害虫対策商品は「フェロモントラップ」という名前で扱っているそう。でも、どんな商品なんでしょうか? そもそもなぜ富士フレーバーがこの商品を取り扱っているの? ……などなど、いろいろな疑問が湧き、さらにリサーチしてみました。

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化学合成物を作る技術を応用し、フェロモントラップに

 

​​富士フレーバーは、たばこの香料を開発・製造を通して磨き上げた化学合成技術を応用して、昆虫のフェロモンを使った「フェロモントラップ」を開発・製造しているそうです。フェロモントラップの国内市場でのシェアは高く、海外でも広く使用されているとのこと! 害虫対策の分野で、グローバルに活用されているんですね。

 

そんな「フェロモントラップ」がどんなシーンで使われているか、​もっと詳しく知りたくなり、富士フレーバーで国内営業を担当する礒﨑玲次(いそざき りょうじ)さんと、海外営業を担当する佐々木敦司(ささき あつし)さんに取材してみました。

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「捕獲して退治」ではなく「モニタリング」がもたらす効用​

 
ともこ: 「フェロモントラップ」とはどういうものなのでしょうか。
 
礒﨑さん: そもそも「フェロモン」ってあまり聞き慣れない言葉ですよね。虫は「フェロモン」と呼ばれる化学物質を体から出すことで、同種の虫同士でコミュニケーションをとっているんです。虫にとっての言葉のようなものです。フェロモンにはいくつか種類がありますが、子孫を残すために異性間で使われる「性フェロモン」や、雌雄一緒になって集団を作るときに使われる「集合フェロモン」には、同種の虫を引き寄せる特性があります。この特性を利用して特定の害虫を誘引し、粘着紙で捕まえるのがフェロモントラップです。
 
ともこ: 害虫をフェロモンで引き寄せて、捕まえるから「フェロモントラップ」なんですね。うちのキッチンに出た害虫にも使えるのでしょうか?​
 
佐々木さん: 基本的に当社のフェロモントラップは、企業向けに販売しています。そして、害虫を捕獲して退治することが目的ではなく、「モニタリング」のためのものなんです。
 
ともこ: 「モニタリング」とは……? どんな風に行われるのですか?
 
礒﨑さん: 簡単にいうと、設置場所での害虫の生息数を調べることです。ある害虫が、いるかいないか、いるとしたらどれだけいるのかを知るために、フェロモントラップで捕まえて調べます。工場や倉庫など、広い施設の中のどの辺りに、いつ虫が発生するのかを監視・観察するためのものなんです。
 
害虫が多く発生している場所や時期が分かれば、特定の場所や時期だけに殺虫剤を使用して早期対策ができ、薬剤の使用量を抑えられます。環境や人への影響を考えると薬剤の使用はできるだけ避けたいですから、モニタリングをして、薬剤使用が最小限になる、効率的な場所や時期を特定するんです。
 
佐々木さん: モニタリングは、害虫の発生源探索にも用います。通常よりも狭い間隔でフェロモントラップを置いて、どの辺りでたくさん捕獲されているか確認することで、発生源を推定できます。発生源、すなわち巣が分かれば害虫の根絶も目指せますし、「発生したら駆除する」というその場しのぎの対処ではない、根本的な対策ができるんですよ。
 
ともこ: なるほど! 薬剤を減らしながらも効果のある対策ができるのは安心です。具体的には、どんなところで使われているのですか?
 
礒﨑さん: 国内では、米や小麦粉などの粉類や乾物を取り扱う、食品加工工場・倉庫が多いですね。加えて、古い書物がある博物館や、医薬品の工場・倉庫、たばこ工場、畳に関連する場所でも使われています。
 
佐々木さん: 海外でも使われる場所は国内とほぼ同じですが、たばこ工場の比率が高いですね。 珍しいところでは、紙幣を印刷している工場から問い合わせを受けたことがあります。当社商品が使われている国は100カ国以上で、東南アジアを中心に、欧米やアフリカなど、南極以外の全ての大陸で利用されています。
 
礒﨑さん: モニタリングを行うのは基本的に工場や倉庫など事業者の施設。それらの施設が委託している害虫対策の専門業者に対してフェロモントラップを販売するケースがほとんどですね。
 
ともこ: 国内外問わず、幅広く使われているのですね。フェロモントラップは具体的にどうやって使うんですか?
 
