時代には、たばこはもっぱらキセルで吸った。一口にキセルといっても長短さまざま。20〜30センチぐらいのものが多いが、中には40〜50センチほどのものもあった。雁首(がんくび)に詰めた刻みたばこに火をつけ、吸口を吸う。するとキセルに空気が通って刻みが燃え始め、その煙が途中の羅宇(らう)を通って口中に達する。キセルが長ければ、それだけ吸引する力も必要になる。だから誰しもキセルを吸う時は、口をつぼめ頬を窪ませるが、年老いたおばあさんの場合、特に頬の窪みが目立つ。それがえくぼのように見えて、何ともおかしいというのである。
一般に、雁首に刻みたばこを詰め過ぎたり、羅宇にヤニが詰まったりしていると、煙の通りが悪くなる。刻みはかるく指で摘まんで丸める程度にし、キセルのヤニ掃除も怠らないようにする。ひまな時に紙縒り(より)を何本も作っておいて、これをキセルの煙道に通して掃除する。どうにも具合が悪くなると、行商の羅宇屋に頼んで、羅宇の部分をそっくり取り替えてもらう。
シガレットの登場で、こんな面倒なことはなくなったが、愛煙家にとって煙の通りが悪くならないように、シガレットの製造工場では、原料となる刻みの填充量目や水分の管理を厳重に行っている。たばこのうまさは、原料の味や香りばかりでなく、煙の通りのよさや煙の量にも関係しているからである。
キセルにしてもシガレットにしても、細長いものを口にくわえることに変わりはない。これを子供時代の指しゃぶり、ないしは母親の乳首を吸う行為に相当するものとする説明がある。人には、幼児時代にまで遡る口さみしさを紛らすため、飴をなめたり、ガムを噛んだり、たばこを吸ったりするという一面があるのかもしれない。 |