執行役員 Chief Financial Officer / 古川 博政

CFO
メッセージ

JTグループの
強固な財務基盤と戦略

執行役員
Chief Financial Officer

古川 博政

JTグループは、強固な財務基盤の維持という財務方針のもと、長年に亘り持続的な成長を実現してきました。この財務方針を維持しつつ、今後も、資本コストを考慮した事業投資により、さらなる事業パフォーマンスの向上に努めてまいります。同時に、資本市場の期待に応えるためには、開示情報の拡充や株主・投資家の皆様との対話を通じて、経営の質と透明性を高め続けることも不可欠です。こうした取り組みにより、企業価値の向上を図り、当社グループが目指すJT Group Purposeの実現に向けてこれからも取り組んでいきます。

強固な財務基盤と安定的な資金調達

JTグループは、持続的な成長を可能とするため、経済危機などの大規模なリスクが発現した際にも事業を継続できる「堅牢性」と、魅力的な投資機会に対して機動的に対応できる「柔軟性」を併せ持つ強固な財務基盤を維持することを財務方針としています。

また、当社グループは「日本たばこ産業株式会社法」により、日本政府が当社株式の3分の1超を保有することが定められており、新株発行による資金調達を行う場合は財務大臣の認可が必要となります。この点を踏まえ、当社グループでは、デットファイナンスによる資金調達を基本としており、財務の健全性・安全性を維持する観点から、金利変動リスクの抑制や流動性の確保等を企図し、負債の長期化に取り組んでいます。加重平均の負債残存年数は6年超(2024年12月末時点)、長期負債比率は90%超(2025年4月末時点)と、急激な金融市場の変化にも耐えうる負債構成となっています。

加えて、資金調達の安定性を向上するため、資金調達手段の多様化にも常に取り組んでおり、ここ数年では劣後ローンの締結、劣後債の発行、およびグリーンローンファシリティの導入を実施しています。

グリーンローンファシリティの活用

JTグループは、2030年までにグループ事業におけるカーボンニュートラルを達成し、2050年までにバリューチェーン全体で温室効果ガス(GHG)排出量をネットゼロにすることを目指しています。

この目標に向けた取り組みの一環として、2023年にグリーンローンファシリティを設定し、温室効果ガス排出量の削減に活用しています。具体的には、ポーランド、トルコにおけるソーラーパネルの導入や、マラウイでのバイオマス燃料の利用など、再生可能エネルギーの推進に資金を活用しています。さらに、複数の新規プロジェクトの準備を進めており当年度の実施を目指しています。

  • アコーディオンを閉じる
  • アコーディオンを開く

キャッシュ・フロー・マネジメント

企業価値の最大化に向け、資本効率の向上・中長期に亘る持続的な利益成長を実現する事業投資は必要不可欠であり、それらを実現するため、キャッシュ・フロー・マネジメントはその重要な取り組みの一つです。事業のトップライン成長を通じたキャッシュ創出能力の向上が最優先ではありますが、さまざまな取り組みを通じてキャッシュ・フロー(以下、「CF」)の最適化に取り組んでいます。

JTグループはグローバルに事業を展開しており、そのCFは特に為替変動の影響を受けやすい構造となっており、短期間での急激な為替変動によるCFへの影響を緩和する対応として、為替予約等のデリバティブを可能な限り活用しています。しかしながら、一部新興国通貨や長期的な為替変動に対するデリバティブについては、その活用自体が不可能である場合や、経済合理性に欠ける場合があるという課題もあります。

こうした課題に対応するため、グループ全体として為替変動への耐性を強化する取り組みとして、事業の地理的・通貨的分散を進めるとともに、収入通貨と支払通貨を一致させるナチュラルヘッジの推進にも取り組んでいます。昨年10月に完了した米国Vector Group Ltd.(以下、「Vector社」)の買収により、当社グループにおける収益やCF面でのハードカレンシーの割合を以前よりも高めることができ、為替変動への耐性の強化にも寄与しています。

また、物価と為替変動との連動の観点から考えれば、インフレーションに対応するための期中における価格改定もその対応の一つとなります。もちろん価格改定にあたってはさまざまな市場環境を考慮の上、実施することになりますが、為替変動への対応という点からも有用な施策と考えています。

このほか、棚卸資産の在庫水準適正化、債権流動化やサプライヤーファイナンス等の⼿法も取り入れながら、入金および支払サイトの見直しを実施する等、キャッシュ・コンバージョン・サイクルの継続的な改善を通じて運転資本の最適化にも取り組んでいます。

  • アコーディオンを閉じる
  • アコーディオンを開く

持続的利益成長に向けた事業投資と株主還元

JTグループの経営資源配分方針は、「4Sモデル」およびJT Group Purposeに基づき、中長期に亘る持続的な利益成長につながる事業投資、特にたばこ事業への投資を最優先としています。また、事業投資による利益成長と株主還元のバランスを重視する点についてもこれまでと変更はありません。

