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Appassionato ─ 響きにこだわり、奏でる音楽家たち

言葉に対応した音色、相手と調和する音。伴奏ピアノの魅力を追求したい──揚原祥子さん(ピアノ)

公演概要

揚原祥子ピアノリサイタル アンサンブルシリーズvol.1 ~バリトン:谷 篤 F.リスト ~その孤高、慈愛~

公演日 2015年4月3日(金)
プログラム
リスト 二つの伝説
     1.小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ
     2.波の上を渡るパオラの聖フランチェスコ
  「慰め」より
     1.ホ長調
     2.ホ長調
     3.変二長調
  「巡礼の年第3年」より
     エステ荘の糸杉Ⅱ(哀歌)
     エステ荘の噴水
  おお! 私がまどろむ時
  墓穴と薔薇
  トゥーレに王様がおりました
  すべての頂きに安らぎはある
  静かな睡蓮
  お前たち マルリングの鐘よ
  バラード 第2番
出演 揚原祥子(ピアノ) 谷 篤(バリトン)

プロフィール

揚原祥子(あげはら さちこ)

東京藝術大学附属音楽高等学校を経て、同大学ピアノ科を首席で卒業、同大学院修士課程修了。大学院在学中、ハンガリー国立リスト音楽院に留学。第58回日本音楽コンクール第1位。日本ショパン協会147回例会でデビュー。学内にて安宅賞受賞。近年は国内各地でソロリサイタルを開催するほか、歌曲伴奏や室内楽の活動も数多い。1996年よりヴァイオリニスト・安井優子氏と「ふたりの音楽会」を企画開催。2003年より声楽家・谷篤氏の企画する「ひとときの歌」シリーズに出演。第一生命ホールオープニング特別演奏会、キタラホール10周年記念コンサート、NHK-FM「FMリサイタル」などに出演。東京都中央区の小学校でのアウトリーチ活動や、R.シュトラウス「イノック・アーデン」などの朗読とピアノの作品にも取り組む。現在、千葉大学教育学部准教授。

伴奏ピアノの魅力を届ける新シリーズ
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アンサンブルにおけるピアノには、ソロとはまた違った聴きどころがある。揚原祥子さんはその魅力を多くの人に知ってほしいと、今年から自主企画のリサイタルで「アンサンブルシリーズ」を開始した。

演奏会は、前半にピアノソロ、後半にバリトンの谷篤さんを迎えた歌曲、そして最後は再びピアノソロという構成。普段、揚原さんのソロを聴きにくる方々にも、伴奏という立ち位置にあるピアノの魅力を感じてもらおうという考えだ。

取り上げたのはリストの作品から、彼がスターピアニストとしての第一線から退き、作風を徐々に精神的、宗教的なものに変化させていった中期・後期の作品。冒頭は、「二つの伝説」から「小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ」「波の上を渡るパオラの聖フランチェスコ」。神秘的で力強いドラマが展開する。「巡礼の年第3年」より「エステ荘の糸杉Ⅱ」では、大切に鳴らされる一つひとつの音が新鮮な響きを生んで、耳をとらえる。「エステ荘の噴水」では優しく輝く高音で聴衆を魅了した。

歌との共演となる後半では、演奏機会の少ないリストの歌曲作品が、谷さんによる詩の朗読をはさみながら披露される。V.ユゴーの詩による「おお! 私がまどろむ時」や「墓穴と薔薇」、ゲーテの詩による「すべての頂きに安らぎはある」など、歌とピアノがときに対話し、ときに溶け合いながら、多様な物語を展開する。

再びピアノソロで演奏された「バラード第2番」では、ホールいっぱいに広がる音が心地よく混ざり合う。後期ロマン派を牽引したリストらしい大胆な響きに心を奪われるひとときとなった。
ハンガリー留学で出会った歌曲の世界
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東京藝術大学卒業後、同大学院在学中にハンガリーのリスト音楽院に留学した揚原さん。もともとアンサンブルに苦手意識があったというが、そんな彼女が歌曲の伴奏に興味を持つようになったのは、留学先である作品に出会ったことがきっかけだった。

「留学中は時間がたくさんあったので、とにかく多くの演奏を聴きました。ある時シューマンの歌曲集『ケルナーによる12の詩』の録音を聴いて、『このピアノが弾いてみたい!』と思ったのです。それまでは、歌は身体が楽器で、演奏者の状態が直接反映されるため『一緒に演奏するのはとても繊細な作業で、私には難し過ぎる。この先、声楽の伴奏はしないだろう』と感じていましたが、180度の転換です(笑)。いろいろな演奏に触れるうち、伴奏によって全体の音楽がこんなにも変わるのだと気が付き、さらに興味が湧きました。伴奏というと、ソロより簡単だと思われがちですが、実際には、全体を聴く開かれた耳、そして、言葉に対応した音色、相手と調和する音を鳴らす能力など、多くのことが求められます。これからもその魅力を伝える活動を続けたいですね」

