「心の豊かさ」をお届けするために自らを変革し "力" に変える
環境変化がダイナミックさを増す中では事業リスクのみならず、事業機会も同時に広がっていると認識しています。我々はチャンスを着実に捉えるため、自らを積極的に変革させ、前進し続けてきました。それがJTグループの組織としての"力"となっています。JT Group Purposeの実現という長期的な目標に向けて、お客様についての理解をより一層深めるとともに、「心の豊かさ」という価値の届け方も柔軟に進化させながら、今後とも長期的な企業価値の向上に取り組んでまいります。
JTグループの成長を強力に推進する牽引役でありたい
2026年3月に代表取締役社長に就任した筒井です。2026年度は私がJTに入社してちょうど30年目に当たります。入社時と今日を比べると、JTグループのビジネスは私の想像を超えて劇的に変化しています。私自身、会社が変化しながら常に前進し続けているという実感が、仕事の大きなモチベーションとなっており、「明日は必ずもう一段ステップアップできる」と考えながら、日々仕事と向き合っています。以前は「現状不満足」という言葉を好んで使っていたように、その先にある「もっと良くできる」という可能性を常に考え続けることが、私の価値観の根底にあります。2007年に英国Gallaher社の買収に携わった際も、それまでまったくM&Aの経験はありませんでしたし、その後も過去に経験の無い役割を多く担う中で、目標を実現していくということを繰り返してきました。そして、そのような経験を通じて、もっとこうなれる、この先にこんな未来が見えると、「さらに先を目指す」という価値観が形成されたのだと思います。
こうした私自身の価値観やこれまでの経験から、当社グループにはさらなる変化や成長への大きなポテンシャルがあると確信しています。物事を変えるには莫大なエネルギーが必要ですが、多くの仲間を巻き込み、困難に向き合い、それを乗り越えたときの達成感を分かち合うことで、個々人の変化やさらなる挑戦につながり、その個の成長を結集させることで、組織としての大きな"力"へと変えることができます。私自身がそうした取り組みを強力に推進する牽引役でありたいと考えています。
振り返れば、当社グループは1985年に専売公社から会社化した後、たばこ事業のグローバル化を重要な経営課題として歩んできました。その結果、今日、当社グループはたばこ事業において世界トップクラスの企業となっています。併せてビジネスの多角化も進めてきましたが、こちらは一定の成果は得られたものの、当初構想していた姿には到達できていません。こうした過去も踏まえ、当社グループとしてこれからも社会に新たな「心の豊かさ」を持続的にお届けするために、会社化以前から大切にしてきた価値観に基づき、2023年に「心の豊かさを、もっと。」というJT Group Purposeを策定しました。このPurposeの実現という長期的な目標に向けて、我々が提供する価値をどのようにお客様へお届けするかということが、当社グループが次なるフェーズへステップアップするのに最も重要なテーマであると考えています。
当社グループでは長年に亘ってたばこ事業を中核として、特にCombustibles*1を中心に事業を展開してきました。
一方で、健康意識の高まりやさまざまな事業環境変化を背景に、お客様や社会がたばこに求める価値も変化しており、こうした環境変化への対応として、RRP(Reduced-Risk Products)*2への取り組みを強化してきました。RRPは私が2025年まで事業責任者を務めてきた領域でもあります。
このRRPが一例ですが、Purposeに基づいて新たな事業を創出し、それをお客様の期待を超えるものへと進化させ、お客様に「心の豊かさ」という価値をお届けする。このようなビジネス変革を強力に推進していくことが、社長として私が果たすべき重要なミッションであると考えています。
自己変革を厭わず、長期的な成長を追求する組織
過去を振り返ればJTグループはこれまでに幾度も変革を実行してきています。例えば、専売公社からグローバルたばこ会社へと変貌を遂げるプロセスは、決して平坦な道のりではありませんでした。しかしながら、未来を見据えて戦略的な方向性を定め、長期に亘って自らのあるべき姿を粘り強く追求し続け、実現するという意味において、当社グループには長期的な目標を完遂する組織的基盤が備わっていると自負しています。実際のところ、専売公社を出自として現存するたばこ会社は、世界でもほとんどありません。
