ホール利用者のご紹介

Appassionato ─ 響きにこだわり、奏でる音楽家たち

貫いてゆく軸を見つけて、それをやめないこと──池野博子さん(メゾソプラノ)

公演概要

真夏の音楽会 Vol.2 〜R.シュトラウスとW.A.モーツァルト 時を超えた二人の天才作曲家〜

公演日 2014年7月26日(土)
プログラム
<開幕>
  W.A.モーツァルト 歌劇「フィガロの結婚」より 序曲
<出世>
  W.A.モーツァルト 歌劇「フィガロの結婚」より お先へどうぞ
  歌劇「フィガロの結婚」より 楽しい思い出はどこへ
R.シュトラウス 「5つの歌」Op.32-1より 愛を抱いて
<カネ>
  W.A.モーツァルト 歌劇「魔笛」より 恐れるな、若者よ
P.チャイコフスキー バレエ「眠れる森の美女」グランパドドゥ より アダージョ(ピアノソロ)
R.シュトラウス(真島圭編) 交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」より ツァラトゥストラはプッチーニを歌う
<ライバル>
  G.マーラー リュッケルト歌曲集より 私はこの世に忘れられ
<恋>
  W.A.モーツァルト 歌劇「フィガロの結婚」より 恋とはどんなものかしら
  歌劇「皇帝ティトの慈悲」より ああ、これまでの愛に免じて許してください
R.シュトラウス 歌劇「ばらの騎士」より バラの献呈
即興演奏(ピアノソロ)
<ゴシップ>
  W.A.モーツァルト コンサート用アリア K.419より いいえ、あなたにはご無理です
R.シュトラウス 「5つの素朴な歌」Op.21-3より ああ恋人よ、私は別れなければならない
<妻>
  R.シュトラウス 「4つの歌」Op.31-2より もし…
  「4つの歌」Op.27-2より ツェツィーリエ
<死>
  R.シュトラウス 「4つの最後の歌」より 眠りにつくとき
W.A.モーツァルト 「レクイエム」K.626より 涙の日(ラクリモーサ)
出演 大場恭子(ソプラノ) 池野博子(メゾソプラノ) 滝澤志野(ピアノ)

プロフィール

池野博子(いけの ひろこ)

早稲田大学卒業。10年に及ぶ会社員生活を経て二期会オペラ研修所第49期マスタークラス修了。文化庁人材育成公演「魔笛」童子Ⅱにて本格的にオペラデビュー。オペラではこれまでに「フィガロの結婚」ケルビーノ、「椿姫」フローラ、「ヘンゼルとグレーテル」ヘンゼル等に出演。二期会サロンコンサートへの出演の他、モーツァルト「レクイエム」、ベートーヴェン「第九」各アルトソロなど宗教曲やコンサートの分野にも力を注いでいる。会社員をしながら音楽活動を続ける「パラレルキャリアの声楽家」としてNHK、朝日新聞をはじめメディアにも多数登場。2013年より、高校生向けに女性のキャリアに関する講演や、早稲田大学の授業に登壇など活動の幅を広げている。近年はスウェーデン、ドイツにて研鑚を重ねている。東京二期会会員。二期会ドイツ歌曲研究会会員。

趣向を凝らした多彩なプログラム
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メゾソプラノ歌手としてオペラやコンサートの舞台で活躍する池野博子さん。彼女は、早稲田大学卒業後10年間にわたる会社員生活ののちに声楽家の道を目指したという、異色の経歴を持つ。現在は、声楽家、そして同時に会社員としてもキャリアを重ねるという“パラレルキャリア”を築き、その生き方が注目されている。

この日は、ソプラノ歌手の大場恭子さん、そしてピアニストの滝澤志野さんとともにJTアートホール アフィニスのステージに立った。二期会オペラ研修所の同級生である池野さんと大場さんがジョイント・リサイタルを行うのは、これが3度目。今回は、今年生誕150年を迎え、数々の歌曲やオペラを残したリヒャルト・シュトラウス、そして傑作オペラを生んだ天才・モーツァルトをテーマに演奏会を行った。「出世」「カネ」「ライバル」「恋」「ゴシップ」「妻」「死」と、彼らの生涯にまつわるトピックスを紹介しながら、多彩な作品を紹介するというもの。

中でも、リサイタルでありながらオペラのような舞台を楽しむことができたのは、「恋」をテーマとしたセクション。池野さんはズボン役の衣装を身にまとって登場し、モーツァルト「フィガロの結婚」から「恋とはどんなものかしら」で、しなやかで弾むような歌声を披露。そしてR.シュトラウスの「ばらの騎士」より「バラの献呈」では、二人の歌声が溶け合い、感情の機微が細やかに表現された。

歌曲からオペラ作品まで、バラエティに富んだプログラムの最後には、アンコールとして客席と一緒に「赤とんぼ」が合唱された。
ホールが楽器の一部として演奏者を助ける
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今回、JTアートホール アフィニスを会場に選んだのは、共演を予定しているヴァイオリニストの方から良いホールだと薦められたことがきっかけだったそうだ。

