特集:会長・社長インタビュー 会社化40周年を迎えたJTグループのこれまでとこれから 取締役会長 岩井 睦雄/代表取締役社長 寺畠 正道

特集:会長・社長インタビュー

会社化40周年を迎えたJTグループのこれまでとこれから

会社化40周年を迎えたJTグループのこれまでの成長の軌跡とパーパスが導く未来への挑戦について、岩井取締役会長および寺畠代表取締役社長に谷本有香氏がインタビューしました。

JTは会社化40周年を迎えました。設立当時のお話をお聞かせください。

岩井私は日本専売公社が1985年に日本たばこ産業株式会社となる直前(以下、「会社化」)の1983年に入社し、40年以上在籍していますが、JTグループは一言でいうと「精神が若い」会社であると思っています。当社の前身となる1898年の大蔵省専売局設置から100年以上の歴史があるものの、会社化後も自分たちが完成されたと思うことはなく「進化し続ける」「外部から学び続ける」という姿勢を貫いてきました。

1949年からの日本専売公社時代は公共企業体として国内に限定した事業を行っていましたが、当時の先輩方は「世界に挑戦したい」「新たな事業に取り組みたい」という強い内発的な意思を持っていました。1985年の民営化・会社化により、経営判断や投資を自らの責任で行える企業へと進化し、諸先輩方の長年の願いが実を結びました。

寺畠私が入社した1989年、当社はすでに会社化され、「国際化」と「多角化」を軸に大きな変革を進めていました。「変わっていくんだ」という強い意思とともに、「まずは他の民間企業に追いつこう」という意識で、他の日本企業をベンチマークしながら成長を目指していました。そしてさらなる高みを目指すべく、グローバル企業への転換を図る流れが生まれました。こうした「現状に満足せず、常に進化する」という考え方は今日までずっと引き継がれていると思っています。

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「常に進化する」というJTグループの志向は、もともと会社の根底に「DNA」としてあったのでしょうか?

岩井当社グループは、危機や転機を迎えたときにこそ、その真価を発揮してきた企業です。例えば、会社化直後のプラザ合意による為替の急激な変動や、1987年の輸入紙巻たばこの関税無税化などにより、外国メーカーとの競争は激化し、当社は国内のたばこ市場シェアを一気に失うことになりました。

こうした外部環境の変化に対応するため、当社は大きく変革を遂げてきました。単に受動的な対応にとどまらず、例えば将来のグローバル化を見据え、世界基準のたばこ製造技術を学ぶ機会としてグローバルな紙巻たばこ銘柄である『マールボロ』のライセンス契約を活用する等、世界水準の技術や事業運営の知見を深めながら成長してきました。こうした、危機を脅威ではなく、成長の機会と捉え、変革を重ねてきた精神こそ、当社グループのDNAの一つだと思います。

寺畠最終消費者であるお客様を見て、グローバルに自由にビジネスを展開する考え方は、代々受け継がれています。今も現場レベルまで「コンシューマーセントリック(お客様を第一に考える)」の意識が根付いており、これも当社グループのDNAの一つです。この精神があるからこそ、メーカーとしてブランドをしっかりと育て、優れた商品をお客様に提供し続けられています。これらの精神を大切にする価値観は社内に根付いていますし、これからも継承されていくものと考えています。

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会社化してからの40年、世界経済や業界を取り巻く環境に大きな変化があったと思います。
その中でJTグループが成長を遂げることができた背景について、お伺いできますか?

岩井当社グループにとって最大の転機となったのは、1999年の米国RJRナビスコ社からの米国外たばこ事業の買収です。それまで多角化を進め、さまざまな事業に挑戦しましたが、本業と異なる分野ではなかなか成功が難しい場面も多くありました。

そうした中、自分たちの知見もあり、本業であるたばこ事業において飛躍する機会としてこの大型買収を決断しました。これを契機に国際展開を加速させ、現地経営に深く関与しながら自分たちなりのマネジメントを確立し、成長を遂げてきました。

また、新規事業についても経営資源を集中させるべく、事業の選択と集中を進め、その結果、現在の事業体制を構築し、持続的な成長を遂げてきました。

寺畠当社は会社化以降、「国際化」と「多角化」を軸に成長を進めてきました。中でも国際化については1992年頃から本格的に取り組みはじめ、英国のマンチェスタータバコ社の買収に端を発します。これを“ホップ”とし、次に“ステップ”として1999年に米国RJRナビスコ社からの米国外たばこ事業、2007年には英国ギャラハー社を買収し、海外たばこ事業の展開を加速させました。現在、「JTはM&Aの成功企業」と言っていただくこともありますが、当時は買収後の統合プロセスでの困難も多く、すべてがスムーズに進んだわけではありません。しかし、3年、5年という時間軸での視点を持ちながら、当社グループの新しい仲間となった買収先のメンバーとコミュニケーションを重ね、同じ方向を向けるよう組織の一体化を進めてきました。

