役者絵

役者が挑んだ名場面役者とは切っても切れない芝居のシーンを描いた絵は、芝居の上演に合わせて多数製作されました。第三章では演目内容とともに、舞台での役者たちの姿に迫ります。
第一章 歌舞伎ブームを牽引 第二章 乱れ咲く花形役者 第三章 役者が挑んだ名場面 TOP
仮名手本忠臣蔵 かなでほんちゅうしんぐら元禄15(1702)年におこった赤穂浪士の仇討事件を題材に、ときを室町時代に置き換えて大胆に劇化した、歌舞伎を代表する演目の一つ。主君の刃傷沙汰による切腹から、四十七士が仇討を遂げるまでを描く。

菊の花が咲き誇る花壇の前で休む、坂東彦三郎が演じるお蘭の方の傍らにはたばこ盆が置かれ、手には細身の長キセルが握られています。このように、当時の女性は細身のキセルを持つことが多かったため、舞台の小道具としても女形が持つキセルには、細身の品が用いられていたのでしょう。

坂東が、この絵に描かれている三枡(みます)大五郎・実川(じつかわ)延三郎とともに、上方(=京都・大坂)で活躍した歌舞伎役者であることから、この絵は上方で製作されたものであると推測できます。

『忠臣講釈(ちゅうしんこうしゃく)』/安政年間(1854~1860年)ごろ/歌川国員(くにかず)画
三枡大五郎・実川延三郎・坂東彦三郎

助六由縁江戸桜 すけろくゆかりのえどざくら 江戸の歓楽街だった「吉原」を舞台とする一幕劇。歌舞伎十八番の一つ。紛失した名刀「友切丸(ともきりまる)」を探していた助六が、吉原で豪遊する老人・意休(いきゅう)から、その刀を奪い返すというストーリー。
主人公の助六を演じる河原崎三舛(かわらざきさんしょう)と、その恋人で吉原の人気遊女・揚巻を演じる岩井半四郎、そして、白酒売りに身を変えた助六の兄を演じる中村翫雀(なかむらかんじゃく)が躍動感にあふれる姿で描かれています。

この演目では、遊女らの助六への愛情を表現する小道具としてキセルが用いられており、色男の助六を誘おうと、彼女たちがこぞってキセルを差し出すシーンが有名です。その名場面を象徴するかのように、この絵にも助六の右手には多数のキセルが握られています。
 

『揚巻 助六(あげまき すけろく)』
明治5(1872)年/四代歌川国政(くにまさ)画
河原崎三舛・岩井半四郎・中村翫雀

義経千本桜 よしつねせんぼんざくら平家滅亡の功労者でありながらも、兄である源頼朝の怒りを買い、追われる身となった源義経を中心に、義経に復讐(ふくしゅう)を企てる、生き残り平家の人々の姿を描いた「時代物」。

「時代物」とは、武家社会を題材に、江戸の風俗を取り入れたり、描き手の感覚でアレンジが施されたりした作品群の総称です。中でも、源平合戦のその後を描いたこの演目は名作の一つに数えられ、特に、命を賭して平清盛の嫡孫・維盛(これもり)親子を守った“いがみの権太(ごんた)”の活躍を描く「すし屋」の場面は、たびたび上演されています。

喫煙具が置かれた椅子の上に腰掛けるのが、関三十郎(さんじゅうろう)演じる権太。彼と、岩井粂三郎(くめさぶろう)ふんする若侍・小金吾の対峙するようすが描かれています。

『義経千本桜』/文政3(1820)年/歌川豊国(とよくに)画
瀬川菊之丞・関三十郎・岩井粂三郎

影絵で魅せる役者の真の姿

『真写月花之姿絵(まことのつきはなのすがたえ)』
慶応3(1867)年/歌川芳幾(よしいく)画

  幕末から明治時代にかけては、『真写月花之姿絵』というユニークな仕掛けを施した役者絵も誕生します。これは当時、流行していた“ろうそくの明かりによって障子に映し出された人物を描く”という遊びを基に描かれた絵ですが、この絵には、2つの魅力がありました。
  まず、上部には、人気役者の舞台での姿が描かれています。そして、その役者の姿の下には、ろうそくの明かりによって映し出されたと想定される人物のシルエットがあり、これが、その役者の楽屋での姿=役者の“本当の姿”を表現していたのです。
  38枚のシリーズとして描かれた『真写月花之姿絵』からは、江戸時代の人々のユーモア・センスが垣間見られるとともに、役者絵が当時の人々にどれほど浸透していたのかをうかがい知ることができます。

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