INTERVIEW佐々木勇気棋士
インタビュー
2025/06/16 公開
将棋界を牽引している棋士の一人、「躍動」の棋士にスペシャルインタビューを敢行。
今回は、「JTプロ公式戦」初出場を飾る佐々木勇気さんが登場。
なかなか聞くことのできないプライベートなお話から「JTプロ公式戦」への想い、印象に残った過去対局の解説、将棋ファンの皆さまへのメッセージ動画など盛りだくさんです。ぜひ最後までご覧ください。
- 本記事は2025年4月時点のインタビューに基づいたものです。
- 文中に登場する棋士のタイトル・段位は対局当時のものとなります。
棋士になったことで、取り巻く環境や心境に変化はありましたか?
プロ入りしたことで、将棋を指せるのが楽しいという気持ちになりました。なぜなら、プロになる前の三段リーグは厳しくて、棋譜も残らないですし、前半に負けが込むと後半がきつくなるんです。棋士になると、負けてもまた次があるから全然違って、楽しいという気持ちが大きかったです。それから14年経って、プロとして戦う中で、あと一局で決勝に行けるとか、ここが大一番だとか、重要な対局を経験することが増えました。そういう大きな勝負に負けてしまうこともあるわけで、楽しいだけではないプロの厳しさというものがわかってきました。

ご自身の「強み」、それとは逆に課題を感じる部分は何でしょうか?
こどもの時から強みは終盤でした。序盤はあまり意識して指していませんでした。だからプロになりたての頃は、序盤で出遅れることが多かったです。自分は定跡を勉強するというよりは、道場や大会などの実戦中心で強くなってきたという自負がありました。だから定跡を勉強していなくて、定跡通りの形で負けてしまうこともありました。でも今はAIがあって、細かいところまで研究できるようになったので、序盤も緻密に研究するようにしています。

棋士としてのこだわりや意識している行動はありますか?
今、意識していることは、対局が終わった後、勝っても負けても、できるだけ早く元の状態に戻すことです。対局が終わった後は、心身のコンディションを元に戻すのに一日ぐらいかかってしまうんです。特に負けた時の方がきついんですけれど、次の対局も大事なので引きずるわけにはいかない。回復法を考えているところは、アスリートに似ているかもしれません。
趣味ではどんなことに挑戦していますか。
最近ゴルフを始めました。時間があったら行きたいなと思っています。時間が取れないんですけれど(笑)。研究でもパソコン画面を見ている時間が長いので、それを一旦絶ってリフレッシュすることを意識しているかもしれません。ゴルフに行くと半日ぐらいスマホやパソコンを見ませんから。そうしていると、急に「将棋やりたいな」と思ったりするんです。研究ばかりしているのは、自分にはあまり合わなくて、オンとオフを切り替えるタイプかもしれません。今は毎週対局があって、研究に時間を費やさないといけないのですが、時間があればゴルフに行きたいと思っています(笑)。
「JTプロ公式戦」にはどのような印象をお持ちでしょうか?
すごく出たかったんですけれど、なかなか出るのが難しい棋戦だなと思っていました。本当に選ばれし12人しか出られない。昨年こそは出られると思ったら出られなくて、「やっぱり厳しいな」「もうずっと出られないんじゃないか」と思っていました。でも悔しさをバネに頑張って、昨年は竜王戦のタイトル初挑戦もありました。出場できるのはすごくうれしいです。

「JTプロ公式戦」の特徴でもある早指しの醍醐味は何でしょうか?
形勢が揺れ動く、早指しならではのスリリングな展開が魅力です。やっている方は大変なんですけれども、見ている方は面白い。持ち時間の使い方も戦略の一つなので、出場棋士は皆うまいと思います。形勢判断の目安は、マニアックかもしれないですけど、どちらが先に手を止めて、時間を使って考えるかという点です。その短い時間の中でも棋士は頭をフル回転して指しているので、そういう姿を見ていただけたらなと思います。
和装での公開対局や大盤解説についてはいかがですか?
いろんな地方に行って和装で対局するというのは、タイトル戦みたいで気持ちが入りますね。隣で解説がある形式の公開対局もやってみたかったので楽しみです。ただ、出場する前に一度解説をやってみたかったですね(笑)。それを経験しておけば、会場の雰囲気や一日のスケジュールがわかった上で対局に臨めたのですが……。今回はそういう経験もなく、対局者として初挑戦なので、雰囲気にのまれないようにしたいと思っています。