また、お客様を中心とした「4Sモデル」の考え方を日本だけでなく、新しい仲間たちとも共有しあい、短期的な収益ではなく、長期的な成長を見据えた投資を継続してきました。この取り組みが、現在の当社グループならではの成長の礎となっています。

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インターナショナル企業にはなれるが真のグローバル企業になるのは難しいという認識がありますが、JTグループがグローバル企業になれた要因は何であると考えていますか?

岩井やはり「人」と「信頼」が重要であると考えています。買収当初は、(現在の)たばこ事業本部であるスイス・ジュネーブのJT International(JTI)と東京にあるJT本社の間で意見の相違がありましたが、互いの強みを理解し、共通の目標を掲げることで一体感が生まれました。これは、最初からそのような方針が明確にあったわけではなく、JTIとの間でさまざまな議論を繰り返した結果、JTIを信頼して任せる必要が出てきた中で確立したスタイルです。

また、「4Sモデル」を共有できたことも成功の要因の一つで、その価値観のもと、必要な投資を進め、市場開拓や製品改良を推進してきました。特に品質の課題を克服し、世界の競合企業を超えるプレイヤーを目指すという共通認識が当社グループの成長を支えたと自負しています。

寺畠当社は、日本企業としてのやり方を買収先に押し付けるのではなく、買収した各社のプラクティスを分析し、議論を重ねた上で、最適なものを採用する方針をとってきました。この姿勢は「出自を問わない」公平性につながり、1999年以降、一貫して実力に応じた登用を行っています。

その結果、当社グループは買収した企業出身の従業員を含め、すべての従業員が「JTグループの一員」として扱われる文化を築きました。評価も完全に公平であり、日本人だから優遇されるということもありません。

この公平性こそが、従業員の会社に対する信頼を支え、実力が正当に評価され、その結果、成長の機会が与えられるという企業文化を確立してきたと考えています。

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お話をお伺いして、これまで沢山の変化、そしてそれに伴う進化をされてきたことが分かりました。
これまでの変化と成長を重ねる中で、JTグループが培ってきた強みとは何なのか、改めてお伺いできますか?

寺畠当社グループの最大の強みは「人」です。従業員が活き活きと働き、成果を出すことで個人と会社がともに成長する好循環を築いてきました。その実現のために、人を支える制度を整え、当社グループで働く満足度を高めることに注力してきました。

現在はグローバルで統一された人財の成長支援制度を導入し、全従業員が平等にチャレンジできる環境を整えています。例えば、JTIのポジションが空くと日本を含む世界中の従業員がそのポジションに応募可能で、公平な選考を経て最適な人財が選ばれます。このような、制度や仕組み等が当社グループの成長を支えていますが、その根幹にあるのはやはり「人」です。こういった多様な従業員のモチベーション、スキルが融合し、現在の当社グループを築き上げています。

岩井当社グループにおける多様性については、ジェンダーの観点ではさらなる改善の余地がある一方、「個性」という観点ではとても多様性に富んだ企業だと感じています。当社グループには、個性を抑え込むのではなく、それぞれの強みを活かしながら働ける環境が整っています。JTとJTIでは文化に違いがありますが、そういった環境の中で互いの文化や価値観の違いを認め合い、建設的な議論を行うことで、より良いものを生み出すという姿勢が浸透してきていると考えています。

もちろん、このような多様性は「個人のため」ではなく「チームのため」に活かされることが重要です。協調性を持ちつつチームの成果を重視できる人が成長し、リーダーとして活躍しています。

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時代が変化していく中でも、JTグループが変わらず目指す標となる北極星というべきもの、今後も守り続けたい大切なものは何でしょうか?

