前列左より
社外取締役
木寺 昌人
取締役会長
岡本 薫明
社外取締役
内田 由紀子
後列左より
取締役副会長
寺畠 正道
社外取締役
朝倉 研二
2025年度は社長交代や事業ポートフォリオの変更など、JTグループの経営において重要な変化が重なった年でした。社外取締役と機関投資家との対話を通じて寄せられた主な関心事項を踏まえ、取締役間で議論を行いましたので、その一部をご紹介します。
取締役会として、JTグループの企業価値向上に向けた事業ポートフォリオのあり方をどのように考え、議論されていますか。
医薬事業の譲渡について
寺畠2025年度は医薬事業の譲渡という大きな決断を下しました。医薬事業はこれまで、鳥居薬品との一体的なバリューチェーンを通じて当社グループの利益に貢献を果たしてきました。しかしながら、近年は新薬創出の難易度上昇や国際競争の激化、さらには我々がたばこ事業を中核とする企業であることに起因する事業活動への制約などにより、当社グループ内での中長期的な成長性が不透明な状況となっていました。
一方、当社グループで培ってきた高い創薬力やノウハウを将来に亘って、より発展させるためには、医薬事業と鳥居薬品の双方に価値を見出し、なおかつ新薬創出に重点を置く製薬企業のもとで事業展開を行うことが望ましいと判断しました。取締役会で議論を重ねた結果、製薬事業に特化し、研究開発を中核とする塩野義製薬株式会社への承継が最善との結論に至りました。企業の社会的責任として、創薬力とそれを支えてきた人財が今後も専門性を十分に発揮できる環境を追求することは、各ステークホルダーからの信頼の醸成・維持につながると考えています。その意味において、医薬事業の譲渡は中長期的な視点で当社グループの企業価値向上に資するものと認識しています。
岡本1985年のJT会社化からの流れを振り返って考えると、日本企業の中で当社グループほど劇的な変化を遂げた例も珍しいのではないでしょうか。JT発足当初、たばこ事業において当面は安定的な運営が見込まれていたにもかかわらず、積極的に事業の多角化・国際化に取り組みました。そこでは当社グループの将来に向けた危機意識が大きな原動力になったと認識しています。
医薬事業の譲渡についても、一つの事業をどうするかというだけでなく、将来を見据えたさまざまな観点から議論が交わされました。取締役会では、医薬事業を取り巻く環境変化や将来の成長可能性を踏まえた状況認識の共有がしっかりなされた結果、適切な譲渡の決断ができたと考えています。
JTグループの将来の成長に向けて
寺畠当社グループは中長期に亘る持続的利益成長の実現に向けて、「利益成長の中核かつ牽引役」としてのたばこ事業、および「利益成長を補完する役割」としての加工食品事業によって事業ポートフォリオを構成しています。たばこ事業ではRRP(Reduced-Risk Products)を将来の重要な成長領域と位置付け、今後3年間で約8,000億円の投資を行います。加工食品事業については、国内で培った強みを活かしながら、中長期的な事業成長に向けた取り組みとして、北米と東南アジアを中心に主力商品である麺、調味料などの事業量拡大に注力していく方針です。
また、「心の豊かさ」の領域において、JT Group Purposeの実現を軸に、社会から求められる価値提供の在り方を柔軟に変えていく必要があると考えています。2020年に設置したD-LABを通じた新規事業開発により、持続的な成長に向けた選択肢の拡大に取り組んでいます。現在では、グローバルで100件以上のプロジェクトを推進する中で、製品販売に至った施策もあります。また、2026年5月時点でスタートアップへの投資件数は約200件に達しています。取締役会としては、既存事業を取り巻く成長の道筋について確認をすると同時に、このD-LABの成長を後押ししていきたいと考えています。
