ホール利用者のご紹介

Appassionato ─ 響きにこだわり、奏でる音楽家たち

ステージごとに、最高の演奏を更新していけるピアニストに──實川 風さん(ピアノ)

公演概要

實川 風 ピアノリサイタル

公演日 2014年6月14日(土)
プログラム
シューマン パピヨン(蝶々)Op.2
ベートーヴェン ピアノソナタ 第21番 ハ長調 Op.53「ワルトシュタイン」
ショパン 4つのマズルカ Op.24
プロコフィエフ ピアノソナタ 第6番 Op.82
出演 實川 風(ピアノ)

プロフィール

實川 風(じつかわ かおる)

東京藝術大学附属高校・東京藝術大学を首席で卒業。現在、同大学大学院(修士課程)に在籍。2007年ショパン国際コンクールin ASIA金賞、2008年日本音楽コンクール3位、名古屋国際音楽コンクール1位、13年サザンハイランド国際ピアノコンクール2位(オーストラリア)等、数々のコンクールで優勝・入賞を果たす。これまでに、ポーランド国立クラクフ室内管弦楽団、キャンベラ交響楽団、東京交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、大阪交響楽団等と共演。全国各地でリサイタル活動の他、上海音楽祭(2007年)、ソウル国際音楽祭(2013年)にも出演。「多彩な音色」と「しなやかな音楽性」が評価され、東京フィルハーモニー交響楽団の首席メンバーとの共演等、室内楽でも活躍している。2011年シャネル・ピグマリオンデイズ参加アーティスト。

多彩なプログラムを誠実に描く
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今、期待の若手ピアニストとして注目を集める實川風さん。爽やかな風貌に似合った清々しく気品ある音楽で、多くの聴衆を魅了する俊英だ。

彼が今回JTアートホール アフィニスでのリサイタルで選んだのは、実に多彩なプログラム。冒頭にシューマンの「パピヨン(蝶々)Op.2」を置き、明るく幻想的な音楽で会場を温める。続くベートーヴェンの「ピアノソナタ 第21番 ハ長調 Op.53『ワルトシュタイン』」では、さまざまな音色を繰り出しながら、輝かしいエネルギーを放つ演奏を聴かせた。

後半はショパンの「4つのマズルカ Op.24」から始め、短いトークを挟んだあと、この日のメインプログラムであるプロコフィエフの「ピアノソナタ 第6番 Op.82」へ。プロコフィエフの豊かな空想の世界を、とても楽しそうに紡いでゆく。ときに激しく、ときに滑らかな表現で、コントラストの鮮やかな音楽を届けた。

アンコールには、シューマンの「アラベスク」とショパンの「スケルツォ 第3番」を披露。ホールの繊細な響きを生かし、確信を持って表現される音楽から、ピアニストの誠実さが伝わる演奏会となった。
プロコフィエフ、ピアノソナタ第6番の思い出
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プログラムを組み立てるにあたり、最初に決まったのはプロコフィエフだったという。

「中学2年生のとき、レッスンの帰りに楽譜を買いにお店に立ち寄って、たまたまプロコフィエフの『ピアノソナタ 第6番 Op.82』の楽譜を手に取りました。当時はまだ音で聴いたことはなかったのですが、“立ち読み”して、とても面白い作品だと感じたのです。第6番から第9番までのソナタが入っている分厚い楽譜で、5,400円と中学生にとってはよい値段だったのですが、そのうち弾くときが来るだろう……と、予定外でしたが購入してしまいました」

以来、いつか演奏会で取り上げたいと思いながら、練習の合間に遊びで弾いて楽しんでいたという。

「テクニック的に多くのものが求められます。内容も込み入っているので、全ての音符の意味を理解するまでに時間がかかりました。でも、今年はステージで演奏しようとようやく決心したのです。プロコフィエフの音楽には、どこか風景やフィクションの世界を描くような面白さがあります。演奏していても、爽快で楽しいですね」
時間をかけて作品を消化してゆく
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ピアノ作品には膨大なレパートリーが存在するため、一生かかっても優れた作品を弾き尽くすことができないと語るピアニストは多い。そんな中でキャリアを重ねながら、時代も国も多岐にわたるレパートリーを自分のものにしてゆくことになる。實川さんにとって、こうした多様な作品たちはそれぞれどのような存在なのだろうか。

「初めからこう弾きたいというイメージが浮かんでいる作品は、早く弾けるようになるし、弾いていても楽です。それに対して、憧れていてもどう弾いたらいいかすぐにつかめない曲というのもあります。僕にとって、ショパンは比較的そういうことが多いです。捉えられたと思っても、いつまでも捉えきれない。だからこそ、繰り返し弾いても飽きないし、演奏するたびに自分の変化が分かります。とても好きな作曲家です。試行錯誤を繰り返し、長い時間をかけて作品を消化していきたいと思います」