「室内楽にとても良いと伺い、歌ではどうだろう……と見学に来たら、完璧でした」

ホールを選ぶとき、池野さんが気にかけるのは、「舞台から見える景色」。

「客席が迫ってくるように配置されているホールは、私にとって歌いにくいのですが、ここはそういうことがありません。映写室の位置も高い場所にあって、視界に入らず気にならない。言うことなしでした!」

そしてもちろん最も大切なのは、響きの感触だ。

「ほどよい残響、柔らかく温かい響きを持っていて、ホールが楽器の一部として演奏者を助けてくれました。縦に長い形状も、歌い手にとっては好ましいものです。自分の声の響きもしっかりと聴き取ることができて、歌っていて安心でした。客席でどんなにきれいに響いても、自分に聴こえないホールでは、常に不安との戦いになってしまいますから」
何事も、“敵は自分”
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当日は、甘い表情から神秘的な美しさまで、作品の精神に寄り添った情感豊かな歌唱を聴かせた池野さんだが、かつては「オペラの舞台に立って、自分とは違う誰かを演じるだなんて、絶対に考えられなかった」という。

「とくにオペラは恋愛の話がほとんどですし、恥ずかしくて無理だと思っていたんです。もともとはドイツ歌曲や宗教曲を活動の中心とすることを目指していました。でも、歌手を職業とすることを意識したときに、表現の幅を広げるためにはやはりオペラを勉強する必要があると気付いたのです」

一念発起して二期会のオペラ研修所に入ったのは、32歳のとき。周囲は、ここまでまっすぐに声楽家を目指してきた、音楽大学、大学院卒業後の若者ばかり。人前に立って注目を集めることをごく当たり前にする同級生たちに、「彼女たちにはかなわない」という想いが頭をよぎった。

「声楽家としては致命的かもしれませんが、当時の私は、人に見られるのが好きではなかったのです。でも、大好きな歌で生きていくためには、私もその“見られることを楽しむ”自分の土壌を耕さなくてはと決心しました。イタリアの作品を得意とし、私とは対極のキャラクターを持つ今の師匠に巡り会って、レパートリーを広げることができました。そして今では、オペラの楽しさに気がついてしまったのです。本当によかったですね。自分で壁を作るべきではないとつくづく感じます。何事も、“敵は自分”です」
充実した社会人生活を襲った病
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池野さんは、子ども時代を長野で過ごした。6歳でピアノを始め、地元で本格的なレッスンを受けるようになった。その高い能力から、中学生時代は学校のクラブ活動で創作オペラのコレペティトゥアの役を任命された経験もある。

しかし、音楽の道を志すことはなく、大学では社会学を専攻。このときに混声合唱団に入ったことで、歌う楽しさに目覚めた。卒論を書き終えるとすぐに声楽のレッスンに通うようになり、就職後も仕事の傍らで声楽の勉強を続けた。

「子どものころは地方に住んでいて、東京の先生に習いに行くこともできませんでしたから、社会人になってからは、やってみたかったことを一つずつ実現してゆくような気持ちでしたね。バブル崩壊直後の就職氷河期で結果に納得できないまま就職せざるを得なかったこともあり、どんどん歌への想いが強くなっていきました」

最初に就職した会社は1年半で退職。しかし、転職先では重要な仕事を任され、忙しくもやりがいに満ちた毎日を送って7年が経とうとしていた。そんな池野さんを病が襲う。

「働きすぎてドクターストップがかかってしまいました。普通の日常生活を送ることができず、しばらく寝たきりで過ごしました。私の人生って、これからというときにどうしてこうやって潰されてしまうのだろうと、悲しくなりましたね」
一度しかない人生、自分が本当にやりたいことを
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病床で繰り返し聴いていたのは、エディタ・グルベローヴァの歌うR.シュトラウスの「Kling!(鳴り響け!)」。歌に励まされるうちに、一度しかない人生、本当にやりたいことをするべきで、それは歌だという想いに辿りついたのだという。

仕事に復帰、並行して猛勉強をし、前述の二期会オペラ研修所に入所。修了後は演奏活動を行う傍ら、自立した女性として生活するべく、経営大学院を運営する会社でリサーチャーとして活躍している。逆境を乗り越え、充実した日々を手に入れたのだ。

そんな池野さんに、苦しい時を乗り越えるために大切なことを尋ねてみた。

「一つは、貫いてゆく軸を見つけて、それをやめないこと。その想いがあれば、どんな嵐が吹いて転んでも、立ち上がることができます。そしてもう一つは、常に何か一つでいいので満たされているものを持っていること。それは時に愛情、時に友達、健康、自信、経済力など……安心できるものがあることが、強さになると思います」

留学や、海外でのコンサート企画のプロデュース。そして、俳人だった祖父の句集を歌曲にして初演することなど、これから叶えたい夢はたくさんある。

常に新たな目標に向かって突き進んでゆく池野さんの言葉には、前向きなエネルギーが満ち溢れていた。
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