内田D-LABは、当社グループがたばこ事業および加工食品事業にとどまらず、より幅広い視点から自社の将来像を見極めていくうえでも、きわめて重要な存在です。JT Group Purposeが掲げる「心の豊かさ」は非常に広い概念であり、明確に答えが決まっているわけではありません。さまざまな人にとっての、さまざまな「心の豊かさ」があり得るばかりでなく、国や文化、時代によっても変わるものです。逆に言えば「心の豊かさ」は多様であるからこそ、多くの人にリーチする概念であると考えられます。皆様に自分事と捉えていただける事業の種がD-LABから創出され、今後の社会のあり方や「心の豊かさ」を考えるきっかけとなる視点を提示していく――そのような展開に進んでいくよう、私自身も貢献していきたいと考えています。
朝倉私が社外取締役に就任してからの2年間で、たばこ事業に関しても注目すべき取り組みが見られました。例えば2024年には米国Vector社を買収し、最近では、Heated Productsに加え、Modern OralやE-VaporといったCombustibles以外のカテゴリで急速に技術開発が進んでいます。事業別はもちろんのこと、たばこ事業の中でも地域や製品領域におけるポートフォリオの充実が図られている点は、中長期的な成長に向けた布石が着実に打たれていると考えています。一方で、加工食品事業やD-LABを含めた将来の成長領域については、それぞれの特性や時間軸を踏まえながら、どのように成長の道筋を描き、事業の柱へと育てていくかが重要な論点です。特にD-LABについては、長期的な観点で将来の選択肢を広げる取り組みであるからこそ、その取り組みの進捗に応じたKPIやマイルストーンの設定、事業化に向けたロードマップについて、今後さらに議論を深めていく必要があると考えています。
木寺2025年には朝倉さんとともに、機関投資家とのスモールミーティングに初めて参加させていただき、投資家の皆様が当社グループの事業ポートフォリオ変革に高い関心を寄せていらっしゃることを実感しました。私は、将来的にたばこ事業においてNGP(次世代製品)として、紙巻や加熱式とはまったく異なる、新しいタイプのたばこが生まれてくることを期待していますし、取締役会としても、そうした可能性を視野に入れながら、研究・開発の方向性を注視していきたいと考えています。
2025年にJTでは8年ぶりとなる社長交代がありました。そうした重要な経営判断にあたり、取締役会や人事・報酬諮問委員会ではどのような課題認識のもとで議論を重ね、意思決定に至ったのでしょうか。
岡本JTグループでは、経営幹部候補者群について、当社グループの企業理念である「4Sモデル」の追求を担い、中長期的な企業価値向上に資する資質を備えた人財を対象に、質・量の両面で日頃から拡充を図っています。意思決定のプロセスについては、社長が策定する候補者案について、人事・報酬諮問委員会における審議と社外取締役の助言を経て、取締役会で最終決定がなされます。
寺畠社長交代については、当時の会社代表であった私が人事・報酬諮問委員会の各委員に対して、複数の候補者の検討段階からサクセッションプランの策定状況に関する共有を行い、委員会で定期的に進捗状況を確認しながら議論を継続してきました。RRPのグローバル展開や医薬事業の承継といった諸課題への対応に一定の目途が立ったタイミングで、筒井さんを次期社長の適任者として推薦したい旨を、委員会に説明し、委員会でも審議のうえ適切と判断され、昨年11月に公表の運びとなりました。
筒井さんは過去のM&Aを含む事業開発の経験値が豊富であり、D-LABの立ち上げにも携わったほか、前職においてはRRPのグローバル運営体制を整備し、プロダクトパイプラインの拡充体制を構築しています。さらにはHeated Productsの新型デバイス「Ploom AURA」を開発し、グローバルへの市場展開を実現した実績など、その知見やリーダーシップは確かなものでした。また、私が一緒に働いた経験で言うと、イノベーションやコンシューマーセントリックに対するコミットメントの高さも筒井さんの持ち味です。お客様の声に真摯に耳を傾け、仕事の現場を見ながらさまざまな改善に取り組んで、必ず結果を出そうとする。そうした新しい価値創出への飽くなき探求心は、次世代の当社グループを育み、成長させていくうえで不可欠の資質だと思います。これらの経験やリーダーシップは、現在および今後の当社グループが直面する課題に即したものと判断し、次期社長として選任することとしました。
