INTERVIEW & COLUMN
2024/25シーズン
インタビュー&コラム
2025/05/22
【2024-25 大同生命SV.LEAGUE】
シーズンコラム

大同生命 SV.LEAGUE元年 広島サンダーズは何度も奇跡を現実にしてみせた。
崖っぷちに追い込まれた旭川での敗戦
これほど劇的なシーズンがあるものか。
大同生命 SV.LEAGUE元年、広島サンダーズは何度も奇跡を現実にしてみせた。
今シーズンからチームを率いたハビエル・ウェベル監督は、最終戦となった4月19日のウルフドッグス名古屋とのチャンピオンシップ クォーターファイナルを終えた後、笑顔で言った。
「何度逆境に立たされても、選手たちは諦めずに戦い続けた。そして、チャンスを自らの手でつかんできた。最後は素晴らしい力を持ったビッグチームを相手に力尽きましたが、最後まで戦い続けた彼らを、私は心から誇りに思います」
ハビエル監督の言葉に誇張はない。44試合という長いレギュラーシーズンも終盤に差し掛かり、チャンピオンシップ進出チームが続々と決まる中、広島サンダーズはその境界線となる6位争いの渦中にいた。

1つ勝ち、2つ勝って優位に立ったかと思えばまさかの敗戦で窮地に立たされる。3月23日、旭川でのヴォレアス北海道戦で敗れた後は、決して大げさではなく暗雲が立ち込めた。試合直後、勝利の喜びに沸くアウェーのアリーナの隅に用意された控室の扉が締まり、重い空気が漂う中で急遽行われたミーティング。ハビエル監督は「サーブで攻めてきた相手に対して、完全に押し切られた」と冷静さを保ちながら敗戦の弁を述べたが、ルーキーのリベロ、高木啓士郎は悔しさを露わにした。
「めちゃくちゃ悔しいです。相手がどこだからとかじゃなく、今は絶対に負けられない状況であることを全員がわかっているのに、相手の勢いに屈した。次は切り替えてやり返そう、と思う気持ちあるけれど、今はまだ全然気持ちが切り替えられない。でももう、あと1つでも負けたら終わりだと思うので、とにかく必死でやるだけ。わかっているけど、この負けを受け止めて立ち上がるのは、すごく難しいです」
大一番を制し、奇跡の大逆転でチャンピオンシップへ
北の大地での敗戦から6日後、広島サンダーズにはホームの東広島で大一番が控えていた。6位を争う日本製鉄堺ブレイザーズとの直接対決だ。勝利も敗戦の数もほぼ並ぶ両チームではあったが、残り試合数は日本製鉄堺ブレイザーズのほうが多く、相手が優位な状況に変わりはない。
絶対に負けられない。絶対に勝たなければならない。その思いの強さを先に見せたのは、日本製鉄堺ブレイザーズだ。1戦目を1対3で落とし、まさに、崖っぷちへと追い込まれた。加えて、アクシデントも生じた。ここまでチーム最多得点のフェリペ・モレイラ・ロケが膝の痛みを訴え、途中交代。大砲を欠いた状態で、いかに大一番を戦うのか。暗雲漂う中、不安を払拭したのが今シーズン、すべての試合にスタメン出場を果たしてきた新井雄大と、坂下純也だった。

ロケに代わり、新井がオポジットに入り、オレオル・カメホ・ドルーシーと坂下が対角に入る。ハビエル監督も「練習でもやったことがないぶっつけ本番」という苦肉の策ではあったが、この布陣が奏功した。前日の分もやり返す、とばかりに試合開始直後から攻撃で圧倒。さらに守備でも高木と坂下が中心となり、どんなボールも落とさない、と会場中を駆け回ってレシーブし、つないだボールを新井が決める。今シーズン最後のホームゲームでもあり、ラリーを制して得点すると会場中から大きな拍手と歓声が沸き起こった。
終始圧倒した広島サンダーズが3対0で勝利し、大学時代以来のオポジットを「久しぶりに思い切り打ちまくることができて楽しかった」と振り返る新井が66.7%、坂下が61.9%という高い決定率を残した。セッターの金子聖輝も「新井が大爆発して、坂下も大爆発。どこに上げても決めてくれるので、こんなに楽なことはなかった。ほんとにありがとうな、という気持ちしかない」と大絶賛。大一番を1勝1敗で分け合い、絶体絶命のピンチは乗り切ったが負けたら終わりの状況は続く。だが、ここから広島サンダーズが脅威の粘り強さを見せた。

