「神奈川県公共的施設における禁煙条例(仮称)の基本的考え方」に関する日本たばこ産業株式会社の意見

日本たばこ産業株式会社(以下JT)は、神奈川県が今般公表した「神奈川県公共的施設における禁煙条例(仮称)の基本的考え方」(以下「県の基本的考え方」)に関して、全面禁煙や完全分煙を一律的に強いる考え方に、強く反対いたします。

JTの考える県の基本的考え方の問題点は、次のとおりです。

1.これまでのプロセスにおいて十分な合意形成が図られたとは言えないこと

県民や関連事業者の意見や神奈川県公共的施設における禁煙条例(仮称)検討委員会(以下検討委員会)での議論が、県の基本的考え方に十分反映されたとは言えません。

1.県民の意見

受動喫煙を防止する目的で全面禁煙や完全分煙を条例により一律的に強制する、との考え方について、県民の皆様の間に合意が形成されているとは考えられません。
県の基本的考え方は、「不特定多数(2人以上)が利用する施設」全てを一律的に全面禁煙とする内容となっています。一方、県の実施した県民意識調査での「官公庁施設など公共性がより高いと思われる施設での喫煙を規制することについて」との設問には88.5%の回答者が賛成しているものの、そもそもこれは全面禁煙などの一律的規制への賛否を問う設問ではありません。また、「規制の対象とすることが望ましいと思う施設」に関する設問では、公共性が高く代替性の低い施設(病院や学校など)について高率の支持が得られた一方、それ以外の各種施設を規制対象とすることへの支持は様々であることから(例えば、「ホテル・旅館」では48.6%、「ゲームセンター・パチンコ店等娯楽施設」では32.3%)、施設の性格などにより、県民の皆様が要望する規制の度合いは異なることが確認されています。
「ふれあいミーティング」や知事と施設管理者との意見交換会においても「不特定多数の人が集まる場所を禁煙とする条例は一方的」、「吸っていい場所と悪い場所を時間帯で分けるなどはっきりさせれば、たばこは吸ってもいいと思うし、その取組みは進んでいると思う」など、一律的な規制に対する多数の反対意見が表明されたと承知していますが、県の基本的考え方にはこれらの意見も反映されていません。

2. 検討委員会での議論

県の基本的考え方が議論された第4回の検討委員会において、「喫煙者のくつろげる場所も確保すべき」、「ダイオキシンのような猛毒にも許容範囲を設けており、たばこだけを取り出してゼロにすべき、という議論には無理がある」など、県の基本的考え方に対する多くの反論が表明され、「この県の基本的考え方が、検討委員会で合意されたものであるとするのはミスリード」などの発言もあったことなどから、検討委員会では県の基本的考え方について合意に至らなかったと承知しています。

2.規制の目的や必要性と、規制の方法や規制の結果生じる影響とのバランスが取れているとは言えないこと

条例による規制の目的は、たばこや喫煙の社会からの排除や喫煙者に対する過度な制限ではなく、受動喫煙防止であると理解しておりますが、規制の必要性と規制の方法や規制の結果生じる影響とのバランスなど、規制の策定に当たっては様々な観点から検討が行われるべきです。次に見るように、条例により全面禁煙や完全分煙を一律的に強いることは、バランスを失した過度な施策であるとJTは考えます。

1.想定される様々な影響とのバランス

喫煙場所規制の導入された国では、飲食店の売上減少とそれに伴う従業員の解雇、屋外喫煙場所確保のための設備投資競争とその競争に敗れた小規模施設の廃業、さらには酒類の売上減少など、規制導入に伴う様々な影響を伝える多数の報道があります。
また、飲食店や娯楽施設に加え、旅館などの宿泊施設でもお客様離れを危惧する声があり、神奈川県の地域経済や観光業界に与える影響が懸念されます。
さらに、県が施設管理者に全面禁煙や完全分煙を一律的に強いることは、憲法の保障する営業の自由や財産権の過度な制限となるおそれがあるとJTは強く危惧しています。

2.受動喫煙対策の実態とのバランス

現在、わが国では健康日本21とその法的根拠となっている健康増進法(第25条)が受動喫煙対策のベースとなっています。健康増進法は、施設管理者に受動喫煙対策を努力義務として課していますが、これは、「喫煙について社会に多様な意見が存在し施設の利用実態等も様々であるため、一律の義務化は妥当ではない」との考え方に基づき、制定されたものと承知しています。この考え方に基づく受動喫煙防止対策の効果は、2007年4月10日公開の健康日本21中間評価報告書での「分煙の推進など昨今の様々なたばこ対策の成果は着実に進展している」との評価により、認められているところです。
この状況下で、神奈川県が受動喫煙防止措置を一律に義務化する条例を制定すれば、各施設管理者が着実に進めてきた受動喫煙対策の実態にそぐわない規制となるおそれがあると考えます。


受動喫煙防止のための措置は、県民の皆様が意に反したばこの煙に曝されないことを目的として講じられるべきです。JTはこの考え方に基づいた現実的かつ具体的な解決策を県に提出し、ホームページ上にも公開しておりますが、あらためてその解決策を以下に示します。

1.公共性が高く代替性の低い施設(官公庁、病院、診療所など)

県は、施設管理者に対し適切な喫煙場所の指定・設置を推奨し、スペースの都合等によりその実施が不可能であれば、施設管理者に対し禁煙を推奨すべきであると考えます。

2.その他の施設(飲食店、宿泊施設、娯楽施設など)

各施設管理者が自らの施設について、利用者の要望、スペース、売上への影響などを考慮し、喫煙スペースの設置、時間分煙、喫煙可能、全面禁煙などの喫煙に関する具体的な対応を判断すべきです。また県は、施設管理者に対しその施設が喫煙可か、禁煙か、分煙であればその詳細(喫煙スペースが設置されているのであればその旨、あるいは時間分煙であれば禁煙時間帯など)の施設入口への掲示を奨励することを検討すべきです。

この解決策を用いれば、一律的な全面禁煙や完全分煙に比べ、県民の声をより反映し、影響の少ない方法で、受動喫煙防止の目的を達成することが十分可能となります。

JTは、施設管理者のご要望に応じ、各施設の実態に沿った最適な分煙に関するコンサルティングを無償で実施しております。また、県が喫煙に関する対応を入口に掲示するよう各施設に対し奨励する活動に、協力したいと考えております。たばこを吸われる方と吸われない方の双方の理解と納得が得られる条例作りに貢献できるよう、今後とも、JTは県、県民の皆様や関連する事業者の皆様との間で、幅広い対話を継続するなどの努力をしてまいる所存です。

2008年5月2日
日本たばこ産業株式会社
代表取締役社長 木村 宏