Subcast Interview アントマン編

地表数センチ。
アリ探求から広がる世界

アリの世界の奥深さに向き合い続ける島田 拓さん。中学時代の女王アリとの出会いから始まった観察は、やがて展示やメディアへと広がり、多くの人に“アリの魅力”を伝える活動へ育ちました。その背景には、底のない奥深さに惹かれ、静かに根気強く向き合い続ける探求心がありました。

島田さんがアリに熱中するようになったきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?

もともと生きもの全般が好きだったのですが、中学生の時に、日本で最大級のアリであるムネアカオオアリの女王アリを偶然見つけたことが一番のきっかけでした。体長18mmの存在感は圧倒的で、見た瞬間に“女王だ”と分かるほど。その女王アリを持ち帰って飼育したところ、卵を産み、幼虫に口移しで餌を与え、約1ヶ月半後には働きアリになったんです。

「小さなアリが、自分の子どもを育てている」――その姿を目の当たりにした時、言葉にならないほど感動しました。知識としては知っていても、実際に自分の目で見ると衝撃が違う。多くの昆虫は子育てをしませんが、アリは家族で協力して子育てをするんです。その営みに魅了され、“アリの世界”にのめり込んでいきました。

その後、島田さんは、アリの専門家として多様な活動を広げられていますね。

はい。アリの子育てを見て5年ほど経った頃、この面白さを多くの人に伝えたいという想いから、アリの紹介や販売を行う「AntRoom(アントルーム)」を立ち上げました。当時はアリを飼育する人がほとんどおらず、ビジネスになる状況ではありませんでした。それでもアリの魅力を伝え続けるうちに、渋谷や原宿のお店から展示依頼をいただいたり、雑誌やテレビの取材につながったりと、少しずつ輪が広がっていきました。本業でペットショップに勤めていた時期もありましたが、アリ関連の活動が徐々に仕事として成り立つようになり、十数年前からは“アリ一本”の人生です。コツコツ続けてきたことが、気づけば仕事になっていました。

アリの探求で、特に面白いと感じるところを教えてください。

やはり、「引っ越し行列」の観察ですね。「引っ越し行列」とは、アリのコロニーが古い巣から新しい巣へ、女王アリや働きアリ、幼虫アリやさなぎなどを全て運び出して移動すること。これがとにかく面白くて。一連の流れを見るだけでも感動的なのですが、さらに興味深いのは、その列の中に「好蟻(こうぎ)性生物」と呼ばれる、アリと共生して一緒に暮らしている虫たちが紛れていることです。彼らはアリに擬態をして行列に寄り添い、時にはアリに運ばれていくことさえある。研究がまだ進んでいない分野なので、 “未知”が山ほど残されています。どんな生きものが紛れているのか、どんな行動が見られるのか……その可能性にワクワクして、私は10時間以上も行列を見ていられるんです。

10時間以上もですか! それは大変なのではないでしょうか?

もちろん、身体的な大変さはあります。ずっと同じ体勢で観察するので体中痛くなりますし、蚊やダニやヒルに刺されてしまうこともあります。でも、まったく飽きないんですよ。どの国のどのアリを前にしても、引っ越し行列を観察していると、世界で誰も知らなかったような新種に出会えるかもしれない――それは、私にとって夢のような時間です。だから一瞬たりとも目が離せず、気づけば10時間があっという間に過ぎ去ります。

また、新たな大発見がなくても、目の前の小さな動きひとつひとつが面白くて、ずっと眺めていられます。同じ種類のアリでも、その日の気温や光、群れの状態で行列の“表情”が変わるので、毎回新鮮に驚けるんですよ。自分でも「10時間もアリの巣を見続けるなんて」と思うこともありますが(笑)、私にとっては、世界が静かに広がっていくとともに、心が満ちていく体験でもあります。

島田さんにとって「心豊か」になれる、アリ探求の活動において、どんなことを大切にされていますか?

私が大切にしているのは、「自分の目で見て、面白いと思ったことを大事にする」という姿勢です。面白いと思ったら、さらに突き詰めて調べて、納得のいくまで探求してみる。そして、すぐに答えを求めるのではなく、“長く見続けること”。これは本当に重要だと感じています。

私自身、アリを見続けて30年ほどになりますが、大発見があるのは数年に一度。でも、それを積み重ねれば、気づけば膨大な数の発見になります。どんな世界でも短い時間で分かることには限界がありますし、私自身も、アリのことをまだ理解しきれていないと感じています。でも分からないからこそ、奥深さを感じてもっと探求したくなる。“底の見えなさ”が、私の探究心をずっと支えてくれています。

最後に、島田さんの「心豊か」な生き方に共感する読者の皆さんへ、メッセージをお願いします。

夢中になれることがあると、人生は本当に豊かになります。だからこそ、まずは自分が「面白い」「興味深い」と感じた瞬間を大切にしてほしいと思います。大きな理由がなくても、説明できなくても、「なんだかワクワクする」という感覚は意外と確かで、放っておくのはもったいないんです。私の場合はたまたまアリでしたが、分野なんて何でも構いません。いきなり詳しくなる必要もありません。少し調べてみる、もう一度見てみる、ほんの数分でも続けてみる——その小さな積み重ねが、気づけば自分だけの世界や時間につながっていきます。

それから、好きなことに自信を持ってほしいというのも、強く伝えたいことです。虫好きは小学校低学年くらいまではたくさんいますが、成長するにつれて「変わってるね」と言われたり、「そんなの好きなの?」と笑われてしまうこともある。でも、そんな声を気にしなくていいんです。好きになった自分を信じて、胸を張って続けてほしい。結局のところ、夢中でいられる時間がいちばん強いし、いちばん価値がありますから。

だから皆さんもどうか焦らず、気になるものに気長に付き合ってみていただきたいですね。その時間は、きっとその人だけの豊かさにつながります。自分の“面白い”を信じて、少しだけでも踏み込んでみてください。それが思いがけない出会いや喜びにつながる——私はアリとの時間の中で、それを何度も実感してきました。

プロフィール

島田 拓さん
東京都生まれ。アリ探求家。2001年に、アリの生体や飼育キットを販売するネットショップ「AntRoom(アントルーム)」を開業。昆虫写真家としても活躍し、専門書や論文、図鑑などに写真提供を行っている。著書に『ぜんぶわかる! アリ』、『アリとくらすむし』(ポプラ社)、共著に『蟻客 アリと共に生きる虫たち』(角川書店)、『アリの巣の生きもの図鑑』(幻冬舎)など。