事業投資としては、たばこ事業のReduced-Risk Products(以下、「RRP」)、特にHeated tobacco sticks(以下、「HTS」)への投資を引き続き最優先します。2025年度から2027年度に亘る今次経営計画期間において、マーケティング活動を中心に総額約6,500億円の大規模な戦略的投資を計画しています。また、RRPの成長を支える原資となるCombustiblesにおいては、プライシングおよびシェアの伸張、さらにはコスト最適化に向けた取り組みを通じてROIの改善を目指します。

株主還元については、引き続き配当を中心に据えつつ、資本市場における競争力ある水準として、配当性向75%*を目安としてまいります。事業投資を通じて、全社利益管理指標である為替一定ベースの調整後営業利益(Adjusted operating profit 以下、「AOP」)を成長させることが、中長期的な当期利益の成長、ひいては株主還元のさらなる向上につながるものと考えています。

*

±5%程度の範囲内で判断

当期利益(親会社所有者に帰属)(億円)

当期利益(親会社所有者に帰属)

1株当たり配当金(円)

1株当たり配当金

*1

訴訟損失引当金の影響を除いた場合

*2

訴訟損失引当金を計上した影響を含めた場合

  • アコーディオンを閉じる
  • アコーディオンを開く

資本収益性の向上

JTグループは、経営計画の策定時に資本コストを算定・把握し、取締役会に報告の上、ROEが資本コストを十分に上回っていることを確認しています。また、展開市場におけるカントリーリスクやインフレーションリスクなどを考慮して設定したハードルレートを投資判断時の採算性基準としており、この投資規律を守ることで、ROEが資本コストを上回る状況を担保しています。

また、当社グループは、短期的な利益追求ではなく、将来に亘る持続的利益成長に重点を置くという考えに基づき、過年度のM&Aに伴う無形資産償却費の影響や、一時的な要因で大きく変動する為替の影響を除いた為替一定ベースのAOPを全社利益管理指標としています。この為替一定ベースのAOPを中長期的にmid to high single digitで成長させることにより、最終的な当期利益の成長の実現を目指しています。

これからも、投資規律の徹底と中長期的視点での利益管理の取り組みを通じて、継続的なROEの向上に取り組んでまいります。

  • アコーディオンを閉じる
  • アコーディオンを開く

財務パフォーマンスの向上

これまでに得られた資本を活用し、事業活動から得られた利益をさらなる財務基盤として蓄積するためには、財務パフォーマンスの向上が不可欠です。

2024年度は、地政学的リスクの顕在化、サプライチェーンコストの上昇、為替変動など、厳しい事業環境の中でも、財務報告ベースの売上収益およびAOPともに過去最高となる実績を達成しました。

全社利益管理指標である為替一定ベースのAOPは、前年度比7.5%増加しました。これは、たばこ事業において年間を通してプライシング効果が継続的に発現したことに加え、Vector社の買収完了後3カ月分の業績取り込みもあり、Ploomへの投資強化やインフレーションに伴うサプライチェーンコスト、⼈件費等の間接コストの増加を上回る利益成⻑を実現したためです。

財務報告ベースの売上収益およびAOPは、たばこ事業のビジネスモメンタムに加えて加工食品事業の増収も寄与し、それぞれ前年度比10.9%の増収、3.3%の増益となりました。

なお、JTグループのカナダ子会社に対する喫煙と健康に係る訴訟の調停手続きについて和解に至ったことから、和解金の支払いに係る訴訟損失引当金3,756億円を計上した影響により、営業利益および当期利益は前年度比で大幅な減益となったものの、当該訴訟損失引当金の影響を除いた場合の営業利益および当期利益はそれぞれ前年度比3.7%の増益、3.9%の減益となっています。

フリー・キャッシュ・フローは、Vector社の買収対価⽀払いにより、前年度⽐2,732億円減少の1,705億円となりました。

2025年度から2027年度にかけての今次経営計画期間中の業績見通しとしては、Combustiblesにおけるプライシング効果の持続的な発現やRRPの損益改善、またVector社買収の貢献が、HTSを中⼼としたRRP投資強化の影響等を上回り、為替一定ベースのAOPはhigh single digit成長を見込んでいます。

売上収益・調整後営業利益(億円)

売上収益・調整後営業利益(億円)図
  • アコーディオンを閉じる
  • アコーディオンを開く

ステークホルダーコミュニケーションについて

企業価値の向上には、財務パフォーマンスの向上に加え、資本市場との積極的な対話を通じた経営の質や透明性のさらなる向上が不可欠です。その一環として、市場評価についても注視しており、当社の株主総利回り(TSR)を例に挙げると、長期的にはTOPIXと比較して劣位にあるものの、2019年末との比較では利益成長や増配等を通じてアウトパフォームしている状況です。

