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Appassionato ─ 響きにこだわり、奏でる音楽家たち

一人一人の歌声が自立し、互いに影響を与え合う。それこそが合唱の魅力。──西川竜太さん(合唱指揮者)

公演概要

女声合唱団 暁 第6回演奏会

公演日 2013年12月23日(月・祝)
プログラム
木下正道 「書物との絆Ⅰ」女声合唱とピアノのための(2011年委嘱作品・再演)
鈴木治行 流氷(2013年委嘱新作・初演)
近藤 譲 女声合唱のための歌二篇(2013年委嘱新作・初演)
松平頼暁 Le Chant des Anoures 無尾類の歌(2010年委嘱作品・再演)
湯浅譲二 冬の思い出(女声合唱版・再演) ※アンコール
出演 西川竜太(指揮)、女声合唱団「暁」

プロフィール

西川竜太(にしかわ りゅうた)

1972年生まれ。日本作曲家協議会主催のアジア音楽祭2010にて、7カ国の作曲家8作品の世界・日本初演を指揮。2011〜13年、作曲家湯浅譲二・松平頼暁「合唱作品による個展」を企画・指揮。「秋吉台の夏2013」現代音楽セミナー&フェスティバル招聘講師・演奏家。藝大在学中、声楽科有志と共に、1人1パート編成の声楽アンサンブル「Vox humanaヴォクスマーナ」を創設し、指揮者に就任。男声合唱団「クール・ゼフィール」、混声合唱団「空(くう)」、女声合唱団「暁」の指揮者。成蹊大学混声合唱団常任指揮者。宮城県中新田縄文太鼓(三善晃作曲)伝承会合唱指導。お茶の水女子大学、都立総合芸術高校音楽科講師(合唱)。音楽の新しい時代の創造を目指し、作曲家と協力して、これまでに90におよぶ作品を初演。2012年、第21回朝日現代音楽賞受賞。

「創造とは何か」、それが現代音楽の道に進むきっかけ
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現代作品を積極的に取り上げ、自ら率いる合唱団とともに精力的な演奏活動を行っている、合唱指揮者の西川竜太さん。同時代に生まれた合唱作品を広く人々に届けるその活動は高い評価を受け、2012年には朝日現代音楽賞も受賞した。

「創造とは何か」。それに想いを巡らせたことが、この道に進むきっかけだったという。

「過去に作曲された多くの優れた作品も、それぞれ作曲家の内的な動機があって創造されたもの。それは現代の作品においても同じことです。今、そうやって生み出された音楽を紹介する人間がいなければならないと考えました。あとは、ゼロから何かを創るということに強い関心があったというのもあります」

高校時代に合唱を始め、早稲田大学に進学するとグリークラブで指揮者を務めた。その後、東京藝術大学に進むころには、現代音楽の合唱指揮の道を突きつめてゆくことをすでに心に決めていたという。

「今、日本の現代音楽は世界から注目を集めています。優れた作曲家がたくさんいて、今までにないような音楽の在り方、美の在り方を追究しています。これだけ多様な音楽が生まれる現代は、私のような活動をしている者にとってはありがたい時代です」

新作の委嘱も積極的に行っている。作品を依頼する作曲家を選ぶ作業は、期待に胸が膨らむと同時に、最も神経を使う部分でもある。

「この方に書いていただきたいという作曲家を、いろいろな作品を聴きながら探しまくるわけです。毎日そのことばかり考えているというくらい、これはとても大切な作業ですね。演奏会を聴きに出かけて、この方に頼めばきっと面白いものが生まれそうだと思えば、面識がない作曲家でも、突然声をおかけすることもありますね」

依頼の際は、合唱団の人数を伝える以外の細かいリクエストは基本的にしない。今書きたいものを自由に書いてほしいと伝え、作品の内容は完全に作曲家に任せることにしているのだそうだ。
「暁」のための委嘱作品のみによる演奏会
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この日は、女声合唱団「暁」による演奏会が行われた。東京都立芸術高校音楽科で西川さんの合唱の授業を受けていた生徒たちが、卒業後も活動を続けようと2007年に結成したグループだ。第6回を迎えた演奏会のプログラムは、過去に初演してきた作品も含め、全てが「暁」のための委嘱作品。

冒頭は2011年に初演された木下正道さんの「『書物との絆Ⅰ』女声合唱とピアノのための」。ピアノと声の密やかなつながり、そして女声合唱が持つ神秘的なエネルギーを感じさせる、暗く、それでいて壮大な作品だ。