具体的には、我々が目指すグローバル化にとって、日本流が役立つならばそれを採用しますが、逆にそれが阻害要因となるのであれば、日本流はむしろ乗り越えるべき課題に変わります。1999年に米国RJRナビスコ社から米国外たばこ事業を買収した際には、慣れ親しんだ日本的な経営ではなく、グローバルな経営を選択しました。我々は、過去のやり方に固執せず、長期に亘って目指すものを実現するためには、自己変革することを厭わない、その覚悟のもとに大きく会社自体を変革し、実際に現在の姿に辿り着いています。この当社の組織的基盤は競争優位性の一つであり、当社グループが目指すJT Group Purposeの実現に大きく寄与すると確信しています。
お客様とまっすぐに向き合い、多様な選択肢を提供する
また、近年では多くのたばこ会社がCombustiblesからRRPへの移行を進めています。JTグループとしては、こうした変化を踏まえつつも、お客様*3との向き合い方を大切にし、お客様の多様なニーズに応じた選択肢を提供していくことが重要であると考えています。お客様がCombustiblesを望まれる場合には、我々が提供するベストな商品を選択肢の一つとしてお楽しみいただき、Combustiblesから一歩新しい領域へ踏み出したいというお客様には、我々のグローバルなHeated Products*4ブランドであるPloomという商品をお届けできるようにしています。複数の選択肢をご用意したうえで、お客様に自ら主体的に商品を選んでいただくことが我々の提供する価値の本質であり、たばこ事業戦略もそうした考えに基づいて構築されています。
また、テーブルマーク株式会社や富士食品工業株式会社などを中核とする加工食品事業においては、冷凍食品のうどんやお好み焼き、たこ焼きなどが国内市場シェアNo.1*5を誇っています。いわば他の食品メーカーがやらないこと、できないことを我々が手掛けることで、お客様にとって無くてはならない商品の提供が実現しているわけです。そうした意味で、お客様とまっすぐ誠実に向き合い、常にご満足いただける商品を生み出し続けることも、当社グループならではの競争優位性であると考えています。
変化をどう捉え、どう向き合うか
地政学リスクの拡大、たばこ事業における規制議論の進展、消費者行動の変化など、JTグループを取り巻く事業環境は不透明さを増しており、今後もいっそう不確実性が高まっていくことが予想されます。一般的には不確実性という言葉に対してネガティブなイメージを抱きがちですが、我々はそうは考えていません。不確実性が高いということは、環境変化がダイナミックであると捉えることができ、事業リスクだけではなく、事業機会についても、その発現確率が上昇すると考えています。したがって、リスクをしっかり認識し、対応策を検討・実行すると同時に、その変化に対してスピード感をもって主体的に変革し、機会を着実に捉えていくことが重要になります。
我々のたばこ事業は、世界各地での「1日1回程度のお客様による購入×お客様の数×日数」が年間売上となるビジネスモデルであり、こうしたビジネスの成り立ちそのものが当社の安定的な収益基盤と高いレジリエンス(耐久性)を生み出しています。中長期的な観点でたばこ事業を見ると、Combustibles総需要は年平均2.5%程度*6の減少を想定しています。Combustiblesは当社グループの売上の大きな部分を占めるため、この変化はビジネスモデルや収益構造に影響を及ぼしかねない重要なリスクであると認識しています。
一方、RRPに目を転じると、その総需要は長期的に継続的な増加が見込まれ、中でもHeated Productsについては2035年まで年平均8%程度*6の増加を想定しています。我々は現在、この変化を成長に向けた大きな機会と捉え、Heated Productsを中心としたRRPへの積極的な投資を行っており、着実に市場シェアを伸ばしています。具体的には、2026年からの3か年でマーケティング投資を中心とし、約8,000億円を投じる計画です。投資の進捗やお客様の反応を継続的に検証しながら計画を柔軟に組み替えつつ、2028年のRRP中期展望*7を一つの通過点として、さらなる成果につなげていく考えです。