中長期的な株価形成には、継続的な利益成長が重要な要素であり、その実現によって企業価値の向上を目指します。また、開示情報の拡充を通じて投資家の皆様にJTグループへの理解を深めていただくことも、TSRのさらなる向上につながると考えています。

2019年12月末を基準とする各年末TSR

  2020年 2021年 2022年 2023年 2024年
JT 92.7% 107.6% 129.2% 177.6% 203.5%
TOPIX 107.4% 121.1% 118.1% 151.5% 182.5%

長期比較におけるTSRの推移は、株式情報をご覧ください。

当社グループのIR活動は、経営成績をはじめとする財務情報に加え、経営戦略、ESG情報、各事業の状況といった非財務情報についても適時・適切に開示しています。また、株主・投資家の皆様との対話を積極的に行い、当社グループへの理解促進を図っています。証券アナリストや国内外の機関投資家の皆様との、決算発表をはじめとした開示内容に関する面談はもちろんのこと、ESGに関する個別面談や個人投資家の皆様向けの説明会、債権投資家の皆様との対話などを実施しています。さらに、投資家向けのイベントの企画や社外取締役と投資家との対話機会創出にも取り組んでいます。

2024年度は約480件の個別面談を実施し、証券会社主催のカンファレンスにも参加いたしました。機関投資家の皆様との面談には社長や財務担当副社長だけでなく、私自身も参加し、RRPに係るパフォーマンスや、将来の事業ポートフォリオの在り方といった中長期戦略、また統合報告書への評価を主な対話テーマとし、さまざまなご意見をいただいています。頂戴したご意見は当社グループの取り組みの改善・見直しの参考とさせていただいており、今後も、投資家の皆様に当社グループの業績・取り組みをご理解いただけるよう、今後も積極的な対話を続けてまいります。

  • アコーディオンを閉じる
  • アコーディオンを開く

企業価値向上に向けて

さらなる企業価値向上の実現に向けて、特にたばこ事業においては、地政学的リスクの顕在化に伴う世界経済への影響、EMAクラスターの複数市場におけるハイパーインフレーションをはじめとした、為替・物価・金利などの各国マクロ経済の動向、規制の進展状況など、不確実性の高い事業環境下であるものの、着実な事業成長を達成することが求められます。加えて、近年のESG投資への関心の高まりや、サステナビリティ情報開示の法制度化を見据え、ステークホルダーとの質の高いコミュニケーションが求められます。

企業価値向上にあたり、CFOとしての私の使命は、JT Group Purpose「心の豊かさを、もっと。」の実現・具現化に貢献する財務・資本戦略の立案・実行にあります。社会や事業環境が大きく変化する中で、これまで培ってきた強みを維持しつつ、財務規律を堅持し、事業機会やさまざまなリスクの発現に対し、機動的に対応できる財務基盤を維持・強化することが私の役割です。

そして、その過程や成果については、ステークホルダーの皆様との対話を通じて市場に適切に発信し、当社の価値を正しく理解していただけるようこれからも努めてまいります。

2024年度の投資家との対話状況

面談数

  • 約480件

面談先概要

  • 国内外のアクティブ投資家、パッシブ投資家、債券投資家等と幅広く面談
  • 面談先対応者の属性は、アナリスト、ファンドマネージャー、ESG担当、議決権行使担当者と多様

面談形式

  • オンライン形式を中心に、個別の1on1面談に加え、証券会社主催のカンファレンスにも参加

当社対応者

  • 社長(CEO)、財務担当副社長、執行役員(CFO、経営戦略担当、Chief Sustainability Officer)等

主な対話テーマ

  • 財務パフォーマンス

    2024年度実績、2025年度見込、経営計画期間中の利益成長の見通し等

  • 中長期戦略

    RRPビジネス成長に向けた戦略およびその進捗、Vector社買収効果を含めた米国市場における戦略、将来の事業ポートフォリオ

  • たばこ事業における税制・規制状況、カナダ子会社に対する訴訟への対応
  • 資本政策
  • 環境/社会/ガバナンス(ESG)

    環境:気候変動、生物多様性や森林保全に関する取り組み
    社会:人権デュー・デリジェンスの推進や人的資本拡充に向けた取り組み、喫煙と健康に係る課題への対応
    ガバナンス:取締役会の実効性、DE&I(女性役員比率向上に係る取り組み)

  • 統合報告書等を通じた開示情報の拡充
  • サステナビリティ情報開示の法制度化を踏まえた企業評価

投資家意見の社内共有

  • 取締役会への報告は年3回実施
  • 取締役や執行役員、関係部署を対象に、IR活動の状況や投資家意見をまとめたレポートを年4回発行

投資家意見を参考とした事例

  • 開示情報の充実化
  • ESG対話の継続
  • 社外取締役による投資家面談の実施
  • アコーディオンを閉じる
  • アコーディオンを開く