INTERVIEW & COLUMN
2024/25シーズン
インタビュー&コラム
2025/05/26
【2024-25 大同生命SV.LEAGUE】
シーズンコラム

昨年の決勝で敗れたNECレッドロケッツ川崎にリベンジを果たし、
大同生命SV.LEAGUEの初代女王に輝いた。
チームを優勝に導いた「尊敬できるキャプテン」
あと1点――。
歓喜の瞬間が迫る中、ビクトリーポイントでセッターの東美奈がサーブに立つ。相手の攻撃を切り返し、優勝を決めるべく東はキャプテンの田中瑞稀にトス。1本では決まらず、再び相手の攻撃を切り替えしたチャンスボールからの場面で、次はオポジットのリセ・ファンヘッケへ。リセの放ったスパイクが鮮やかに決まった瞬間、大阪マーヴェラスに25点目が加わり、セットカウント3対0。昨年の決勝で敗れたNECレッドロケッツ川崎にリベンジを果たし、大同生命SV.LEAGUEの初代女王に輝いた。

チャンピオンシップのMVPに輝いた田中が、満面の笑みを浮かべた。
「昨シーズンもレギュラーシーズンはいい形で進むことができたけれど、最後の最後の勝負で自分も力を発揮できず悔しい思いをしました。今シーズンも自分が試合に出る、出たいという気持ちはもちろんありましたが、出ない時間帯もチームをどういう方向に向かせるべきか。勝つためにどうしていくかを考えながら取り組んできたシーズンでした。キャプテンらしいことは何もできていないですけど、1人1人、みんなが勝つために、決勝で戦うためにどう進むべきか。みんなが考えて実行してくれた。むしろ私は助けられました」
そんなキャプテンだからこそ、チームメイトは全幅の信頼を寄せた。レギュラーシーズンのMVPを受賞した林琴奈が全員の声を代弁した。
「プレーの面でいえばレシーブもスパイクもできる。身長は高い選手ではないけれど、ブロックの位置取り、サーブ、何でもできる人で、プレーヤーとしても尊敬しています。でもそれ以上に私だけじゃなくチームのみんなが思っているのは、田中選手がコートにいるだけで安心感がある、ということ。キャプテンとして大変な中で、苦しい時間帯には声をかけてくれるし、私がうまくいかない時には『大丈夫、ここが空いているよ』とアドバイスもくれる。1人1人のことをちゃんと見て声をかけてくれる。人としてもプレーヤーとしても本当にすごい。とても尊敬できる選手でキャプテンです」
今シーズンワーストの試合がチームに与えた教訓
振り返ればレギュラーシーズンから強さを発揮し、チャンピオンシップ、3戦2勝方式のファイナルも2連勝で大同生命SV.LEAGUE初代女王になった。個々はもちろん、チームとしても盤石の強さを誇ったシーズンであるのは間違いないが、決して簡単な道のりではなかった。
象徴的だったのが、チャンピオンシップのセミファイナル、デンソーエアリービーズ戦だった。
レギュラーシーズンでは2度対戦、まだチームが固まっていない前半で、2戦2敗を喫した。今シーズン、大阪マーヴェラスが1つの勝ち星も挙げることができなかった唯一の相手。苦手意識があるというわけではないが、4位から優勝を狙う相手の勢いや攻撃に屈し、セミファイナルの初戦はストレートで敗れた。酒井大祐監督も「今シーズンワーストの試合だった」という試合を経て、翌日の第2戦で敗れれば敗退が決まる。