礒﨑さん: 例えば「ニューセリコ」という商品はタバコシバンムシを対象としたものです。タバコシバンムシは体長が2~3ミリほどと小さく、小麦粉や米粉に限らず乾燥した食品全般が好物で、世界中に分布する害虫。これを誘引する「ニューセリコ」はシンプルな構造をしており、基本的には壁に掛けて使います。フェロモンを染みこませた錠剤状の誘引剤を、商品本体の粘着面にある所定の位置に貼り付けると、そこからフェロモンが揮散されて、有効範囲である半径5メートル内にいるタバコシバンムシを誘引する仕組みです。
 
礒﨑さん: ニューセリコでは、主にメスがオスを呼ぶときに使う性フェロモンを使っているため、誘引される個体の多くはオスの成虫となります。飛んできていきなり粘着面に付くのではなく、最初はニューセリコ本体の近くに着地して、メスを探して歩いているうちに粘着紙に捕まる仕組みです。粘着紙はあえて害虫が少しだけ歩けるくらいの粘着度合いなので、粘着紙の端だけに留まらず、たくさんの虫を捕まえることができるんです。
 
佐々木さん: また、置いて使う「トリオス」という商品もあります。これは、床を歩く害虫を対象としたもの。こういった害虫は脚の感覚が敏感で粘着紙を嫌うため、落とし穴のような仕掛けを作って捕獲できるようにしているんですよ。また、トラップの入り口は、対象となる害虫が好む高さに設定しています。
 
ともこ: 害虫の習性を徹底的に研究した上で作られている商品なんですね。奥が深いです……。そんなフェロモントラップをどのように広めたいか、お二人の今後の展望をお聞かせいただけますか。
 
佐々木さん: 海外での販売先は今のところたばこ業界が中心です。これは裏を返せば、他の業界にまだまだ大きな可能性があるということ。さらなる販売拡大に力を入れていきたいと思っています。特に「トリオス」は、たばこ業界では見られない徘徊する害虫を対象とするものですので、販売を拡大する上で主力となっていくものだと思っています。
 
礒﨑さん: 国内では、「ニューセリコ」と、メイガ類(※)を対象とする「ガチョン」という商品はすでに広く普及していますし、シェアも高い。一方で「トリオス」はまだ可能性があるので、広めていきたいのは海外と同様です。
 
また、既存商品の販売だけでなく、お客様の声を聞きながら新しいフェロモントラップ商品の企画・開発にも関わってみたいですね。以前、お客様のご要望を社内の開発部門に提供し、商品改良をして喜んでもらえたことがあって。こうしたことを積み重ねれば会社の発展にも寄与できますし、なにより商品という形で、自分の仕事を残せたらうれしいですよね。

※メイガ類……穀物やその加工品を好む、ガの仲間の害虫

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暮らしの中の豊かな時間を、私たちの見えないところで支える​

 

今回、取材をしてみて、ただ虫を捕獲して退治するのではない、モニタリングという奥深い世界を知ることができました。また、たばこや食品、医薬品の工場では、むやみに殺虫剤を使うのではなく、モニタリングを通して薬剤の使用を抑えた害虫対策を行っているところもあり、それにフェロモントラップが大きく貢献していることも分かりました。

 

こうした取り組みは、私たちの暮らしの安全を守るために行っていること。普段の生活でフェロモントラップを目にすることはほとんどありませんが、安心して食事を楽しんだり、医薬品を使えたりする当たり前の日常は、こんな形でも支えられているのだな、と実感しました。フェロモントラップは安心感という「豊かさ」を支えてくれている、影の立役者といえるかもしれません。

profile

担当社員の
ひとことプロフィール

(左)礒﨑玲次さん。富士フレーバー 営業部 国内営業担当。最近、心の豊かさを感じた瞬間は、実家へ帰省したとき。家族そろって大きなサーバーでビールを飲み、みんなの笑顔を見て豊かな気持ちに。
(右)佐々木敦司さん。富士フレーバー 営業部 海外営業担当。最近、心の豊かさを感じた瞬間は、高校時代から仲の良い友人と過ごしたとき。それぞれが結婚して子どもができてからも家族ぐるみの付き合いが続いていて、子どもたち同士が遊んでいるのを見て言葉にできない感慨を覚えた。

※プロフィール掲載内容は2025年2月の取材当時のものです

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