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Appassionato ─ 響きにこだわり、奏でる音楽家たち

偉大な先人たちの努力を音にして人の心に届けたい──渡部玄一さん(チェロ)

公演概要

シューベルト祭vol.02 〜大好きを極めた巨人のポートレート〜

公演日 2013年10月25日(金)
プログラム
シューベルト :4つの即興曲より 第3番 変ト長調 D.899
  :ピアノ三重奏曲 第1番 変ロ長調 D.898
  :弦楽五重奏曲 ハ長調 D.956
出演 長原幸太(ヴァイオリン) 直江智沙子(ヴァイオリン) 森口恭子(ヴィオラ) 山崎伸子(チェロ)
渡部玄一(チェロ) 島田彩乃(ピアノ)

プロフィール

渡部玄一(わたなべ げんいち)

東京藝術大学附属高校を経て、桐朋学園大学卒業。1993年ジュリアード音楽院卒。ニューヨーク在住中には国連総本部やリンカーン・センターなどでリサイタルを開催、好評を博す。1995年帰国。以来、NHK-BS、NHK-FM出演をはじめ、ソリストとして、また室内楽、オーケストラ奏者として幅広く活躍している。2003年より文化庁海外派遣員として一年間ドイツのミュンヘンにて研修。2008年東京アンサンブルギルド設立。現在、読売日本交響楽団団員、及びフェリス女学院講師。2011年CD「It’s Peaceful Here ここは良きところ」をリリース。著作に「知的生活の方法―音楽編」(共著)ワック出版、「ワタナベ家のちょっと過剰な人びと」海竜社出版などがある。

シューベルトが死の年に辿りついた境地を聴く
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ソリスト、室内楽奏者、そして読売日本交響楽団の団員として活躍する、チェリストの渡部玄一さん。充実した演奏活動の傍ら『東京アンサンブルギルド』を主宰し、演奏会のプロデュースや音源の配信など、日本の優れたアーティストの演奏を多くの人に届ける活動も行っている。

そんな渡部さんが、敬愛するシューベルトを取り上げる演奏会を行った。『シューベルト祭』と題し、若手、ベテランによる豪華な顔ぶれで、シューベルトの名作を演奏するもの。第1回は2009年の春に行われ、以来4年ぶりの開催となった。時間をかけて練り上げた今回のプログラムでは、シューベルトが最晩年に書き上げた作品ばかりを選んだ。

31歳の若さで世を去ったシューベルトについて、演奏会で渡部さんはこう語った。

「こんなにも素晴らしい作品を遺したシューベルトが、もう少し長く生きていてくれたらと思うこともあります。しかしそんなときに思い出すのが、吉田松陰の言葉です。彼は若き死の直前、こんなことを書き残しています。『春夏秋冬という四季の循環において、秋に収穫を迎えた農民がその労働の終わりを悲しむことはない。今、自分は自らの生涯に四季を感じることができる。人の生涯には長短があるが、実りをもって死ぬのに、何を悲しむことがあろうか』と。今日は、シューベルトが死の年に辿りついた境地を聴いていただきたいと思います」
歳を重ね、ようやくシューベルトの音楽の中に入っていけるようになった
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演奏会は、ピアノ独奏による「4つの即興曲より 第3番 変ト長調 D.899」で始まった。続く「ピアノ三重奏曲 第1番 変ロ長調 D.898」は、3つの楽器がそれぞれ美しく響き、メロディがのびやかに歌われる立体的な演奏。後半の「弦楽五重奏曲 ハ長調 D.956」では、ふくよかなハーモニーが、死の年に書かれたこの作品の不思議なまでに輝く生命力を表出した。

歳を重ねるごとに、ますますシューベルトへの想いが募るという渡部さん。

「この歳になって、ようやくシューベルトの音楽の中に入っていけるようになった気がしています。彼が音楽に対して持っていた信頼と愛情は特別で、演奏しているとたまらない気持ちになります。かつて音楽評論の吉田秀和先生が『シューベルトの音楽には、ぽっかりと虚無の穴が開いている』というようなことをおっしゃっていましたが、確かに底知れぬおそろしさのようなものを感じるところもあります。こういう作曲家は、他にはいません」
作曲家の生涯を自分と重ねて感じ、対話してほしい
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渡部さんは自らが主催する演奏会の多くで、作品や作曲家についてのお話を挟む。その内容はユーモアに富み、聴衆の理解を助け、作曲家を近くに感じることのできるものだ。