崖っぷち、と言うべき状況に追い込まれ、気を吐いたのがミドルブロッカーの蓑輪幸だ。高い打点からのサーブとブロック、そしてリーグ屈指の攻撃力を発揮し、チームを牽引。デンソーエアリービーズとの第2戦では「みんなが心を一つにして戦えたことが今日の勝因」と笑顔で振り返ったが、 2023年から2シーズンプレーした蓑輪は、今シーズン限りの退部を発表しているため、敗れれば大阪マーヴェラスの選手として戦うのも最後。絶対にそうはさせない、と強い意志を込め、愛すべきチームに向けて言った。
「私はいつもシーズン序盤はなかなか調子が上がらなくて、今シーズンは中盤になっても変わらなかった。でもこのチームで戦う試合があといくつ残っているか考えたら、すべてに言い訳はできないし、怖がっても、迷ってもいられない。最後まで100%の力を出し切るのはもちろん、愛する仲間の力を信じて、私は私ができる限りの力と情熱を発揮してチームのために貢献します」

それぞれが、自分の100%を発揮する――。
そんな強い意志を持って臨んでいたのは、蓑輪だけではない。リベロの西崎愛菜も同じだ。今シーズン最初のタイトルとして勝負に挑んだ皇后杯は、準決勝でSAGA久光スプリングスに敗れた。「自分が守備で崩れたせい」と責任を感じ、一時は調子を落としていたがリーグ中盤から終盤にかけて本領発揮。ディフェンスの要として、相手の強打を何本も拾ってつなげる姿だけでなく、コートの後ろから周りを動かす。統率力も備えた、まさに“守護神”としての活躍を見せた。
「学生の頃はブロックが跳ぶ場所に合わせて、自分がレシーブに入る位置を決めていました。でも今シーズンからは自分がどこで取りたいかに合わせて、ブロックに跳んでもらう場所を指示する。もちろん自分だけでなく、周りもプレーしやすいようにコートの中がバタバタしているな、と思う時には『ゆっくり!』と声をかけたり、少しでも助けられるような声掛けをすることを意識しています。監督からも『リベロの声かけがすごく大事だから』と教わって以来、意識して声をかけるようにしていたら、今は無意識に、自然に声をかけられるようになった。リベロとして、また違う楽しさを味わえるようになりました」
「勝たなきゃいけない」からの脱却
V.LEAGUEからSV.LEAGUEへ。リーグ自体が変わっただけでなく、今シーズンはチーム名も監督やスタッフも変わった中で迎えた新たなシーズンだった。
もちろん最初からすべてがうまくいったわけではない。だがシーズン当初、就任時から酒井監督が変わらず掲げてきたのは「チャレンジすること」。そして、どんな過程を歩もうと最後の最後に全員が一番いい笑顔で、リーグのフィナーレを迎えること。

酒井監督が貫いてきた姿勢は、選手たちにも伝わり、優勝という最高の形につながった。林が言った。
「勝たないといけない、といつも自分たちでプレッシャーをかけながら戦ってきました。でも今シーズンは、そういう感情は捨てて、とにかく“バレーを楽しもう”と話して全員で取り組んできた。1人1人の気持ちの強さ、プレッシャーがある中でも伸び伸びとプレーができたのはバレーを楽しもう、という思いがあったから。勝たないといけない、勝たなきゃいけない、とガチガチにならなくても、やるべきことをチーム全員でやれればマーヴェラスは強い。改めてそう感じることができたシーズンでした」
レギュラーラウンドの44試合とチャンピオンシップの7試合。「終わってみればとても疲れた」と息をつき、酒井監督が言った。
「監督としての経験もない中、自分にできるのは彼女たちを信じること。やる、と決めたら貫いて起用することもそうですし、ここでこの選手を送り出す、と決めたら信じる。うまくいくことばかりではない中、選手たちは最初から最後まで本当に頑張って、ハードワークし続けてくれた結果、一番見たかった景色を全員で見ることができた。彼女たちに、“ありがとう”という感謝の気持ちでいっぱいです」
誰よりもバレーボールを楽しみ、誰よりもハードワークを貫いた。そして、互いを最後まで信じた。強い大阪マーヴェラスが、大同生命SV.LEAGUE初年度の女王の座に就くべくして就く。最高のフィナーレを飾った。
