社外取締役鼎談

社外取締役鼎談
JTでは資本市場との対話を重視し、その強化の一環として、2023年から社外取締役が機関投資家との面談に参加しています。実際に対話に参加した社外取締役より、そこから得られた気付きをはじめ、社外取締役としての役割や、JTグループの成長に向けた課題と期待について語っていただきました。
投資家と対話されたことで、どのような気付きや学びがありましたか?
庄司投資家の皆さんとの対話は、JTの事業や取り組みをよりよく理解していただく上で、とても重要なことだと考えています。対話への参加は、JTが資本市場において魅力的な存在であり続けるための適切な情報発信について知り、考える機会となっており、非常に意義深く感じています。特に日本市場では、制度上の支援もあり個人投資家を増やす方向に向かっている中で、JTの個人株主数も大きく増えています。JTのすべての株主と直接的にコミュニケーションをすることは難しいものの、その一部とはいえ、株主の皆様と直接に対話することは大変貴重な機会です。
山科企業価値向上に向け、JTはIR活動を含めた投資家エンゲージメントの強化を図っており、私たち社外取締役も高い関心を持っています。機関投資家と直接対話を行い、意見交換ができたことは貴重な経験でした。
社外取締役は独立・客観的な立場から外部の目で見ますが、取締役会の一員でもあるため、外部から見えにくい取締役会の実効性や議論状況などについて我々なりの認識、評価についてお伝えすることができましたし、また投資家の懸念や期待、その背景にある問題意識についてもより深く理解することができました。投資家の関心、問題意識については執行側にも共有していきますが、自分としても内容をキャッチアップし、考えを深める機会になったと感じています。
長嶋私も総論としては、同じ思いを持っています。今回の対話を通じて、機関投資家の皆様がスキルマトリクスから読み取れることだけでなく、取締役会メンバーの考え方や個々のアジェンダへの関与の状況にも深い関心を持っていることを強く感じました。それぞれ異なるバックグラウンドを持つ私たち社外取締役が取締役会に参画することの責任の重さを改めて実感するとともに、投資家が事業はもとより、ガバナンスの質やESGへの取り組みの進化を重視していることも、率直な対話を通じてリアリティをもって理解できました。
社外取締役は経営を監督する立場であるため、ビジネスの現場とは一定の距離がありますが、だからこそガバナンスの観点からの貢献が求められ、同時に注視されているのだと再認識しています。
投資家からの意見や指摘は、取締役会での議論にどのように活かされていますか?
庄司印象的だったのは、事業ポートフォリオに関する意見・指摘です。JTは、多角化と国際化を進め、民営化後は自由競争の中で市場を切り拓いてきました。そうした中で展開してきた各事業についても、成長性などについて、丁寧に検証・議論を重ねてきました。
現在は、「どのような事業ポートフォリオが企業価値向上に最適か」という問いを、市場から常に受けているという認識です。そのため、資本市場や投資家からの期待・指摘にどう応えるかは、取締役会でも真剣に議論しています。事業ポートフォリオに関する議論は長期的視点に立った検討であることから、具体性を伴った発信は容易ではありませんが、JTが課題を認識し、事業ポートフォリオについてどのような考えを持っているかを適切に開示していくことは、資本市場から信頼を得るためにも重要であると考えています。
長嶋私は独立した立場のアウトサイダーとして、JTグループのポテンシャルやリスクを客観的に捉え、経営への参画を期待されていると考えています。その上で、アルコールやコーヒー同様に人生を彩る嗜好品の持つ価値には共感する部分があるため、たばこ事業の存在意義を定性的な観点から、見解を申し上げたこともありましたが、対話した機関投資家の方は、定性的な価値であっても普遍的な数値化がされていないと企業価値として見極め難いと話されたことが記憶に残っています。こうしたやり取りは、JTの取締役会におけるアウトサイダーとしての自分の軸足をどこに置くべきかを改めて見つめ直す機会ともなりました。