今回共演した谷篤さんとは、これまで何度もJTアートホール アフィニスの舞台で共演している。

「歌声とピアノが分離してしまうホールもあるのですが、このホールはそういうところがありません。ステージの居心地もよく、集中できます。スタッフのみなさんの雰囲気が良いのも、このホールを気に入っている大きな理由です」
“一つの音色で弾きなさい”
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揚原さんは北海道に生まれ育ち、東京藝術大学附属音楽高等学校から同大学へ進学、在学中に日本音楽コンクールに優勝して演奏活動をスタートした。順風満帆なキャリアを歩んだように見えるが、その背後には多くの迷いがあったという。

「兄がピアノを習っているのを見て自分もやりたいと言って、4歳半で始めたのですが、厳しいレッスンの中で、徐々にピアノが好きという気持ちは薄れていきました。うまくなるとか、コンクールに勝つとか、そればかりでしたね。とはいえ、一生懸命支えてくれた両親や先生にやめたいと言う勇気もないし、他にやりたいことがあるわけでもない。厳しいレッスンのおかげもあってそのまま東京藝術大学附属音楽高等学校に入ることができましたが、ずっと勉強に“逃げて”いて、大学進学を前にしたころには、『上手な人はたくさんいるんだから、私なんてやめてもいいのでは』と思うようになっていました。そんなあるとき、高校で師事していた中山靖子先生に、『本気で取り組んでいない』と、レッスン中に初めてしかられたのです。悔しさから奮起して猛練習し、大学に進みました」

そして大学2年生のとき、日本音楽コンクールで1位に輝く。

「ドッと演奏会が増え、自分の気持ちとは関係なく、とにかくステージに立つという日々が続きました」

そのうえ、そうした一つひとつの演奏が、ときには高く、ときには厳しく評価される。その状況に疲れた揚原さんは、大学院進学とともに、「“日本音楽コンクールで1位”というフィルターを通さずに、自分を見てくれる」ハンガリーに留学することを決めた。

「ベルリンの壁が崩壊して3年ほどで、国がどんなふうに変化していくのかを見てみたいという気持ちもありました。日本とは比べ物にならない不便な暮らしに、生活をするってこういうことなのだと逆に楽しさを感じましたね。学生はリスト音楽院ホールの演奏会を無料で聴くことができたので、毎日のように通いました。そうした生活の中で初めて、音楽っていいなと心から思えたのです」

 師事したイシュトヴァーン・ラントシュ氏との出会いも大きかった。

「レッスンで、『どうしてそんなにコロコロ音色を変えるんだ。一つの音色で弾きなさい』とおっしゃるんです。音色を変え、抑揚をつけてこそ良い演奏だと思っていたので驚きましたが、実際、先生の演奏を聴くと、何もしていないようで多くのことが行われていて、とても美しい。そうすると、自分が恣意的にしてきた表現って一体なんだったのだろうと思えてくるのです。そして、予定調和でない演奏をすること、音楽そのものの自然な美しさを追求することを大切にすべきだと考えが変わっていきました」
音楽とは何なのか、自分なりの答えを見つける
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現在、千葉大学教育学部の准教授を務める揚原さん。学生の多くが教員を目指しているため、指導する中で、演奏家を目指す学生を教えるのとはまた違う想いが生まれたという。

「演奏技術を身につけるだけでなく、音楽とは何のために生まれたのかを考えさせるレッスンを心掛けています。音楽は人間の生活にどのように取り入れられ、また人と人とのつながりの中でどのように使われてきたのか。それを考えることで、音楽が人間にとって何なのか、自分なりの答えを見つけてほしいと思います」

子どもたちが、音楽、特にクラシック音楽に親しむようになるか否かに、学校教育が与える影響は大きい。教員を育成することは、未来の聴衆の育成にかかわる大切な仕事といえる。

「子どもはみんな、音楽が好きなんですよね。ただクラシックについては、授業で鑑賞してつまらなかったとか、一人ずつ歌わされて嫌だったとか、そこから嫌いになってしまう子がいるのも事実です。私自身、音楽のおかげで人生が変わる体験や出会いが持てたので、学生たちには、“どのような方法で”子どもを音楽に触れさせるかをよく吟味した上で、『音楽は楽しいものだ。良いものだなあ』と感じてもらえるような授業ができる教員になってほしいです」

演奏家を目指す若い人に伝えたいこともある。

「音楽には人間性が現れますから、自己を見つめ、内面を磨き続けてほしいと思います。リストはこんな言葉を残しています。“芸術を、おのれの利益や不毛な名声のための手段としてではなく、人間をひとつに結びつけ、共感できる力としてみなすこと”。芸術を通して、この社会の一翼を担う存在になってほしい。そんなことを思います」

さまざまな想いを乗り越えてきたからこそ気が付いた、音楽の大切さ。演奏、教育活動を通じて、これからもその想いを多くの人に届けてゆく。
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