「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針の改正(案)」に対する意見

厚生労働大臣
小宮山 洋子 殿

日本たばこ産業株式会社(以下、JT)は、「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針の改正(案)」(以下、「改正案」といいます。)に対し以下の通り意見を申し述べさせていただきます。

喫煙者率削減等の数値目標の是非について

たばこは合法な嗜好品であり、喫煙するかしないかは、適切なリスク情報を承知した成人個々人が、自らの健康に与える影響を勘案して判断すべきものです。
しかしながら、現在設定されている「健康影響についての知識」「分煙に関する知識」「希望者への禁煙支援プログラム」の普及等の数値目標は、改正案では削除されています。このような成人個々人の判断に資する情報の提供・支援を継続して推進することは理解しますが、これらの数値目標を削除して、新たに喫煙者率削減等の数値目標を設定されることは、本来個々人の選択の結果として決まる喫煙者率について、国の介入によって特定の数値に誘導しようとするものであり問題があると考えます。
平成22年度の国民健康栄養調査の結果におきましても、喫煙率は、他の項目に比して大きく減少(7年間で約3割減少)しています。更に、受動喫煙に関しましても、同調査結果において「すべての場において少なくなっている」と総括されています。このような状況において、改めて数値目標を設定する必要性には疑問を感じます。
JTは、喫煙者率削減等についての数値目標を設定することに強く反対します。

飲食店等における受動喫煙の機会減少の数値目標について

改正案では、目標を、職場においては分煙を認めたうえで「受動喫煙のない職場の実現」、行政機関および医療機関においては受動喫煙の機会を有する者の割合0%としたがん対策基本計画(変更案)の数値が援用されています。これは、行政機関や医療機関においては、適切な分煙が目標達成の手段として認められない、といった誤解を招く恐れがあります。
また、同様に、民間施設である飲食店においても、受動喫煙の機会の数値目標が設定されています。設定された数値は、「喫煙率の低下を前提に、受動喫煙の機会を有する者の割合を半減」させた場合の数字、とがん対策基本計画(変更案)に記載ありますが、前提となる「喫煙率の低下」に関してはその目標数値に上記したような問題がある上、そもそも目標数値について「半減」が合理的である理由についても明らかではありません。
また、数値目標の設定を理由に、今後、飲食店に対して厳格な分煙措置等を求める規制が導入されることとなれば、その影響は甚大なものとなることが予想されます。例えば、店内で分煙措置を実施するには相当な設備投資が必要となりますが、そうした負担に耐えられず設備投資を諦めてやむを得ず禁煙にしたケースでは、多くの飲食店で売上が減少しており、こうした影響は特に中小の事業者にとって死活問題となります。JTは、飲食店については、お客様のニーズ等を施設の管理者が考慮し、当該施設の利用実態に応じた適切な受動喫煙防止対策を講じることが妥当であると考えます。
JTは、飲食店等における受動喫煙の機会減少について数値目標を設定することに強く反対します。

JTは、がん等、喫煙と関連があるとされる諸疾病の発生には、住環境(大気汚染等)、食生活、運動量、ストレス等、様々な要因が影響しており、今後更なる研究が必要であるものの、喫煙は特定の疾病のリスクファクターであると考えています。受動喫煙については、特にたばこを吸われない方にとっては迷惑なものとなることがあり、目、鼻、喉への刺激や不快感を生じさせることがあります。しかしながら、例えば、世界保健機関に報告された「受動喫煙と肺がんリスクに関する疫学調査」においても、統計的に有意な結果が一貫性をもって示されておらず、受動喫煙と疾病発生率の上昇との統計的関連性は立証されていません。

たばこについては健康の観点から、様々な議論があることは承知していますが、たばこは大人の嗜好品であると同時に、年間約2兆円の税収を賄う重要な財政物資です。改正案に喫煙者率削減の数値目標が設定されれば、特に財政状況の厳しい地方自治体への影響は大きいものと思われます。さらに、約28万店のたばこ販売店、約1万戸の葉たばこ農家への影響は必至となります。たばこ販売店は中小零細規模のお店が多く、たばこ販売で生計を立てられているお店も少なくありません。加えて、葉たばこ生産は山間地域を中心に重要な農産品となっており、地域農業の振興に重要な役割を果たしていることから、これらに与える影響についても十分考慮する必要があります。

以上のとおり、「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針の改正(案)」での喫煙者率削減の数値目標等の設定には大きな問題があり、多方面にわたって甚大な影響を与えるおそれがあることから、JTは、これら数値目標等の設定に強く反対します。

2012年4月20日
日本たばこ産業株式会社
代表取締役社長 木村 宏