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Appassionato ─ 響きにこだわり、奏でる音楽家たち

「オーケストラ奏者として、"良い音"を鳴らすだけでなく、それを超えたものを目指してゆきたい」──黒金寛行さん (バストロンボーン)

公演概要

黒金寛行バストロンボーンリサイタル

公演日 2016年4月24日(日)
プログラム
ブートリー テューバッカナール
テレマン 無伴奏フルートのための12のファンタジーより第2番 イ短調
シューマン 詩人の恋より
ギリングハム ソナタ
ティボール 序奏、テーマとヴァリエーション
ブス ディヴァージョンズ
中川英二郎 トライセンス
出演 黒金寛行(バストロンボーン) 小松祥子(ピアノ) 竹山 愛(フルート)

プロフィール

黒金寛行(くろがね ひろゆき)

福島県いわき市出身。2004年、東京藝術大学入学。在学中に安宅賞、アカンサス音楽賞受賞。2005年よりN響アカデミーにて研鑽をつむ。2006年、済州ブラスコンペティション(韓国、国際コンクール)にてバストロンボーン部門第1位、及び全部門におけるグランプリ受賞。同年、第23回日本管打楽器コンクールにてトロンボーン部門第1位。2008年同大学を首席で卒業。これまでに東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、藝大フィルハーモニアとソリストとして協演のほか、旧東京音楽学校奏楽堂、いわき市芸術文化交流館アリオス、スペースDoなどでリサイタルを催すなど、ソロ活動も精力的に行っている。2012年、ドイツ・ベルリンへ留学。これまでに秋山鴻市、古賀慎治、シュテファン・シュルツの各氏に師事。現在NHK交響楽団バストロンボーン奏者。

自分の音をしっかりと聴いてもらえるプログラム
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バストロンボーンを始めて20年、NHK交響楽団で活動して10年という節目の年。活動が枝葉を広げてゆく中、現在の自分の音楽を一つの形にして披露しようと、黒金寛行さんがリサイタルを行った。
東京で自主公演のソロリサイタルを開くのは、今回が初めてだそう。バストロンボーンはソロの作品が多くないが、歌曲や他楽器のための楽曲も取り入れ、「自分の音をしっかり聴いてもらえる」プログラムを選んだという。

前半、パワフルで華やかなブートリー「テューバッカナール」やギリングハムの「ソナタ」も鮮やかな印象を残したが、特に楽器の繊細で柔らかい音の魅力を存分に伝えたのは、バストロンボーン以外のために書かれた楽曲だった。
テレマン「無伴奏フルートのための12のファンタジー」第2番では、ほどよい残響の中で粒立ちの良い音が輝き、息の長いフレーズもなめらか。また、シューマンの歌曲「詩人の恋」からの5曲では、ハイネの詩の世界を丁寧にたどりながら、心の機微を豊かに表現した。
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後半では、ブスの「ディヴァージョンズ」で、東京藝術大学の同級生でフルートの竹山愛さんが登場。曲中に指示のあるほのぼのとした演技も交えつつ、フルートとトロンボーンという珍しい組み合わせで息の合ったアンサンブルを聴かせた。
プログラム最後に置かれていた中川英二郎「トライセンス」は、リサイタルをやるならぜひ取り上げたかった作品だという。楽器の美点を存分に生かして書かれたこの曲で、めくるめくさまざまな情景を浮かび上がらせる。力強い音楽で、満員の聴衆を魅了した。
ベルリン留学で視野が広がる
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黒金さんがトロンボーンを始めたのは、小学生のころ。
「6つ年上の双子の姉が吹奏楽をやっていた影響もあって、小学校で吹奏楽部に入りました。ピアノも習っていましたが、"吹く楽器"のほうに惹かれたようです。
中学2年のとき、バストロンボーンにとって難しい曲であるレスピーギの『ローマの噴水』を演奏したのですが、これを懸命に練習する中で低音トロンボーンのおもしろさにはまりました。吹奏楽やオーケストラの中で鳴らされるグンと突き刺さるような強い低音に魅力を感じましたね」

高校は普通科に進んだが、卒業後の進路を考える中、吹奏楽部の顧問の先生から音大という選択肢を提案されたことが転機になった。
「当時は特にビジョンもなく、音楽が好きだし、学校の音楽教師になるのもいいなと思っていました。そんなとき、先生からトロンボーンで音大に進むという道もあるよと言われたのです。先生は音大の作曲科を出ていて、音楽で食べていくことの難しさをよくご存じなだけに、普段は音大に進みたいという生徒を止めるような方でした。そんな先生が勧めてくれたのだから、目指してみようかなと」