「病院や学校でのアウトリーチ活動を多く行っていることもあり、特にお客さまがクラシック音楽に詳しい方ばかりでない演奏会では、トークを入れるようにしています。聴いている方が、作曲家の生涯を自分と重ねて感じ、自らも、社会、芸術の歴史という大きな流れの中にいるのだと実感できるような話をしたいと思っています。解説があったことで作曲家と対話しているような気持ちになれたという感想をもらうと、やってよかったと思いますね」
響きに上質な木の感触がある、楽器との親和性が高いホール
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JTアートホール アフィニスでは、これまでに幾度も演奏を重ねている。

「客席のどの場所で聴いても響きが良く、また奏者にとっても演奏しやすいホールです。弦楽器奏者が毎日触れているのは木で、そこから出てくる良い音を日々追求しています。JTアートホール アフィニスの響きには、上質な木の感触があります。少しザラッとした木目が感じられるといいましょうか。さまざまな楽器との親和性が高いと思います。“室内楽に向いたホール”といわれるのは、そのためでしょう」

室内楽はクラシック初心者にとって少々難しい印象があり、また愛好家の数も決して多くない分野というのが現状だ。しかし実際は珠玉の名作が揃う。一人でも多くの人に室内楽の魅力を届けられるよう、今後も活動を続けていきたいという。
音楽一家に育った少年時代、厳しい師のもと学んだ留学時代
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渡部さんは、母と姉がピアニスト、弟はヴァイオリニストという音楽一家に育った。唯一音楽家でない父は、英語学者・評論家で著書も多い渡部昇一さんだ。その影響もあってか、渡部さんもたくさんの本を読んで育ち、昔から“活字中毒”だという。

東京藝術大学附属高校、桐朋学園大学を卒業したのち、ニューヨークのジュリアード音楽院に留学。一流アーティストが集う街で、全盛期のパバロッティやドミンゴなどを聴き、音楽的に贅沢な経験をすることができたと振り返る。

ジュリアード音楽院では、名教師として知られるハーヴィ・シャピロに師事した。

「世界一怖い先生でした。とても偉大な方であり、個性的でした。僕もまだ若かったので余裕もなく、ときには怒られることを理不尽に感じることもありました。例えばある部分を、この前は大きく弾けと言われたのに、今日は小さく弾けと言われる。そのときは実に理不尽に感じるんです。でも後で考えると、実は音量ではない、その部分の演奏に何か問題があるからいろいろなことを言われていたのだと気が付くわけです。それにしても怖かったですね。僕はもともと母に鍛えられていたので、乗り越えてこられたところもあります。母は桐朋のピアノ科の一期生ですから、かなり厳しかったですよ。おかげで今となっては、オーケストラでどんなに怖い指揮者が来ても委縮することはありません(笑)」
先人の無私の努力が心に届いたとき、人は孤独から救われる
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帰国して演奏活動を行っていたが、再び2003年から文化庁海外派遣員としてドイツのミュンヘンに留学。優れたオーケストラを持ち、人々の日常にクラシック音楽があふれている街で、1年間さらに研鑽を積んだ。

「そのときは30代後半でしたから、生活するうえでの日本の素晴らしさを改めて実感するとともに、クラシックについて日本はもっと豊かになれる余地があるとも感じました。孔子は論語の中で、『人間形成の最後に大切なのは音楽だ』と言っています。日本では、西洋音楽は明治時代に学校教育に取り込まれ、これは人間形成に資するということでここまで受け継がれてきたといえるでしょう。それがあって、現在日本のクラシック音楽文化が花開いていると意識するのは大切なことです」

2008年に東京アンサンブルギルドを設立したのも、そんな音楽芸術を育む営みに貢献できればと思ってのことだ。

「衣食住についてはほぼ事足りている現在の日本で、豊かであるとはどういうことかと考えたとき、芸術は外すことのできないものです。モーツァルトは晩年に素晴らしい交響曲を書きましたが、それは、金銭や名誉のためにしたことではありません。貧困の中、若くして亡くなったシューベルトも同じです。こうした偉大な先人の無私の努力や誠実さが心に届いたとき、人は孤独から救われ得るのではないでしょうか。そのためにも、芸術を感じる力をつけておくことはとても大切だと思います」

素晴らしい音楽が持つ真のメッセージを受け取るためには、感じられる心を磨いておくことが必要だ。渡部さんの多彩な活動が、聴衆と作曲家を音楽の架け橋でつなぐ。
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