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Appassionato ─ 響きにこだわり、奏でる音楽家たち

本当に響いている音とは、どういうものか。その感覚を身に付けていれば、怖いものはない。──糸井裕美子さん(クラリネット)

公演概要

クインテットアリアベッラ 第2回演奏会

公演日 2014年7月29日(火)
プログラム
M.ラヴェル クープランの墓
T.エスケシュ 3つの束の間の瞬間
P.ヒンデミット 小室内楽曲 Op.24-2
H.トマジ 世俗と神聖な5つの踊り
C.ニールセン 木管五重奏曲 Op.43
出演 中川佳子(フルート) 本間郁子(オーボエ) 糸井裕美子(クラリネット)
土山美紀(ファゴット) 岸上 穣(ホルン)

プロフィール

糸井裕美子(いとい ゆみこ)

4歳よりピアノを、12歳よりクラリネットを始める。兵庫県立西宮高等学校音楽科、東京藝術大学、ドイツ国立ケルン音楽大学卒業。 第8回日本木管コンクールクラリネット部門第1位。第68回日本音楽コンクール第2位。他、入賞多数。クラリネットを小川哲生、鈴木良昭、村井祐児、ラルフ・マノの各氏に、室内楽をアルバン・ベルク弦楽四重奏団等に師事。東京藝術大学管弦楽研究部講師を経て、現在、東京都交響楽団クラリネット奏者。トウキョウ・モーツァルト・プレイヤーズ メンバー。洗足学園音楽大学非常勤講師。

旧知の仲間と奏でる、刺激的なアンサンブル
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東京藝術大学卒業後、ドイツのケルン音楽大学で学び、現在は東京都交響楽団のクラリネット奏者として活躍する糸井裕美子さん。

クインテットアリアベッラは、糸井さんと、東京藝術大学時代の同級生である中川佳子さん(フルート)、本間郁子さん(オーボエ)、土山美紀さん(ファゴット)という女性4人に、同大学の後輩にあたる岸上穣さん(ホルン)が加わって、昨年結成された木管五重奏団だ。

「このアンサンブルはとても刺激的です。メンバーは5人とも海外留学経験があり、中でも本間さん、土山さんは今もドイツで活動していますから、全員音楽の主張がはっきりしています。付き合いも長いので、お互い遠慮なく意見を言い合い、同時に空気を読んで合わせることもできる。その絶妙なバランスがとにかく楽しいのです。年に1度の演奏会では、特別な達成感、充実感がありますね」

演奏会のプログラムは、木管五重奏の代表作に加え、演奏機会の少ない作品を取り上げるという意欲的なもの。第2回となる演奏会の冒頭を飾ったのは、木管五重奏編曲版によるラヴェルの「クープランの墓」。続くエスケシュの「3つの束の間の瞬間」は、現代作品でありながら見事に調和する木管の音が心地よく、聴く者に穏やかな昂揚をもたらす。ヒンデミット「小室内楽曲」では5人の間で絶妙な掛け合いが繰り広げられ、表情豊かな対話を聞いているかのよう。ニールセンの「木管五重奏曲」では、各楽器が描き出す色が混ざり合い、深く鮮やかな色彩の世界を創り出す。芳醇な響きがホールを満たし、聴衆を魅了した。
互いの音を聴き、一つの美しい響きを創る
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糸井さんは、クインテットアリアベッラの仲間と演奏して、初めて木管五重奏の素晴らしさを実感するようになったそうだ。木管五重奏は、全ての楽器が異なる音色を持つうえ、それぞれ技術的に難しいことから、一つの美しい響きを生むには各奏者に高い能力が求められる。

「このメンバーだと、本番前でもチューニングはほとんどしません。それぞれが自分の楽器の状態をよく分かっているので、演奏中、お互いの音を聴いて微調整をしていくことで、響きが見事にまとまっていくのです」

