「心の豊かさ」の追求による持続的成長
JTグループにおけるサステナビリティ戦略の本質は「『心の豊かさを、もっと。』というパーパスを将来に亘り実現し続けるために、成長の選択肢を維持・拡張するための戦略的投資の集合体」と捉えています。サステナビリティは付加的な活動ではなく、事業戦略・リスク管理・資本配分と一体となった経営判断そのものと考えています。
サステナビリティの考え方
企業を取り巻く環境は、地政学、技術革新、規制動向、社会的価値観の変化などが複雑に絡み合い、かつてない不確実性の中にあります。これら非連続で構造的な変化は、事業リスクであると同時に、新たな価値創出や成長の機会を生み出す契機でもあります。JTグループは、環境変化を受け身で捉えることなく、自らを変革し前進を続けてきました。その歩みの中で、「心の豊かさ」という価値を、時代や社会の変化に応じて進化させながら未来へとつなぎ続けることこそが、私たちの持続的成長であると考えています。
こうした考えのもと、当社グループにおけるサステナビリティ戦略の本質を、私なりに端的に表現するならば、「『心の豊かさを、もっと。』というパーパスを将来に亘り実現し続けるために、成長の選択肢を維持・拡張するための戦略的投資の集合体」です。サステナビリティは付加的な活動ではなく、事業戦略・リスク管理・資本配分と一体となった経営判断であると考えています。
サステナビリティの議論では、投資対効果が見えにくい、あるいは成長と相反するのではないかという懸念が示されることがあります。しかし私たちは、サステナビリティを「将来世代のために現在を犠牲にする行為」とは捉えていません。不確実性と対立が増す世界において、企業が環境変化に適応しながら成長し続けるためのレジリエンスと経営の自由度を高める能力こそが、その本質であると考えています。
将来を正確に予測することが困難である以上、完璧な計画を立てることよりも、変化から学び、迅速に軌道修正できる組織能力が重要になります。サステナビリティとは「間違えないこと」ではなく、「間違えた際に、致命的な選択肢喪失に陥らず、修正できる力」を企業にもたらすものです。私たちは常に、「その判断が将来の成長オプションを狭めていないか」という問いを経営の中心に据えています。
例えば、環境や人権に関する取り組みも、事業成長を制約する要因ではなく、むしろ将来の事業継続性や市場アクセス、資本調達環境を左右する前提条件です。外部不経済を適切に内部化することで、将来顕在化し得る不確実で大きなコストを、現在の管理可能な投資へと転換する。これは理念的な行為ではなく、長期的な企業価値を守るための、極めて合理的かつ保守的な経営判断であると考えています。
加えて、パーパスの体現と中長期的な競争力強化の両立を見据え、サステナビリティを成長の「前提条件」であり「加速装置」と捉えています。この考えを抽象論に留めることなく、具体的な経営判断や投資配分に落とし込むため、当社独自のサステナビリティ戦略を策定し、実行しています。
サステナビリティ戦略と全体像
JTグループでは、社会とその中に存在する当社グループの事業が持続可能であるよう、当社グループの目指すべき方向性を示す「心の豊かさを、もっと。」といったJT Group Purposeを掲げています。「4Sモデル」の追求を経営理念とし、当社グループのパーパスを起点とした優先的に取り組むべき当社グループのマテリアリティ(重要課題)を特定しています。具体的には、「自然との共生」「お客様の期待を超える価値創造」「人財への投資と成長機会の提供」「責任あるサプライチェーンマネジメント」「良質なガバナンス」の5つの重要課題を「JT Group Materiality」と定めています。また、JT Group Materialityを踏まえた具体的な目標や取り組みを「JT Group Sustainability Targets」として策定しており、24項目のターゲットを設定しています。JT Group Purposeを起点とした JT Group Materialityと、それに紐づくJT Group Sustainability Targetsがグループのサステナビリティ戦略の骨格をなしています。
サステナビリティ戦略の全体像
JTグループが優先的に取り組む重要課題
JTグループの具体的な目標および取り組み
ターゲットについては毎年レビューを実施し進化させており、今回もターゲットのレビューを実施し更新を図りました。なお、サステナビリティ戦略の策定と運用には、取締役会が関与する体制をとっています。ステークホルダーの皆様に対しては、取り組みの進捗や結果についても、適宜、ウェブサイトや統合報告書等を通じて報告しています。
サステナビリティ推進体制とガバナンス
サステナビリティをめぐる課題への対応は重要な経営課題であるため、サステナビリティ戦略の策定と運用、ターゲットの更新については取締役が関与するガバナンス体制をとっています。マテリアリティの策定や改定、環境・人権等に係るグループ基本方針の策定といったサステナビリティの重要な戦略事項を、取締役会決議事項としています。また、マテリアリティを踏まえた全社のサステナビリティターゲットであるJT Group Sustainability Targetsの策定・更新および実績については、取締役会報告事項としています。
執行レベルではサステナビリティ課題を議論する場として、2020年から定期的にサステナビリティ検討会を開催しています。Chief Sustainability Officer(CSO)を議長とし、JTグループの各事業・コーポレート部門の責任者が参加しています。2025年には3回開催し、JT Group Sustainability Targetsの更新と進捗、気候変動に関する各種取り組みと目標に対する進捗、CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)やSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)基準への対応、非財務データマネジメント、ステークホルダーエンゲージメントといった課題やテーマについて、議論と情報共有の場を設けました。
