Chapter1:18グラム。わずかに残された可能性の「種」

Chapter1:18グラムの「種」

JT植物イノベーションセンター内の倉庫にある「長期種子貯蔵庫」には、これまで開発された数多くの種もみが眠っています。庫内の温度は常に0度に保たれ、研究開発に寄与する遺伝資源として厳重に保管。「いわた13号」も、数ある資源の一つとしてそこに保管されていました。

東北向けに開発された「いわた13号」

JT植物イノベーションセンター内にある倉庫。

JT植物イノベーションセンター内にある倉庫。
 

倉庫内にある長期種子貯蔵庫。この中に「いわた13号」が保管されていました。

倉庫内にある長期種子貯蔵庫。
この中に「いわた13号」が保管されていました。

静岡県磐田市にあるJT植物イノベーションセンター(以下、PIC)。稲などの穀物の品種改良に役立つ遺伝子を研究するPICでは、前身にあたるアグリ事業部の時代に、東北地方の気候に適した品種の開発を行っていました。品種の名称は「いわた13号」。年間100種類以上のさまざまな稲の掛け合わせを経て、1992年に自社開発の品種「いわた3号」と「ひとめぼれ」を交配。そこからさらに品種改良を経て2000年にようやく完成したのが、この「いわた13号」でした。
粘りや食感、見た目の輝きなどを含めた総合的なおいしさに加え、病気にも強い特性を持つ「いわた13号」は、それまでの自社開発米の栽培地として北限だった福島県からさらに北上し、岩手県と秋田県にまで栽培可能地域を広げていきました。

しかし2003年、JTはアグリ事業からの撤退を決定し、米の品種改良から手を引くことになりました。PICの研究員は当時のことを、「全身の力が抜け、血の気がひく思いだった。コツコツと積み上げてきたものが一気に崩れ落ちた」と振り返ります。アグリ事業からの撤退は、「いわた13号」をはじめとする“いわたシリーズ”の開発にかけた、約15年間にわたる全ての研究がゼロになることを意味していました。

陽の目を見ることなく月日は流れ……そして

「いわた13号」の品種登録が完了したのは2002年。しかし、それは2008年には取り下げることになります。多くの品種は、種もみだけがPIC内の「長期種子貯蔵庫」で継続して保管されました。「いわた13号」も最終的には種もみ約18グラム、フィルムケース6本分だけが、研究材料としてPIC内の「長期種子貯蔵庫」で継続して保管されます。
研究員いわく、PICの遺伝資源として最低限を保存するので、99%は処分し、宝になる可能性のある1%だけ残すということでした。ただし、その1%も活用されるかどうかは分からないということ。一度も陽の目を見ることなく、まさに“お蔵入り”となった「いわた13号」。月日は流れ、やがて、その存在が思い出されることも稀となっていきます。
そして、2011年3月11日(金)。東日本大震災が発生します。

「いわた13号」が入った密閉フィルムケース。

「いわた13号」が入った密閉フィルムケース。

わずかに残された「いわた13号」の種もみ。

わずかに残された「いわた13号」の種もみ。

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