INTERVIEW増田康宏棋士
インタビュー

2026/07/24 公開

静慮の棋士~JT杯覇者への道~増田康宏

将棋界を牽引している棋士の一人、「静慮」の棋士にスペシャルインタビューを敢行。
今回は、「JTプロ公式戦」初出場を飾る増田康宏さんが登場。
なかなか聞くことのできないプライベートなお話から「JTプロ公式戦」への想い、印象に残った過去対局の解説、将棋ファンの皆さまへのメッセージ動画など盛りだくさんです。ぜひ最後までご覧ください。

  • 本記事は2026年4月時点のインタビューに基づいたものです。
  • 文中に登場する棋士のタイトル・段位は対局当時のものとなります。

逆転の強さを携え、楽しみながら挑む新たな舞台

終盤力を武器に、長期視点と“楽しむ姿勢”で歩む棋士

棋士になったことで、取り巻く環境や心境に変化はありましたか?

やはり「ホッとした」という気持ちが一番強かったです。奨励会時代は、どこかで「このままプロになれないのではないか」という不安を常に抱えていました。自分ではいずれは棋士になれるだろうと感じてはいましたが、それが保証されているわけではありませんからね。その不安から解放されたことで、精神的な余裕が生まれたと感じています。

ご自身の「強み」はどこだと感じていますか?

自分の強みはやはり「終盤力」だと思います。こどもの頃から終盤で逆転する展開が多く、複雑な局面でも手が見えるタイプでした。序盤はそこまで得意ではなかったのですが、後半になるにつれて力を発揮するスタイルです。強い棋士の棋譜を見て終盤の指し回しを学ぶことも好きだったので、自然とその部分が磨かれていきました。そうした積み重ねが、今の自分の土台になっていると感じています。

棋士として大事にしている考え方はありますか?

一局ごとの勝ち負けに過度にこだわりすぎないことです。将棋は結果が明確に出る世界ですが、長い目で見れば調子の波もありますし、負けが続くことも珍しくありません。短期的な結果に引きずられないように、常に長期的な視点で物事を考えるようにしていますね。自分はもともと気持ちの面で影響を受けやすいタイプなので、ネガティブな方へ引っ張られないよう意識しています。

将棋やプライベートにおいて、大切にしている姿勢はありますか?

「どんなことでもできるだけ楽しもう」と意識をしています。将棋だけでなく、日常生活でも同じで、新しいことにも前向きに取り組んでいきたいです。何かに取り組むときに「楽しむ」という感覚を持てるかどうかで、見える景色が大きく変わると思います。結果だけでなく、その過程も含めて前向きに受け止めていくことが、自分にとっては大事なスタンスです。最近こどもが生まれたので、これまでに経験したことがないようなワクワクする日々を過ごしたいと思っています。

お休みの日はどのようにリフレッシュされていますか?

旅行をすることが多いですね。最近だと国内では三重、海外ではイタリアへ行きました。行き先は妻が決めることが多く、自分はほとんどついて行くだけなのですが、それも含めて楽しんでいます。自分で細かく計画するよりも、新しい場所に身を任せることで発見があるのが面白いですね。実際に行ってみると、どの場所もそれぞれの魅力があり、リフレッシュにもつながっています。

“特別な舞台へ-初出場の喜びと早指しの醍醐味

「JTプロ公式戦」にはどのような印象をお持ちでしょうか?

限られた棋士しか出場できない大会という印象が強く、特別な舞台だと感じています。また、全国11カ所を回りながら公開対局が行われる点も、他にはない魅力ですよね。普段の対局とは違い、多くの観客の前で指すという意味でも、よりイベント性の高い大会だと思います。そういった意味で、非常にプレミアムな経験ができる場だと感じています。

観客に注目してほしいポイントはどこでしょうか?

「JTプロ公式戦」の特徴でもある早指しです。自分は早指しが得意なタイプで、持ち時間の使い方も含めて工夫するところに面白さがあると感じています。特に終盤の30秒将棋では、あえて時間を使い切らずに指すことで、相手の時間を削るような“時間攻め”を意識することも。そうした駆け引きはスピード感の中でこそ際立つ部分なので、ぜひ注目していただきたいですね。短い時間の中でどんな判断が下されるのか、そこが見どころだと思います。

出場棋士の中で気になる存在はいますか?

やはり藤井聡太JT杯覇者ではないでしょうか。現在の将棋界は、いかに藤井JT杯覇者を止めるかという構図になっていると感じていますし、早指し棋戦でも安定して結果を残されていますよね。どの棋戦でも優勝争いの中心にいる印象があります。そうした中で誰が挑み、どう戦うのかという点は非常に注目していますし、自分自身もその一人としてしっかり向き合っていきたいです。

増田康宏さんより将棋ファンの皆さまへ

私が選ぶ「JTプロ公式戦」この一局

増田さんに過去の「JTプロ公式戦」の中から一局を選んでいただきました。
特に印象に残った局面もワンポイント解説!