続く鈴木治行さんの『流氷』は、この日が初演だった。4つのグループの独立した音楽が交差する“あえて相手に反応しない形で進められる即興演奏”。その演奏は、毎回まったく異なる音楽が生じるようになっている。ジャンケンに始まり、「笑い」「泣き」なども登場する。客席は終始、よい緊張感と期待感に満たされていた。

後半には、日本の現代音楽界を代表する重鎮たちの作品が披露された。

近藤譲さんの「女声合唱のための歌二篇」は、蒲原有明の『有明集』からの詩を歌詞とする作品。透き通った音楽の上に言葉が乗せられ、その澄んだ音楽がどこまでも浮かんでゆくよう。
そして、松平頼暁さんによる「無尾類の歌」。独特の湿度を持った歌唱に、手拍子、足音、指揮者の真似をする動きなども交えた作品。地球上の生命や言語について想いを巡らせずにはいられない、スケールの大きな音楽に圧倒されるひとときだった。

演奏会は、湯浅譲二さんが昨年夏に「暁」へ贈った作品によるアンコールで閉じられた。この日は、4名の作曲家が演奏前のステージに呼び込まれ、聴衆は作品との距離をわずかに縮めた状態で音楽に向き合うことができた。
異なる表情を持つ一人一人の歌声が生きた合唱
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人の声でこのような表現が可能なのかという驚きが、次々と押し寄せる演奏会。聴衆にとっても実に刺激的な時間だったが、演奏する側にとってもまたスリリングであり、卓越した表現力と順応性が求められるステージだったのではないだろうか。

「かなり練習はしています。譜面を読んで音程をとるだけでは当然不充分で、作品をしっかりと身体に入れて、それが滲み出すというレベルにできないと、聴いていても面白くないでしょう。普段からメンバーの音楽に向かう姿勢をかなり鍛え上げています。少しでも消極的な部分があると、演奏に出てしまいますから」
西川さんはこの「暁」のほかに、男声合唱団「クール・ゼフィール」、混声合唱団「空(くう)」、成蹊大学混声合唱団、そしてプロの声楽アンサンブル「ヴォクスマーナ」の指揮者も務めている。こうした合唱団を指揮するうえで一番大切にしていることは、いつも共通しているようだ。

「人間の声は一人一人全く違います。それが他のどんな楽器とも違う特徴ですから、合唱でもそれがはっきり分かるようにすることが大切だと、私は思っています。合唱では調和を意識するがために、あらかじめヴォイストレーニングで全員の声を均一にならすことを行いがちです。しかし、本来調和とは、違う歌声を持つ人たちが一緒に歌う中で探りながら実現していくべきことだと思っています。ですから私が指揮者を務める合唱団では、話すときの声色や表情を殺してしまうような一般的なヴォイストレーニングは避け、作品の練習をする中で、各人に必要な声を追究してもらうようにしています」
それぞれの演奏家が自立してこその調和
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そんな、個々の声の違いが生きる本当の調和を求める西川さんにとって、JTアートホール アフィニスは理想的な響きを持つ空間なのだという。

「改めて数えてみたところ、これまでこのホールではすでに14回も演奏させてもらっています。自分たちの出した音が過剰にブレンドされてしまうことなく、洗練されて客席にまっすぐ伝わるホールです。そして、一緒に演奏している人の音がさっと耳に入ってくるのも、気に入っている理由です。演奏者にとってこれはとても大切なことです」

そして、真に調和した良い音楽を創り出すためには、一人一人の演奏家が自立している必要があると西川さんは言う。

「誰かに寄りかかっていたり、くっついていたりする人が一人でもいてはダメ。自立していない人の音はくすんでいますから、周りの人の音をつぶしてしまうことになります。逆に、自分が鍛錬していいものを発すれば、それに影響されて周囲が変化していきます。そういったお互いの影響関係がその人数分あるのが、合唱の面白いところですね」

自分自身が見えていること、そして周りの人を感じとれること、そのために常にアンテナを張っていることが大切だという。人間の生き方、社会においての在り方に、そのまま通じるような話だ。

「人の声は素晴らしいですよ。これほどの魅力のある楽器は他には絶対ないですから」

インタビューの最後に西川さんはこう語った。誰もが持つ歌声というもの。そして一度は経験したことがある合唱という行為。しかし、芸術として追究してゆけば、こんなにも普遍的で深遠な世界が広がっている。
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