山科近年、JTでは、日本と海外に分かれていたたばこ事業の「ワンチーム化」が進められてきました。これにより、海外との距離が広がっているのではないか、どのようにガバナンスしているのか、社外取締役としてどう関与しているのかといったご質問をいただきました。JTは、買収した事業の成長を現地ビジネスに精通したJTI経営陣に委ねつつも、グループ全体としての統制をどう利かせるかという難題に長年向き合ってきました。試行錯誤を経て築いてきた現在の仕組みはJTの強みの一つと捉えていますが、外部から見ると「誰がどのようにガバナンスしているのか」が見え難いというご指摘ももっともだと感じます。今ワークしているから大丈夫、ではなく、今後も変化に伴ってワークする仕組みであるためのアップデートについて、これまで以上に積極的に確認をしていきたいと思います。
取締役会の実効性や監督機能を高める上で、社外取締役としてどのような貢献ができるとお考えですか?
庄司企業価値を高めるという共通のベクトルのもと、取締役会として意思決定するための支援や、リスクがあった場合の対応策の検討に助言を行う役割を我々社外取締役は担っています。JTの各事業領域の専門家ではなくとも、これまでのキャリアを通じて培った事業判断の勘どころや経験から具体的な助言を行うことが可能です。これは実際に執行側からも期待されている役割だと認識しています。また、実際にオペレーションを担っている方々の現場を訪れ、対話する機会を定期的に持っており、「百聞は一見にしかず」で、現地で直接話を聞くことで得られる情報や実感は、取締役会の審議に参加する上でも役立っています。
JTの取締役会は、事前の情報共有や審議する優先順位がクリアになっており、社外取締役に求められている役割を発揮するための環境が常にアップデートされ、適切に運営されていると考えています。
山科昨年の取締役会の実効性評価では、一人ひとりに対するインタビューがあり、その内容が全体に共有されています。そうした取り組みを通じて感じたことですが、社外取締役や社外監査役として、各自のスキルや経験を通じて発言をするといった個人としての貢献も重要な一方、社外役員の多様なバックグラウンドを掛け合わせた取締役会の議論活性化への貢献もできないかと考えています。
例えば、他の社外役員の発言を受けて私が意見を補完し、さらに発展的な議論を促すような場面もあります。社外役員の間で各自の課題感について自由に意見交換できる場があると、取締役会としての実効性がより高まり、社外役員としての貢献も一層広がっていくのではないかと考えています。

長嶋社外役員間のダイアログの具体例をお話しします。社外取締役の事業理解を深めるため、現場訪問する機会があります。現場に伺うとさまざまな気付きがありますが、その気付きが風化しないタイミングで社外取締役の間で共有し、意見交換する場を持っています。各人のバックグラウンドが異なることで、同じ対象を視察した上でも、気付く観点が異なることがあり、相互に示唆を深める機会につながっていると感じています。
山科社外取締役間の情報共有は、単に情報量を増やす共有ではなく、社外取締役それぞれの見方や問題意識の共有につながっていると思います。場合によっては、現場と接する機会の多い社外監査役にも参加いただくことで、さらに深い対話が可能になると感じています。互いの経験や視点を掛け合わせることで議論はより豊かになり、「これは取り上げるべき課題だ」という共通認識が生まれれば、取締役会へのより有用なフィードバックにもつながると期待しています。
社外取締役としての抱負や、今後JTに期待することはなんですか?
山科私のバックグラウンドはファイナンスセクターですが、長きに亘り金融サービスの枠を超え、新しいものに取り組んできました。時には「祖業は何だったのか」と思うほど変化を重ねながらも、常に半歩先を見据え、まずはトライしてみる姿勢を大切にしてきました。もちろん困難もありましたが、挑戦の中から生まれた事業が、現在ではいくつかの柱として定着しています。こうした経験から、たばこ事業に限らず、「心の豊かさを、もっと。」というJT Group Purposeに沿った新たな事業開拓が今後ますます重要になると感じています。
従来のたばこ事業とは異なるマインドで、アジャイルに──すなわち「やりながら考える」スタイルで──柔軟に取り組むことが求められます。フットワークの軽さ、スピード感、そして失敗を許容し、それを糧として前進し続けるカルチャーこそが、これからのJTにとって重要な要素だと考えています。
長嶋「失敗は成功の母」といわれますが、失敗を丁寧に振り返り、次につなげる姿勢は非常に重要だと感じています。ただし、時間は待ってくれません。ある選択肢にチャレンジし「これ以上、進むべきではない」と分かるだけでも前進であり、その時点でアングルを変え、新たな方向へ転進すること、その決断の速やかさが、これまで以上に求められていると思います。かつて、JTの株主総会で私宛てに頂いたご質問ともつながるのですが、さまざまなモデルの事業をリードしてきた私の出自から、もっとアジャイルに、もっと柔軟に、と執行側に発破をかけることも求められていると認識しています。経営や事業の方向転換を意味するピボットの必要性をこれまで以上に意識しつつ、貢献していきたいと考えています。
重ねて、現在の世界情勢を鑑みると「グローバル・インテリジェンス」をはじめとした世の中の変化に対する高いセンシティビティがより一層重要になります。執行側の判断の背景を正しく理解し、常に適切な監督・助言を可能とするため、自分自身をアップデートしていく必要性を感じています。
庄司私はバックグラウンドにIT分野の経験がありますが、今後AIがより生活に浸透していく中で、喫煙習慣そのものにもAIを活用したいろいろなサポートが提供され、たばこの愉しみ方の幅が広がる時代が来るのではないかと考えています。例えば、自動車が「運転するもの」から「運転してもらう移動手段・空間」へと進化しているように、たばこも単なる嗜好品から、「心の豊かさ」をはじめとする新たな付加価値を提供するものへと変容、発展する可能性を感じています。自身の知見が、こうした未来を見据えた議論の場でも活かされれば、大変意義深いと感じています。
JTには挑戦を後押しする前向きな文化と、自律的に行動できる環境が根付いています。この素晴らしい企業風土を維持し、より活性化できるよう、引き続き客観的な立場から支援していきたいと考えています。