岩井JTがまだ日本専売公社であった1968年に策定した長期経営計画にも、「心の豊かさ」という記述があります。その長年受け継がれてきた価値観を結晶化し、2023年に策定したのがJT Group Purpose「心の豊かさを、もっと。」で、まさに当社グループが目指すべき北極星であると考えています。例えば私たちの事業の中核であるたばこ事業は、生きるために不可欠なものではないかもしれませんが、「心の豊かさ」に寄与する存在です。変化が激しい社会の中でも、その価値は変わらず重要であることを表しています。

寺畠岩井会長が言われたことに加え、「心の豊かさ」は、単なる物理的な満足にとどまらず、また時代や人によって多様で、絶えず変化していきます。だからこそ、今後も私たち自身が進化し、必要に応じて「心の豊かさ」の提供手段を柔軟に変更していくことが必要だと考えています。また、JT Group Purposeは会社を誇りに思う従業員の想いが結晶化したものでもあるとも思っています。

だからこそ、このGroup Purposeを胸に、従業員一人ひとりが社会や未来に向けて役割を果たしていくことが重要と考えています。当社グループは、会社を愛する社員が集まる「大きなチーム」。そして、その文化を支えるのが「People come first」の考え方です。私もこのアプローチを大切にし、これからも変わらず続けていきたいと強く思っています。

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こういう時代だからこそ「心の豊かさ」が実際に必要とされているように思います。最後に、お二人が見据えている「心の豊かさ」について、またJT Group Purposeが描く未来のビジョン・JTグループが創造する未来の価値についての考えをお聞かせください。

岩井テクノロジーの進化により、価値観や社会の秩序が大きく変わりつつあります。人間の存在価値が問われる時代において、「人間とは何か?」「人間らしさとは何か?」を考えることは重要なことだと思っています。

人間はただ生きるためではなく、心の充足を求める存在です。当社グループはこれまで、たばこ製品を中心として心の豊かさを提供してきましたが、今後は「心の豊かさとは何か?」という問いに向き合い、新たな形でその価値を提供していく必要があります。嗜好品といわれているものの価値は、まさにそこにあるのではないでしょうか。

「心の豊かさ」は英語でdelightに置き換えられますが、その本質は行為と心の変化にあります。単なる楽しさではなく、充足感や安らぎを感じ、心がポジティブに変化することが重要だと思います。

寺畠今後もAIを含む技術の進化は避けられず、社会が発展するほど人々の生活は変わり、さらにストレスを感じる世界がやってくると思います。その中で、「心の豊かさ」に注目し、ホッと一息つける時間を提供することが私たちの役割だと考えています。

私自身「心の切り替え」や「気持ちのリセット」を大切にしています。例えば、常に仕事のことを考えるのではなく、週末に意識的に「句読点」を入れリフレッシュすることで、集中力を高めることができます。このような心の変化やリズムをつくることが、より良いパフォーマンスにつながると考えています。当社グループの価値も、単なる商品・サービスの提供ではなく、人々の心に寄り添い「心の句読点」を生み出すことにあります。

こうしたJT Group Purposeが描く「心の豊かさ」を社会に提供するため、たばこ事業を中心に据えながらも、持続的な成長を確実に実現する、そして従業員が気持ちよく働きながら自己成長し、同時に会社も成長する循環を生み出し続けたいと考えています。

そのためにも、私は社長として従業員が自由に挑戦できる環境づくりに注力しています。こうした取り組みを積み重ね、当社グループが「心の豊かさを提供する企業」として確立される未来に向けて日々前進し、さらなる成長を遂げる企業へと進化していきたいと考えています。

岩井寺畠社長が言われた通り、当社グループには「心の豊かな社会」を支える役割があると考えています。例えば、たばこはかつて、江戸時代のキセル文化のように生活の中で文化的な側面を持っていました。しかし、時代の変化によりコモディティ化が進んでいます。

それでも私たちは、「お客様の心の豊かさに寄り添い、新たな文化を形成する」という初志を貫きたいと考えています。D-LABの取り組み、加熱式たばこなど、当社グループが提供する商品やサービスが新しい文化を生み出すきっかけとなることを目指しています。そのためには、すべての人にとってではなく、それを選ぶ人にとって、価値のあるものを提供することが重要です。そうした活動を積み重ねることで、将来の当社グループが新しい文化を創造する企業へと進化していくことを願っています。

谷本企業は経済活動がもちろん重要であるべきですが、文化を生み出すという企業活動が、結果的に新しい時代の資本主義につながるような気がしました。本日は素敵な言葉を沢山頂戴しました、ありがとうございました。

谷本たにもと 有香ゆか Forbes JAPAN 執行役員 Web編集長

証券会社、Bloomberg TVで金融経済アンカーを務めた後、2004年に米国でMBAを取得。その後、日経CNBCキャスター、同社初の女性コメンテーターとして従事し、4,000人を超える世界の著名人へのインタビューを行う。また、国内において多数の報道番組に出演。2016年2月より『フォーブスジャパン』に参画。2022年1月より現職。

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