音域が広く、いろいろな役割を任されることの多いクラリネットにとって、JTアートホール アフィニスは演奏しやすい空間だったという。

「高音域はよく響くけれども中音域に厳しいホールが多い中、このホールは、どの音域もバランスよく響いてくれました。客席とステージ上で聴こえる響きが変わらないのも、演奏しやすいポイントでしたね。木管五重奏という形態にとっても、ホルンが必要以上に響きすぎないのでとても向いていると思います。というのも、ホルンはベルが真後ろを向いていて、音がステージ後方の壁にぶつかって客席に届くため、音が大きすぎると言われることが多いのです。このホールの場合は、デコボコした壁の形状のおかげか響きがまろやかで、ホルンの岸上君は、『必要以上に音量を落とす必要がなく、表現に集中することができた』と言っていました」
“本当に響いている音とは何か”
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糸井さんはもともと、ピアノ教師だった母親の影響で、4歳からピアノを習っていた。吹奏楽に出会ったのは、小学6年生の夏休みのこと。ピアノと異なり、みんなで一つの音楽を創り上げることの新鮮さに惹かれ、中学校に上がると吹奏楽部に入部した。

「最初はトランペットを希望したのですが、顧問の先生からあなたはクラリネット向きの顔だと言われて(笑)。確かに今思えば、クラリネット奏者の顔かたちには似た特徴があるように思うので、先生は間違っていなかったのでしょう。その楽器をやっているうちに顔が変わってくるのかもしれませんが……」

実際に始めてみると、クラリネットもピアノと同じで、上達するまでの過程は孤独な個人練習しかないのだということに気が付いた。それでも、いざ他の楽器と合わせたとき、自分一人では生み出すことのできない響き、それをともに創る喜びに魅了されるようになっていった。

そして、地元の県立西宮高校の音楽科から東京藝術大学へと進み、卒業後はドイツに留学することになる。

「留学先を決めるためにドイツに滞在していたとき、ラジオからブラームスのクラリネットソナタが流れてきました。これが素晴らしい演奏だったんです。最後にアナウンスされた演奏者の名前を調べてみると、ケルン音楽大学で教えていらっしゃる方だということが分かりました。“この先生のもとで絶対勉強するんだ!”と、もう翌日にはレッスンの聴講を申し込んでいました」

留学中、師からは音色と響きについてみっちり指導を受けることになった。

「本当に響いている音とは、どういうものなのか。単に美しい音を鳴らすだけではなく、部屋全体、ホール全体を響かせるという感覚を、一から徹底的に叩き込まれました。それさえ身に付けていれば、怖いものはないのだと。また、留学を経てもう一つ意識するようになったのは、音の色彩感です。レッスンではよく、『ここは何色なんだ、君は何を主張したいのだ』と尋ねられました」

作曲家のスタイルに沿いながら、どのように自分の価値観を盛り込んでいくか。そして、一つの曲想の中で、いかにさまざまな色彩感を再現していくか。糸井さんが作品に向き合うとき、今も大切にしていることだ。
自分の感性を信じて、まっすぐに進んでいく
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これまでに迎えた人生の分岐点で、その時々、自分の信じた道をまっすぐに進んできた糸井さん。さっぱりとしたその語り口には、迷いがない。

「昔からずっとそうなんです。これがいいと思ったら、迷うことなく進んでいく。それで頭をぶつけたら、“ああ、これは間違っていたんだ!”と思い、ケロッと忘れてまた違う方に突き進んでいくんです(笑)」

一方、歳を重ねていく中で変化した部分もある。

「オーケストラや室内楽には、人とともに演奏する喜びがあると同時に、やはり何もかも自分の思い通りにならない部分がもちろんあります。若いころはそれに苛立つこともありましたが、オーケストラに所属するようになってからは、自然の流れに身を任せ、その中で自分も周りも満足させる方法を探すようになりました。異なる意見も受け入れ、それでは自分はどうしようかという考え方をするようになりましたね」

自らの感性に自信があるからこそ、他人の考えも受け入れ、迷うことなく進んでいくことができる。現在、後進の指導にもあたる糸井さんが若い演奏家に伝えたいのは、さまざまな経験を通し、感性を磨くことの大切さだ。

「演奏を通して聴く人に感動を届けるには、自分も感動を持って表現できないといけません。そのためには、日々さまざまなものに目を向け、心豊かに過ごすことが大切だと思うのです。練習はもちろん必要ですが、素晴らしい音楽を聴くとか、自然に触れるとか、感じることのできる豊かな心をもって過ごすことが大切だと思います」
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