朝倉筒井さんは取締役会での積極的な発言が印象的です。私たち社外取締役との間でも1on1ミーティングなどを通じて密にコミュニケーションを図ろうという強い意識が感じられます。今後、新社長としてさまざまな新しいビジョンを発信されていくと思いますが、そのビジョンがどのように具体的な戦略やKPIに落とし込まれていくのかを楽しみにしています。
木寺筒井さんと実際に話をする中で、たいへん「聞き上手」な方との印象を持ちました。コミュニケーション能力の高さは、新社長としてリーダーシップを発揮していく縁(よすが)になるであろうと大いに期待しています。
岡本さんの発言にもありましたが、取締役会としては当社グループの未来を担う人財の確保も重要な課題です。当社グループの若手社員と社外取締役が議論する場を設けられ、将来の当社グループを担う人財とざっくばらんにお話しする機会に恵まれました。人事・報酬諮問委員会において、実効的な議論を行ううえでこのような将来の経営幹部候補者との直接的なダイアログは長期的な観点での経営人財の選定に非常に有用であり、今後も継続していきたいと考えています。
グローバルに事業を展開するJTグループのガバナンスについても、機関投資家から高い関心が寄せられていますが、取締役会として、グループ全体のガバナンスをどのように考えていますか。
グローバルガバナンスの現状
寺畠我々は2022年1月より国内たばこ事業、海外たばこ事業の事業運営体制を一本化(One Team)し、たばこ事業運営体制の強化を図りました。日本市場を含むたばこ事業の本社機能は、海外たばこ事業の本社機能を有するスイスのJTIに統合し、それ以前より統合していたR&D機能に加えて、たばこ事業に係るマーケティング、セールス、製造、原料、品質保証等といった各機能のレポートラインもグローバルに統合しています。
加えて、One Teamに合わせてガバナンスを強化するにあたっては、ベースとなるシステムや不正が起こりにくい体制をいかに構築するかが重要になります。我々は2年間をかけて、2024年1月に日本と海外のERP(統合業務基幹システム)を完全に統合しました。グローバルでワンインスタンスのERPを持ち、意思決定の基準となるオペレーションガイドラインも世界共通なので、海外において何らかの意思決定が行われた場合、それらをすべて東京のJT本社でチェックすることが可能です。このようにハード面からもガバナンス体制は整備されています。
岡本One Teamは他の日本企業と比べて特殊な経営形態ですが、いきなりそうなったわけではありません。過去の海外M&Aを通じて事業を拡大してきた当社グループでは、世界130以上の国・地域で事業を展開する中で、適切なガバナンスを前提とした現地における自律的経営判断、すなわち「任せる経営」を尊重する体制を構築してきました。責任権限規程の中で、組織の設計・運営に関する責任権限を明確化し、重要な決裁権限と決裁手続きを定めています。例えばJTIが策定した事業計画や一定額を超える投資事案などについては適宜、JTにて承認を行うなど、子会社ガバナンスの確保に努めています。
現経営陣にはJTIでの事業経験が豊富なメンバーが揃っているほか、社長がたばこ事業の本部長を務める体制をとっており、社長を含む3名の執行兼務の取締役に情報がタイムリーに共有される仕組みです。このような体制を通じて、JTの取締役会とJTIの信頼関係が醸成できている状況にあります。現行の体制でガバナンスは有効に機能していると認識していますが、事業環境の不確実性が高まる中、中長期的な利益成長や企業価値向上に向けての実効的な議論を行い、将来の当社グループにふさわしいガバナンスのあり方を継続的に検討していく必要があると考えます。
木寺重要なのは、経営層の意識と情報共有体制です。当社グループでは国内外を問わず、どこで何が起きても情報が取締役会に迅速に共有されています。今後もこうしたグローバルガバナンスへの高い問題意識を持ち続け、日常的な情報共有や議論を通じて取締役会として継続的に維持していくことが重要だと考えています。
今後の課題