そうして東京藝術大学に進学。在学中の2005年からはN響アカデミーで研鑽を積んだ。卒業後の2009年にはNHK交響楽団の正団員となったが、3年後の2012年、1年間オーケストラを休んでベルリンに留学するという、思い切った決断をする。
「大学時代、シュテファン・シュルツ先生の公開講座を受ける機会がありました。その時のレッスンや先生の演奏の録音を聴き返すたびに、なんてすごい方なのだろうと思うようになって。以降、来日公演やレッスンには必ず足を運び、いつか留学してこの先生のもとで勉強したいという気持ちが強くなっていったのです」
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1年間にわたるベルリン生活で、実に多くのものを得たという。
「ベルリンでは連日、奇跡のようなすばらしい演奏会があり、聴くだけで血となり肉になるという感覚がありました。それに、音楽以外の娯楽が多いわけではないので、例えばその季節にしか採れない食材を味わうなどといったシンプルな楽しみを大切に感じるようになりました。

ベルリンはいろいろな国の人が暮らす街なので、さまざまな価値観に出会いました。自分の価値観ですぐに判断するのではなく、柔軟にものを考えられるようになりたいという想いもより強くなりました。日本で暮らしていたときと違う目線を持つ、良い機会でしたね」

今回のリサイタルではシューマンの歌曲作品をとりあげたが、それにもこの留学中の経験が影響している。
「シュルツ先生の演奏を間近で聴き、トロンボーンの音から歌詞が聴こえるように感じたことがあります。衝撃でした。リサイタルで歌曲を取り上げることは冒険でしたが、歌詞や発音を研究しながら表現を考えていくのはおもしろかったです」
N響の優れた先輩たちからの刺激
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N響での経験を重ねる中で、演奏への意識も少しずつ変わってきたという。
「最近、ピアニシモなどのデリケートな表現に、より意識が向くようになりました。普段からN響の木管や弦の優れた奏者のピアニシモを聴いている影響だと思います。
それと、以前よりも作品のことを第一に考えるようになりましたね。トロンボーンとしていい音を鳴らすことは、うまければ誰にでもできます。そこを超えなくてはおもしろくない。その曲で何が求められているのか、どんな音色が必要とされているのかを追求しています」

今回JTアートホールアフィニスをリサイタル会場に選んだのは、かつてN響の先輩方の金管アンサンブルを聴いた印象もあってのことだという。
「金管のキラキラした響き、あたたかい響きが感じられるホールだと感じました。それに、ここで演奏したことのある方が口をそろえて、ソロをやるならお薦めだと言っていたこともあります。
ホールも楽器の一部といわれることがありますが、その通りですね。JTアートホールアフィニスは、自分の伝えたい音色そのままに、でも生のままではなく"良い感じに"まとめて届けてくれるので、気持ちよく吹くことができました」
学生やアマチュア奏者との交流も大きな刺激に
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黒金さんは、福島県いわき市出身。東日本大震災後は、地元での活動が増えたという。
「もともと吹奏楽が盛んな地域なのですが、震災後はチャリティーコンサートや高校生のためのレッスンで帰ることが増えました。実は、同じいわき市出身で読響(読売日本交響楽団)のバストロンボーン奏者、篠崎卓美さんと、震災前の2011年2月に地元で初めて演奏会をやっていたんです。その縁で、震災後一緒にチャリティーコンサートを始めました。

2015年はピアニストの城綾乃さんにも加わってもらい、『いわきトロンボーンキャンプ』を開催しました。全国の学生やアマチュアのトロンボーン奏者を集めて、マスタークラスや合同レッスン、アンサンブルやソロの演奏に参加してもらうというものです。北海道から大阪まで、各地から30~40人もの方々が集まってくださいました。

この企画を始めたきっかけは、チャリティーコンサートの打ち上げとしてお客さんも交えてやっていた『福島の酒を飲む会』。ここに集まるアマチュア奏者の方々って、バックグラウンドがさまざまなうえ、僕たち以上に音楽への情熱があるので、とてもおもしろいんです。そんなみなさんと一緒にトロンボーンの楽しさを分かち合いたいと思って」

アンサンブルをしているときが、一番喜びを感じるという黒金さん。オーケストラ奏者としての活動に軸を置きながら、ソロへの取り組み、教えることやアマチュア奏者との交流など、多様な活動をリンクさせて、内容に深みを持たせたいと語る。
いつも金管セクションの位置からオーケストラ全体を見渡し、バストロンボーンで音楽を支えている黒金さんならではの視野の広い活動は、これからどんな展開を見せるのだろうか。
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