『心をシンプルにして 若さと行動力を磨こう』

志茂田 景樹さん

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“無垢の心”を取り戻して

山形の市街地は道が分かりやすいと聞いたのでウオーキングに出掛けました。道が分かりやすいと、ついつい抜け道を行きたくなるんです。案の定、迷子になってしまって、犬と散歩中の女性に出会ったのですが、泊まっているホテルの名前が思い出せなくて…。

犬はあきれたように空を眺めてる。女性は「握手して」と言って、その場は別れて、まあ最終手段です。意を決し、女房に電話をしてホテルの名前をようやく思い出しました。

市民会館があったので、事務室で「○○ホテル、どこですか?」と尋ねると「案内しましょう」と。親切だなあ。小一時間のつもりがとうに時間も過ぎて。少々の失敗があると、(その地が)なおさら記憶に残るものです。

さあ、きょうの話のテーマですが、『心をシンプルにして 若さと行動力を磨こう』とタイトルを付けました。心が若けりゃ、人間、何とかなるものです。

人は、生まれた時は“無垢(むく)の心”です。シンプルそのものです。ところが、だんだんきれい事じゃ済まされないと知って、不要なお札をベタベタ貼り付けるようになる。傲慢(ごうまん)、虚栄、人の足を引っ張ろうとする札…。へそくりを隠そうとしている札なんてのもあるかもしれません。

しかし、それがどんどん自分を息苦しくします。それらの札をきれいに剥がし切るのは難しいのですが、どうしてもこの苦痛から解放されたい。そう強く思うようになったのは、私が直木賞を受賞したころです。

モンロータイツに出会う

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46歳の時、ニューヨーク(NY)にいる旧知の女性から、あるプレゼントをもらいました。「これ、あなたなら似合うと思うわ」。包みを開けると、当時NYで大流行していた、マリリン・モンローの顔がプリントされた“タイツ”。「(黒地に黄、緑、ピンクなどで彩られた派手派手の)実はこれなんです」=会場で実物を紹介。

原稿の締め切り前で、都内のホテルに“缶詰め”にされて追い込まれ、私はふと、そのタイツを履いてみました。上にいつものジーンズをはさみで短くちょん切って、お気に入りのTシャツを合わせ、外に出ました。

すがすがしい風を浴びるように、私の心は晴れていくのです。およそ男がするような姿じゃないとでも言いたそうに、サラリーマン風の数人連れに後ろ指をさされても、実に新鮮で、無垢な、久々の感覚。コレこそ私のファッションの原点、虚栄の心からの解放、不要なお札が次々に剥がされていくようになれた瞬間です。

人は心がシンプルになると元気になれます。皆さんもそんな体験、いつまでも覚えておきたい思い出を、お持ちではないでしょうか。

兄にもらった元気、いまも

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私には15歳上の兄がいました。昭和19(1944)年秋、大蔵省税務講習所(現税務大学校)を繰り上げ卒業になり、程なくして召集令状が届きます。兄は、当時住んでいた家の窓ガラスに息を吹き掛けては指で字を書き、幼い私に教えてくれました。

兄が「ア」と書いて「あ」と発音。私も「ア」と書いて「あ」と声を出します。カタカナが終わり、さあ、次は平仮名。でも、その平仮名が終わる前に、兄は戦地に赴き、帰らぬ人となりました。

兄が旧ソ満国境近くで戦死したと分かったのは随分後で、私が小学校を間もなく卒業するというころでした。母が兄の勉強机の前で泣いていました。私は毎日、兄の本棚の扉を開けて、北原白秋や石川啄木、若山牧水の詩集をめくりました。そして「平仮名も、漢字も少し覚えましたよ」と報告しました。

自分を否定したくなったとき、まだへこたれるわけにはいかないというとき、私は今も兄を思い出しては元気をもらいます。心は若く、行動はてきぱきと。そんな気持ちになれる思い出を、皆さんも二つ、三つ、出動可能にしておいてください。

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