外装に多摩産木材を使い、地域のハザードマップも掲示 産学連携プロジェクトで誕生した“つなぐ喫煙所”

2022年7月29日、二子玉川駅前の公共喫煙所がリニューアルされました。明治大学の学生たちが主導したプロジェクトで、「国産木材の魅力発信拠点MOCTION」の協力のもと、外装の一部には多摩産の木材を取り入れました。喫煙所には近隣のハザードマップも掲示。学生たちはこの喫煙所が“考える場所”になってほしいと期待を寄せています。

JTが学生たちと連携して、公共喫煙所をリニューアル

JTでは、社会課題の解決に向けた様々な事業を展開しています。公共喫煙所のリニューアルを図る産学連携プロジェクトもそのひとつです。2022年7月には、明治大学 情報コミュニケーション学部 牛尾ゼミの学生たちによって、二子玉川駅前の喫煙所が生まれ変わりました。

2022年7月にリニューアルオープンした、東急田園都市線二子玉川駅前の公共喫煙所。パーティションに多摩産材を使用する。

プロジェクトが動き出したのは2021年4月、JTが同学部の牛尾奈緒美教授に喫煙所リニューアルの話を持ちかけたことがきっかけでした。そのときに挙がったテーマは「地域のためになる公共喫煙所を考える」。牛尾教授は「参加の意思があるゼミ生がいるなら」との条件付きで提案に同意します。

「当ゼミでは、学生たちの主体性や自主性を重視しています。企業の重鎮を招いた意見交換会などを行う際も、学生たちの力でゲストのことを徹底的に調べ上げるように指導しています。喫煙所のリニューアルは前例のないお話でしたが、参加に名乗りを上げる学生も多く、最終的に8名のメンバーを選抜しました」

「私の役目は、ゼミ生たちに考える機会を設けること」と牛尾教授。

世田谷区役所との協議の末、リニューアルするのは、二子玉川駅前の公共喫煙所に決定。選抜メンバーの学生たちはJTと打ち合わせを重ね、プロジェクトの方向性を固めていきます。そして、用意した案のなかから、区がもっとも興味を示したのが「多摩産の木材を使った喫煙所」でした。

「参加メンバーの一人が通っていた高校の内装に多摩産材が使われており、そこから着想を得たと聞いています。SDGsも意識した国産木材の有効利用は、若者ならではの素晴らしいアイデアだと思いましたね」

アイデアは採用されたものの、学生たちは国産木材についての知識や取り巻いている現状をよく把握できていませんでした。「足を使って、コネクションを切り拓く。これもうちのゼミの方針です」と、牛尾教授。学生たちはその教えに従って、プロジェクトを実現に導くパートナーを独力でリサーチ。そして、国産木材のプロフェッショナルが集まる「MOCTION」(モクション)へとたどり着くのでした。

人に癒しのひとときをもたらす国産木材の底力

MOCTIONは、東京都が運営している国産木材の魅力発信拠点。建築家の隈研吾さんを館長に迎え、国産木材の活用やオフィスの木質化に取り組んでいます。2020年には新宿区にショールームをオープンし、国産木材を使った製品を展示するほか、木材調達の相談などにも対応。ふらりと訪れる人も多く、オープン以来、累計15,000人以上が来場しています。

MOCTIONの啓発・普及活動は、もともと一般家庭や企業をターゲットにしたものでした。今回のような産学連携のプロジェクトと関わるのは初めてのこと。スタッフの加藤太一さんは、学生たちとの出会いを次のように話します。

「学生の皆さんが、我々のショールームに足を運んでくれたことから連携がはじまりました。数ある社会課題のなかから、国産木材・多摩産材に着目したことに感心しました」

「牛尾ゼミの学生さんから意識の高さを感じた」とMOCTIONの加藤さん。

喫煙所に多摩産材をどのように活かすのか――。方針を決める前に、加藤さんは国産木材を使うことで得られるメリットについて、学生たちと共有しました。

「国産木材を使い続けることで、森林の循環を促し自然環境を保護することができます。森林には、土砂崩れや洪水の危機を軽減する働きがあるので、都市部にも大きなメリットがあると言えます。また、木の『炭素固定』も近年注目を集めています。これは、吸収した二酸化炭素を炭素として幹や枝に固定する特性。地球温暖化防止に一役買っており、森林が健全な状態に保たれていると、それだけ高い効果が期待できるんです。木に囲まれた空間で過ごしているときに、ストレスから解放された気分になったことはありませんか? うちのショールームを訪れた見学者がスギの小上がりに腰掛けたとき、ふと『はあ、落ち着く』ともらしたことがあったんです。木工製品とはなじみのなさそうな今時の若者だったから、とても意外で。もしかしたら、木に癒しを感じるのは人の本能なのかもしれませんね」