当社グループのCombustiblesは2022年のたばこ事業運営体制一本化以降、市場シェアを伸長し続けており、これはグループ全体にとって重要な意味を持ちます。Combustibles総需要は長期的には縮小へ向かう想定であるものの、シェア伸長やプライシングにより着実に獲得できる利益をRRPなどの新規領域に集中投下することで、新規領域の立ち上がりを早め、その規模の拡大を図ることができるからです。とはいえ、我々がCombustiblesのビジネスに関して妥協するという意味ではありません。そして、中長期的にはRRPの中でもHeated ProductsをCombustiblesに次ぐ第二の成長エンジンに育て、お客様のご期待に添う多様な選択肢をさらに提供することで、グループ全体の持続的成長につなげていく考えです。
Heated Productsについては、Ploomというブランドを一から立ち上げ、育成している点も当社グループにとって重要な変化と考えています。我々の主力CombustiblesブランドのCamelやWinston、MEVIUSなどは、前身時代を含めていずれも50~100年程度の歴史があり、長い年月の投資の成果が礎となっています。新たにブランドを立ち上げ、それを主力商品にまで育てていく、この「生んで育てる」ということを、当たり前のようにやり続けられるようになることが、我々の目指す当社グループの未来像の一つと考えています。
より先の未来を展望すると、人々が求める価値は変わっていくと考えています。未来を正確に予測することは困難ですが、テクノロジーが急速に進化し、利便性や合理性がいっそう強く求められる世の中にあって、人々が情緒性に対しても意味や意義をより重視する日が来るであろうと確信しています。従来と同じく今後も「心の豊かさ」の提供を目指す当社グループにとって、そうした社会的なニーズの変化は価値提供の幅を広げる機会となります。
イノベーションを通じたお客様への価値提供
社会や人々の価値観が時々刻々と移り変わる中で、我々は「心の豊かさ」という価値の届け方を柔軟に進化させることにより、その領域において社会から信頼され、人々から任される存在であり続けたいと考えています。そのためには、社会や人々の価値観の変化を的確に捉えながら、我々の事業ポートフォリオについても適切に進化させていく必要があります。
たばこ事業は今後も引き続き、JTグループの中核事業として利益成長を担っていくことになります。商品カテゴリではCombustiblesからRRPヘのシフトがさらに進むと予想されます。
RRPの中で我々が現在注力しているHeated Productsは、生まれて10年ほどの新しいカテゴリであり、お客様はこのカテゴリとの接点がまだ新しい方や使用歴が浅い方が比較的多く、さまざまな選択肢を試してみようという意欲のある方が多くいらっしゃいます。イノベーションによる商品力の向上はもちろん、お客様への価値の届け方にもまだまだ工夫の余地があり、その分、成長ポテンシャルは大きいと認識しています。
商品開発においては、Heated Productsを中心に、Modern Oral*8やE-Vapor*9など各種カテゴリでの技術開発を進めています。加えて将来の事業機会の拡張になり得る新しい商品の創出を目指して、既存カテゴリの定義に収まらないNext Generation Propositionの開発にも取り組んでいきます。
また、RRPの普及は、健康リスク低減の可能性という観点からも重要な意味を持つと考えています。よりリスクを低減することが可能な商品を開発するとともに、お客様が適切な情報に基づいて商品を選択できるよう、科学的知見の集積や商品開発に係る研究とイノベーションへの投資に注力していきます。
イノベーションを起こすことは非常に重要ですが、企業からの一方的な押し付けではなく、お客様の側にもそれを受け入れる動機がなければイノベーションは機能しません。すでにHeated Productsをお楽しみいただいているお客様もいらっしゃいますが、現時点ですべてのお客様にご満足いただけているとは考えておりません。
このようなタイミングにおいて、イノベーションは非常に有効です。お客様のご期待に応える、さらには超える商品をお届けすることを通じてRRPの支持拡大を促進することもできますし、競合商品から我々の商品へ乗り換えていただくチャンスも大きいと考えています。いずれにしても、イノベーションが目に見える形に具現化するまでにはある程度の時間がかかるため、今このタイミングで二の矢、三の矢を積極的に準備していくことが肝要です。