今年の出場棋士で気になる方はいますか?
永瀬拓矢九段がどのブロックに入っているかは気になります。早くトーナメント表を見たいですね。永瀬九段と当たりたいかというと……(笑)。当たるなら、勝ち上がっていって、決勝戦で当たりたいですね。


佐々木勇気(八段)
1994年8月5日生まれ埼玉県三郷市出身
- 2000年5歳の頃に将棋を始める
- 2003年「将棋日本シリーズ こども大会 東京大会」低学年部門で優勝
- 2004年「将棋日本シリーズ こども大会 東京大会」高学年部門で優勝
奨励会入会 - 2010年四段に昇段、プロ入り
- 2014年五段に昇段
- 2016年最多対局賞を受賞
- 2017年六段に昇段、升田幸三賞を受賞
- 2018年七段に昇段
- 2023年八段に昇段
- 2024年竜王戦でタイトル初挑戦
- 2025年「JTプロ公式戦」初出場


念願の「JTプロ公式戦」初出場を果たした佐々木勇気さんは、2003年度に「将棋日本シリーズ こども大会」東京大会(当時)に出場し、低学年の部で優勝。翌年度も高学年の部で優勝を果たしています。
今回のインタビューでは、将棋を始めたきっかけから、「将棋日本シリーズ こども大会」の思い出、プロを目指したきっかけなどを語っていただきました。
こども大会への参加を考えている皆さんへのメッセージもいただきました。最後までぜひお読みください!。
JTプロ公式戦について
「JTプロ公式戦」はトップ棋士12名の豪華な顔ぶれが、公開対局により「JT杯」のタイトルを争います。
公開対局ならではの間近のライブ感を楽しむなら「会場観戦」、実況を楽しむなら「ABEMA生中継」、じっくり戦況を味わうなら「棋譜中継」。お好みのスタイルでご観戦いただけます。
佐々木さんに過去の「JTプロ公式戦」の中から一局を選んでいただきました。
特に印象に残った局面もワンポイント解説!
初出場の自分としては、これまでの初出場棋士の棋譜を数多く並べてきましたが、中でも昨年初出場を果たした佐々木大地七段の将棋が強く印象に残りました。相手は羽生善治九段、しかも公開対局という独特の緊張感が漂う舞台。普通なら気圧されてもおかしくない場面ですが、佐々木七段は終始冷静に指し手を重ね、最後は見事に詰みに仕留めた一局でした。
終盤のハイライトは、125手目の5三馬。これが冴えた一手でした。以下、126手目に同玉と応じさせてから、桂馬の利きを生かした4四銀の捨て駒(127手目)。見えてしまえば「なるほど」と思える筋ですが、持ち時間の短い早指しの中でこの手順を正確に指せるのはさすがです。
終盤のハイライトは、125手目の5三馬。これが冴えた一手でした。以下、126手目に同玉と応じさせてから、桂馬の利きを生かした4四銀の捨て駒(127手目)。見えてしまえば「なるほど」と思える筋ですが、持ち時間の短い早指しの中でこの手順を正確に指せるのはさすがです。
桂が利いている4四への銀捨ては同桂と取らせて、すかさず5二金と打つ ことで、3手詰みへと収束させる狙い 。自分などは形勢が良くても秒読みの中で手が見えなくなり、逆転されてしまうことも少なくありません。その点、この一局は優勢を保ったままきっちり詰みに持ち込んだ、理想的な終盤戦といえるでしょう。
相手はトップ棋士の羽生九段。しかも多くの観客の前での公開対局というプレッシャーのかかる場面で、佐々木七段は自身の棋風通り、落ち着いた指し回しを貫き、 綺麗に寄せ切る完勝譜でした。
桂が利いている4四への銀捨ては同桂と取らせて、すかさず5二金と打つ ことで、3手詰みへと収束させる狙い 。自分などは形勢が良くても秒読みの中で手が見えなくなり、逆転されてしまうことも少なくありません。その点、この一局は優勢を保ったままきっちり詰みに持ち込んだ、理想的な終盤戦といえるでしょう。
相手はトップ棋士の羽生九段。しかも多くの観客の前での公開対局というプレッシャーのかかる場面で、佐々木七段は自身の棋風通り、落ち着いた指し回しを貫き、 綺麗に寄せ切る完勝譜でした。