一方、一番好きな作曲家を挙げるならベートーヴェンだという。

「作品がプラスのエネルギーで満たされています。ネガティブなものを感じないのです。その分、演奏するときにはこちらも全てのエネルギーを注がないと、作品に対抗できません」

ショパンの楽曲やベートーヴェンのソナタには、これから弾きたい作品がたくさんあると意気込む。その他にも、フォーレやドビュッシー、ラヴェルといったフランスもの、シューマン、ラフマニノフなど、取り組みたい作品は数多く、興味は尽きることがないようだ。
表現に集中することができる空間
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JTアートホール アフィニスは、表現に集中することができる、演奏しやすい空間だったという。

「256席という客席数の規模にしては、奥行きも天井の高さもあり、中ホールのような広さを感じて気持ちよく演奏できました。リハーサル中、調律師さんの出す音を客席で確かめたところ、どの場所でもまろやかでダイナミックな音が届いてきたので、安心して本番に臨むことができました」

他の多くの楽器奏者と異なり、ピアニストはほとんどの場合、本番で演奏する楽器を持ちこむことはできない。その点、コンディションのよいスタインウェイのD-274が常設されていることもうれしいポイントだった。

「調律師さんと相談して、よりバランスよく音が届くようにピアノの位置を調整しました。ステージ上で客席に音がどのように聴こえているのかが想像しやすく、お客さまと空気が共有できることは重要です。その上で目指してゆくのは、作品が一番求めている音を鳴らすこと。クリアで綺麗な音だけではなく、ときには一瞬耳障りに思えるけれど必要な音というのもあります。僕の演奏で、『これはなんていい曲なのだろう』と思ってもらえるような音を出したいですね」
いばらの道だとも知らずに……
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東京藝術大学附属高校から同大学、大学院と、芸術分野における国内最高峰の教育機関で学び、キャリアを積んでいる實川さん。しかし意外にも、ピアノは当初習い事の一つとして始めたのだという。

「両親とも音楽関係ではありませんし、一つの趣味として習わせることにしたようです。ところが最初に習うことになったのが、東京藝術大学楽理科出身の山田千代子先生。当時、子どもの生徒を教えるのが初めてでいらしたようで、手加減がなく、いつもすごい量の宿題が出されました(笑)。両親は、『出された宿題はこなさないと』と考えてつきっきりで練習させ、僕も一生懸命に取り組みました。そうした中で、中学生になったころには自然と東京藝術大学附属高校を志望するようになっていました。正直、その時はまだ大きな覚悟などありませんでした。ピアニストになるのがこんなに厳しいいばらの道だとも知らずに、入ってきてしまったんです(笑)」

そうしてピアニストとして研鑽を積む中、彼がこれまで教えを受けた、多美智子氏や御木本澄子氏、また現在師事する江口玲氏などは、指導者として、演奏家として、尊敬してやまない憧れの存在だ。それぞれの師が発したひとつひとつの言葉が、自身の考え方のもととなっていると強く実感すると語る。そんな中、一つの転機となったのは、高校3年生のとき、レッスン中にダン・タイ・ソン氏から受けた一言だと振り返る。

「『君がどう弾きたいのかが伝わってこない』と言われたのです。クラシックにおいてはもちろん作品との関係が大切ですが、その中でどのように自己表現をするか。そこに強いメッセージがない限り、表現として成り立たないのだということを実感して、目が覚めました」
誰にも邪魔されず、解放される時間
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スポーツ観戦に加えて、自ら身体を動かすことも好きで、大学のロッカーには仲間とキャッチボールをするためのグローブが常備してあるという。日々音楽と向き合う中で、そうしたことが一つの息抜きになっているのだろうか?

「それが、そういうわけでもないのです。もともと僕にとって一人でピアノに向き合うということは、誰にも邪魔されない、解放される時間なんですね。子どものころから生活習慣のようにピアノを弾いてきて、嫌だと思ったこともありません。今も、弾くことがとにかく楽しくて仕方ありません」

最近では、現代作品の新作初演や室内楽にも取り組み、ますます活動の場を広げている。来春には修士課程を修了予定ということで、次の計画も気になるところだ。

「留学も視野に入れて、卒業後の道を考えているところです。演奏会のたびに、最高の演奏を更新していけるようなピアニストでありたいですね」

大好きなピアノと共に、過去の自分を越え続けてゆく。今後の飛躍にますます期待できそうだ。
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