お客様への価値の届け方という側面で見ると、RRPはこれから顧客層が確立されていく段階であり、お客様にCombustibles との違いを十分にご理解いただいたうえで、どうすれば積極的にご支持いただけるかを模索する必要があります。さらなる支持の獲得に向けては、商品の力だけでは不十分であり、我々のRRPのファンづくりが今後の大きな挑戦となります。
加工食品事業は、グローバルな観点から大きな成長が期待できる分野であり、これまでと同様に今後も当社グループの利益を補完する役割を担っていくことになりますが、その事業規模の拡大を図る中で、その存在感をさらに増していきたいと考えています。
コーポレートR&D組織であるD-LABについては、既存事業の延長線上にない、まだ見ぬ「心の豊かさ」の研究・探索を担う存在として位置付けています。現在は将来に向けた投資フェーズにありますが、長期的な視点でこれらの取り組みから当社グループの未来を支える新たな事業を生み出し、育んでいきたいと思っています。
お客様に「心の豊かさ」を届ける多様な人財
我々は今後、JT Group Purposeを北極星のような変わらぬ指針として目指しながら、新たに事業を生み育んでいくわけですが、そこではお客様について理解を深めることが従来以上に求められてきます。
JTの商品・サービスをお楽しみいただいているお客様が、どこで何を考え、どのような点に満足や不満を感じていらっしゃるのか。お客様自身が口にされる機会は少ないのですが、そうした言葉にならないニーズをしっかりと汲み取り、商品やサービスに反映させ、期待にお応えしていくことが重要です。それにより、例えばお客様自身がまだ十分に気付かれていなかった「心の豊かさ」という価値を、もっと明確に感じていただくこともできるはずです。
このような取り組みにおいて大きなカギとなるのが、人財の力です。多様な人財が活躍できる基盤や成長の機会などを会社として用意し、常にさまざまな視点からお客様への理解を深めていくことで、顧客ニーズを捉える力をグループ全体としてアップデートし高め続けていくことが可能になります。日常的にお客様への感度を高めながら、それを商品やサービスとして具現化し、さらには効果的な形でお客様にお届けする——。こうした一連の流れをより洗練させ、いわば我々の得意技としていくことが、JTグループの未来へ向けた成長エンジンになると考えています。
成長と還元の好循環を通じた企業価値向上を目指して
こうした取り組みを通じて持続的な成長を実現し、その成果をステークホルダーの皆様に適切に還元していくことが重要であると考えています。株主還元については、当社の経営理念である「4Sモデル」に基づき、事業投資による利益成長と利益還元のバランスを重視しながら、今後とも株主の皆様のご期待に応えていきます。実際に、これまで実施してきた事業投資の成果が、2025年度の過去最高益の達成につながっており、引き続き事業投資による利益成長を起点として、短期業績はもちろんのこと、中長期のさらなる成長と還元の好循環を創出していきたいと考えています。また、投資家の皆様との対話を通じていただくご意見は、JTグループの経営にとって重要な示唆となるものです。今後もそうした機会を積極的に設け、資本市場との建設的な対話を重視しながら、長期的な企業価値の向上に取り組んでいきます。
JT Group Purposeの実現という長期的な目標に向け、変革を通じて確かな成長を実現するとともに、規律ある資源配分により、その成果を持続的な株主還元へ確実につなげることで、当社グループの企業価値を中長期に亘り高め続けていく――その責務を、私自身が先頭に立って果たしてまいります。ステークホルダーの皆様には、今後とも変わらぬご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
代表取締役社長筒井 岳彦
プロフィール
1997年に日本たばこ産業株式会社入社。小田原工場、本社製造部を経て、経営企画部で企業買収プロジェクトに参画。英国Gallaher社の買収・統合など、数々のM&Aを担当。
2012年に経営企画部長に就任、さまざまな変革プロジェクトを主導。2014年に執行役員に就任し、M&Aおよび新規事業創造(現:D-LAB等)を推進。
2020年にJT International S.A.に再度出向し、Senior Vice Presidentを経て、2024年に同社Executive Vice Presidentに就任。RRP領域を統括し、主力製品の刷新を主導、日本を起点としたグローバル展開の拡大を牽引。
2026年1月に執行役員社長、同年3月に代表取締役社長に就任。