寺畠たばこ事業のガバナンスには「執行による関わり」と「監督による関わり」という2つのルートが存在しています。執行としては対面での議論も含めて、JTIのたばこ事業トップと定期的かつ密接なコミュニケーションを図り、その状況を監督サイドに随時報告されていますが、社外取締役の方々から、さらなる情報共有の強化の要望もあり、この点は今後の課題と認識しています。今後は、筒井さんのもとで監督サイドとJTIとの直接的な関わりを強化していく方針です。
朝倉私としても、JTIと社外取締役との情報共有については、さらなる充実の余地があるのではないかと感じています。執行サイドはJTIと十分にコミュニケーションを取れており、現状でガバナンス上、重大な問題が生じているわけではありません。一方で、事業環境が刻々と変化する中、監督機能をさらに高めていくためには、当社グループにとってネガティブな情報も含め、JTIが直面している主要な課題やリスクについて、社外取締役がよりタイムリーかつ継続的に把握できることが重要です。ですので、寺畠さんがおっしゃったとおり、取締役会に限らず、社外取締役との情報共有の機会をさらに充実させていきたいと思います。
企業価値向上に向けて、ご自身のスキルやこれまでの経験をどのように活かし、JTグループの持続的な成長に貢献していきたいとお考えでしょうか。
内田当社グループはたばこ事業を中核とした会社ですが、だからといって「たばこを吸う人/吸わない人」により、グループの事業活動が「自分に関係ある/関係ない」という二元論的な受け止められ方をしてしまったら、非常にもったいない気がします。「心の豊かさ」という多様な概念がどのように具現化していくのか、さらにはそれを事業活動と結びつける見取り図を当社グループがどのような形で描いていくのかに強い関心があります。取締役として、私なりの観点でチェックをし、内側からだけでは見えにくい視点や問いを投げかけることによって、「心の豊かさ」という種を植え育てるプロセスを伴走させていただければと思います。
木寺当社グループは世界各地で競合他社と熾烈な競争を繰り広げています。国・地域によって市場特性や規制・税制などは異なるため、それらも踏まえながら当社グループがより事業運営しやすい環境をグローバルに整えていければと思います。取締役会でも自分の信念に基づいて意見し、当社グループが進む道を誤らないようチェック機能を果たしていきます。
朝倉私が貢献できる分野は、事業変革や新規事業創出と考えています。先ほども申し上げましたが、例えばD-LABに関しては、現在さまざまな研究に取り組んでいますが、今後の取り組みの進展に応じて、KPIなど具体的な進捗指標の明確化や、事業化に向けたロードマップの設計など、事業管理の面では改善の必要性を感じます。小規模案件の商業化は進んでいるものの、それをどのようにして、またどのぐらいの時間軸で次世代の事業の柱へと成長させるかが課題であり、社外取締役としてさらなる議論を促し、モニタリングしていきたいと思います。
寺畠執行を兼務していない取締役の中では私が唯一、当社の執行の経験者でもあります。双方について分かるという意味では、両者の橋渡し的な役割を果たせればと思っています。新体制ではRRP事業を成長させることが当面のミッションですが、その先はどのように事業ポートフォリオを構築し、当社グループ全体の成長性を高めるかが課題となります。
今後は筒井さんならではの視点で、さらなる将来を見据えた経営ビジョンが示されていくものと考えています。そのサポートに尽力するとともに、リスクなどが生じた場合には早期の相談・検討を進め、取締役会でもしっかり議論できる体制を整えていきます。
岡本冒頭でお話ししたように、当社グループが劇的な変化を遂げた背景には、将来的に会社がどうなるか分からないという自らの問いかけや危機意識がありました。当社グループはグローバル企業であるがゆえに、国際情勢や技術革新の影響を受けやすい傾向にあります。常にアンテナを高く張り、世の中の変化に対応していかねばなりません。その体制を寺畠さんが社長であった時代に固めたので、今後は筒井さんのもとでさらに進化させていただきたい。社外取締役の皆さんの知見を借りながら、それをグループとしての意思決定にも反映できるよう、取締役会の運営にしっかりと取り組んでいきます。