2024年度準決勝第二局 藤井聡太JT杯覇者VS広瀬章人九段

普段から落ち着いていて決して諦めることのない藤井聡太JT杯覇者をもってしても挽回不可能な局面を作り出した広瀬章人九段の冷静な一手。損な応酬にも見える一手が、有利な展開を実現する冷静な一手であった点から、この対局を選びました。

ワンポイント解説!印象に残ったこの局面

序盤は広瀬章人九段の作戦で相掛かり戦となり、そこからAIの定跡で最近よく使われる流れになり、互角の展開となっていました。中盤、59手目の広瀬章人九段が6五桂を取って、同銀という展開から一気に打開しに行ったんですよね。それがすごく良い指し方で、飛車が取り切れる形になり、ここから広瀬章人九段ペースの将棋になりました。

  • 「7九香(77手目)」藤井聡太JT杯覇者

序盤は広瀬章人九段の作戦で相掛かり戦となり、そこからAIの定跡で最近よく使われる流れになり、互角の展開となっていました。中盤、59手目の広瀬章人九段が6五桂を取って、同銀という展開から一気に打開しに行ったんですよね。それがすごく良い指し方で、飛車が取り切れる形になり、ここから広瀬章人九段ペースの将棋になりました。

ただ、対藤井戦はそこまでいく人は多く、序盤作戦勝ちで優勢になるのはよくあるパターンです。問題はここから勝ちに持っていくのが難しいところなんです。でも、この流れがあったからこそ、77手目の7九香が通りました。このあたりは指し手がいろいろ迷うところでもありますね。

その後、すぐに6八金で王手をされて、指した香車はすぐに取られてしまう手なので、損な応酬に見えますが、6一龍とまわって5四銀とした攻めることができて、同銀は5二龍と金を取ることができます。この展開が生まれた理由は、金が持たれていると6一龍がまわった時に7一金で龍が取られてしまうので、香車打たせることで金を使わせ、この6一龍を実現させたことになります。

ただ、対藤井戦はそこまでいく人は多く、序盤作戦勝ちで優勢になるのはよくあるパターンです。問題はここから勝ちに持っていくのが難しいところなんです。でも、この流れがあったからこそ、77手目の7九香が通りました。このあたりは指し手がいろいろ迷うところでもありますね。

その後、すぐに6八金で王手をされて、指した香車はすぐに取られてしまう手なので、損な応酬に見えますが、6一龍とまわって5四銀とした攻めることができて、同銀は5二龍と金を取ることができます。この展開が生まれた理由は、金が持たれていると6一龍がまわった時に7一金で龍が取られてしまうので、香車打たせることで金を使わせ、この6一龍を実現させたことになります。

プロフィール

増田康宏(八段)
1997年11月4日生まれ東京都昭島市出身

  • 2002年5歳の頃に将棋を始める
  • 2006年「将棋日本シリーズ こども大会 東京大会」低学年部門で優勝
  • 2007年「将棋日本シリーズ こども大会 東京大会」高学年部門で優勝
  • 2008年奨励会入会
  • 2014年四段に昇段、プロ入り
  • 2016年「新人王戦」優勝
  • 2017年「新人王戦」2回目の優勝
  • 2018年五段、六段と一気に昇段
  • 2023年七段に昇段、名局賞 特別賞を受賞
  • 2024年八段(順位戦A級昇級)に昇段
  • 2025年棋王戦でタイトル初挑戦、名局賞 特別賞を受賞
  • 2026年「JTプロ公式戦」初出場

棋士プロフィール一覧

テーブルマークこども大会 OB紹介

念願の「JTプロ公式戦」初出場を果たした増田康宏さんは、2006年度に「将棋日本シリーズ こども大会」東京大会(当時)に出場し、低学年の部で優勝。翌年度も高学年の部で優勝を果たしています。
今回のインタビューでは、将棋を始めたきっかけから、「将棋日本シリーズ こども大会」の思い出、プロを目指したきっかけなどを語っていただきました。
こども大会への参加を考えている皆さんへのメッセージもいただきました。最後までぜひお読みください!

JTプロ公式戦について

「JTプロ公式戦」はトップ棋士12名の豪華な顔ぶれが、公開対局により「JT杯」のタイトルを争います。
公開対局ならではの間近のライブ感を楽しむなら「会場観戦」、実況を楽しむなら「ABEMA生中継」、じっくり戦況を味わうなら「棋譜中継」。お好みのスタイルでご観戦いただけます。