レギュラーシーズン最終節、東レアローズ静岡戦も2セットを連取されたが、3セット目から新井が覚醒。コートの至るところからスパイクを次々に決め、2セットダウンから3セットを取り返す大逆転勝利。翌日のレギュラーシーズン最終戦は3対0でのストレート勝利で飾り、チャンピオンシップに向け自力でできることはすべて果たした。
もう1人、攻守両面で活躍、サーブでも高い効果率を残したのが三輪大将だ。不動のミドルブロッカーとして、今シーズンすべての試合、セットに出場した。ただでさえ44試合とレギュラーシーズンの数が増えた中、心身のコンディションを保ち続けたからこそ成し遂げた偉業なのだが、奢ることなく淡々と、三輪が口にしたのは感謝の言葉だった。
「全試合出させてもらえたことは本当にありがたいことで、監督の期待に応えるプレーができたか、といえばまだ完璧ではない。もっと成長していかないと、という気持ちです。監督が代わり、新しいチームとしてスタートしたシーズン、難しいこともたくさんありましたが、試合を重ねるごとにブロックディフェンスはどのチームよりも本当によくなった。終盤に差し掛かるにつれて、チームの強みを出すことができました」
何度も崖っぷちに追い込まれながら立ち上がり、最後の最後で6位を決めた。コートに立つ選手たちだけでなく、外から見る選手たちも確かな強さを実感していた。今シーズン、左膝前十字靭帯損傷で手術、リハビリと苦しい時間を過ごしながら、チームを支えてきた主将の井上慎一朗が言った。
「普段の練習から監督が結構な熱量でチームに対して接してきた。その結果、AチームもBチームも関係なく、誰が出ても勝てる、活躍できるチームになった。互いが高め合う中、新井や三輪のようにずっと出続けてきた選手の自覚や責任感がチームを引っ張ってくれたと思うし、見ていても頼もしかった。ここまで来たら、僕らに失うものは何もない。勢いに乗ればどんな相手にも勝てる力はつけてきたので、一気に下剋上、狙いたいです」
これからのチームへ、功労者たちが託す思い
ようやくたどり着いた、決戦の舞台。だが、乗り越えるべき壁は分厚く、高かった。クォーターファイナルは、レギュラーシーズン3位のウルフドッグス名古屋と対戦。6位の座を最後に勝ち取った勢いと、磨き上げてきたブロック&ディフェンスを武器に戦ったが、ウルフドッグス名古屋の強さに屈し、今シーズン最後の戦いを終えた。
相手の強さを称えた後、悔しさを滲ませながらも満足そうな笑みを携え、ハビエル監督が言った。
「チームの最低目標であるチャンピオンシップに進出することはできた。上位には及ばなかったけれど、ケガ人が多い中でも選手個々が成長した。私が掲げたブロックシステムも、選手たちは最初、理解するのも難しく試行錯誤していたところから、それぞれがアイデアを持って連動して動けるようになりました。技術的にも精神的にも成長した。これからさらに個々の力、組織としての力を上げて、来シーズンはさらに上のステージを目指します」

そして長年チームを支え、牽引してきた2人のベテラン、ミドルブロッカーの安永拓弥とリベロの唐川大志も今シーズン限りでチームを去る。最終戦までコートに立ち続けた安永に、会場から温かな拍手が送られ、その声援に両手を振って応えた。
「本当は勝って、ファンの方が喜んでくださっている中を去りたかったけれど、悔しい試合の後もこうしていつも応援してもらえたのは本当にありがたいこと。素晴らしい環境で、好きなことに集中して取り組める。本当に幸せなバレー人生でした」
最終戦は、唐川もコートに立った。言葉とプレー、背中で伝えてきた思いを最後の瞬間まで示して見せた。
「啓士郎も西村信も僕より技術に長けて、力のある選手たち。彼らなら安心してこれからのチームを任せることができるし、僕も僕で自分のやるべきことはすべて見せて、伝えてきたつもりなので、ここからどんな姿を見せていくのかを僕も楽しみにしています」
長い戦いを終え、また次のステージへ。ここから、もっと強くなると誓って――。