「MOCTION」のショールーム(上)。つい腰掛けたくなる小上がり(下)。

喫煙所のリニューアルにあたり、加藤さんは学生たちに効果的な木材の活用方法や今回のプロジェクトに適した製品などを提案。「学生の皆さんのアイデア優先で話を進めました。私はそのイメージに沿うように先導しただけ」と、アドバイス役に徹しました。

多摩川の洪水・氾濫の災害リスクにも備えた“つなぐ喫煙所”

プロジェクト始動から1年あまりの期間を経て、いよいよ新たな喫煙所がお披露目されました。改修のポイントは大きく分けて2つあります。

1つ目のポイントは「喫煙所の外壁に多摩産材を利用」していること。プロジェクトのメインテーマともいえ、細い板状に加工した多摩産材を等間隔で配置してパーティションとしました。参加メンバーによると「二子玉川駅前の開けた空間になじむデザインにしたかった。パーティションのところどころに隙間があるのは閉塞感を与えないため」とのこと。

屋外にある喫煙所なので、パーティションは風雨にさらされることになりますが、関連事業者によると「15〜20年近くは保つはず」とのこと。

「もちろん無垢材であれば、屋外で使用することでいずれ腐ってしまいます。しかし、近年は製材メーカーも国産木材を使ってもらえるように加工技術を磨いています。この喫煙所の多摩産材にも防腐処理、不燃処理を施しているので、耐久性も申し分なしです」

2つ目のポイントは「世田谷区洪水・内水氾濫ハザードマップを掲示」していること。多摩川流域に立つ二子玉川駅周辺は、2019年台風19号に伴う川の氾濫で浸水被害がありました。こうした洪水や増水・土砂災害の注意喚起も踏まえて、ハザードマップの掲示が決まりました。

喫煙所のリニューアルに際して、喫煙スペースに近隣のハザードマップを掲示。

地域情報や国産木材との接点が生まれる、まさに「つなぐ喫煙所」。リニューアル後の喫煙所と対面した学生の一人は「駅前に自分たちの関わった施設が立つなんて感無量です」と誇らしげ。牛尾教授は、学生たちの一年がかりの取り組みを次のように振り返ります。

「学生たちはこの喫煙所を“考える場所”にしたいと話していました。たばこを吸われる方と吸われない方の共存だけでなく、国産木材の有効活用といった社会課題に目を向けるきっかけになってほしい、と。そんな思いと向き合うなかで、学生たちも大きく成長したことでしょう。歴史ある企業でありながら、新しい感性を積極的に取り入れているJTさんあってこそのプロジェクトだと思います」

今回のプロジェクトをきっかけに、加藤さんもMOCTIONの活動を広げるヒントを得たようです。

「生活や身近な関わりのなかで、国産木材に触れる・感じる・知ってもらう機会を設けることがとても大切なのだと知りました。ここ最近は、教育機関に声をかけて学生向けのショールーム見学会も開いています」

JTは今回のプロジェクトのほか、武蔵野美術大学や多摩美術大学とのコラボレーションも実施。今後も産学連携による社会課題と向き合い、新たな価値の創造に取り組んでいきます。

牛尾 奈緒美(うしお・なおみ)
明治大学 情報コミュニケーション学部 教授
慶應義塾大学卒業後、フジテレビジョンアナウンサーとして活躍。結婚退社後、専業主婦となるが、慶應義塾大学大学院に進学。大学院博士課程を修了し、1998年、明治大学専任講師に公募で採用される。2009年より現職。専門は経営学、ジェンダー・マネジメント。明治大学前副学長(広報担当)。
国産木材の魅力発信拠点 MOCTION:スタッフ 加藤太一(かとう・たいち)
〒163-1062 東京都新宿区西新宿3-7-1
新宿パークタワーリビングデザインセンター OZONE 5F
tel:03-6258-0082
web:https://moction.jp/ 別窓で開く

CASE STUDY