なお、サステナビリティ検討会で議論したすべての事項について、検討会開催後、社長および執行を兼ねる取締役へ報告を実施しました。また、そのうちサステナビリティに係る重要事項(取締役会の決議もしくは報告が必要な重要事項)については、非執行取締役を含む取締役会へ報告しました。
JT Group Sustainability Targetsの更新および進捗
2024年2月の策定以降、JTグループのサステナビリティターゲットは、グループ全体の取り組みを方向づける共通言語として、社内での実行や様々なステークホルダーの皆様との対話の基盤となってきました。一方で、各ターゲットが当社グループの中長期的な成長や価値創出とどのように結びつくのかを、より明確に示していく必要性も認識しています。こうした課題意識のもと、今回のターゲット更新においては、ステークホルダーの皆様の関心が高いターゲットを中心に、取り組みの目的や背景、期待される効果を整理し、サステナビリティへの取り組みを将来のコストではなく、現在管理可能な投資として位置づける考え方をより分かりやすく示すことを企図しました。あわせて、前年度に目標を達成した取り組みについては、その成果を踏まえた目標水準や内容へとアップデートし、継続的な改善を通じて、組織全体での着実な実行につなげていきます。
サステナビリティターゲットの2025年実績については、全体として概ね順調に進捗しており、着実な前進がありました。例えば「自然との共生」に紐づく気候変動への対応に関するターゲットについては、グループ全体としてScope1および2排出量の削減が着実に進み、2030年目標に向けた軌道を維持しています。再生可能エネルギーの導入拡大やエネルギー効率改善の積み重ねは、環境負荷低減にとどまらず、エネルギーコストの安定化や将来の規制対応力強化といった観点からも、事業基盤の強化につながっています。一方で、Scope3を含むバリューチェーン全体での排出量削減は引き続き重要な課題です。Scope3については異常気象や各年の調達量増減の影響等があり、Scope1および2と比較すると、管理の難しさがあります。2030年を見据えて、状況に応じた方針の見直しも含め、適切に管理していきます。
「人財への投資と成長機会の提供」に関連するDE&I(Diversity, equity & inclusion)の推進については、女性活躍(Women's empowerment)において前向きな進展がありました。当社グループの管理職に占める女性比率は昨年の24.9%から26.4%へと改善しました。着実に向上しており、人財育成や登用に関する継続的な取り組みが成果として表れています。多様な人財が能力を発揮できる環境づくりは、組織の意思決定の質を高め、イノベーション創出や中長期的な競争力強化につながるものと考えます。
「責任あるサプライチェーンマネジメント」に紐づくサプライヤースクリーニングおよびデュー・ディリジェンスの推進といったターゲットについては2025年において、取り組みのカバレッジと質の両面で着実な進展が見られました。主要サプライヤーを対象としたESGスクリーニングはグループ全体でほぼ網羅的に実施され、重要サプライヤーに対するリスク把握に取り組みました。また人権の尊重の取り組みの一つである児童労働を含む人権モニタリングのターゲットについては、直接契約する生産者に対するモニタリングが継続的に実施されました。人権リスクの把握、是正対応の実施といった仕組みが着実に機能していることが確認されています。特に、児童労働を含む深刻な人権リスクへの対応については、予防・是正の両面から取り組みが進められ、現場レベルでの対応力が強化されました。
今後の課題とアウトルック
冒頭で述べたとおり、私たちはサステナビリティを、社会要請への受動的な対応や付加的な活動としてではなく、不確実性の高い環境下においても成長の選択肢を失わず、経営の自由度を維持・拡張するための経営能力であると考えています。この考え方は、今後の外部環境の変化を見据えた際、より一層重要性を増していくと認識しています。
現在、地政学的な緊張の高まり、政策スタンスの揺り戻し、エネルギー・資源制約の顕在化などを背景に、サステナビリティを巡る前提条件は大きく変化しています。こうした環境下では、単に「何に取り組んでいるか」ではなく、「なぜその取り組みが自社の事業特性やリスク構造に照らして合理的なのか」「将来の価値創造とどのように結びついているのか」を、企業自らの言葉で説明できるかが、これまで以上に問われています。
例えば、気候変動対応においても、温室効果ガス(GHG)排出量削減やネットゼロといった中長期目標の設定に加え、極端気象や自然環境の変化が、原材料調達、操業、物流、コスト構造にどのような影響を及ぼし得るのかといった、より現実的かつ財務的な論点への関心が高まっています。私たちは、これらを単なる環境課題としてではなく、事業のレジリエンス、資本効率、競争優位性に直結する経営課題として捉え、対応を進めています。
このような認識のもと、JTグループでは、サステナビリティを規制対応の枠内に閉じるのではなく、長期的な価値創造を支える経営基盤の一部として組み込むことを重視しています。今後数年以内に本格化するSSBJやCSRDといった開示規制への対応についても、単なるコンプライアンス対応にとどめるのではなく、経営判断に資する情報基盤を整備する機会と捉えています。
現在、専任チームを中心に関連部署と連携しながら、規制対応に必要となるデータポイントの特定や定義の整理、データプラットフォームの設計・立ち上げを進めています。これらの取り組みは、正確な開示を実現するためだけでなく、将来のリスクや機会をより早期に捉え、経営や現場における意思決定の質と速度を高めることを目的としています。
また、自然、社会、人財、サプライチェーンといった非財務領域の情報についても、開示規制で求められる項目を網羅すること自体をゴールとはしていません。これらの情報を、事業のレジリエンスや成長可能性を評価・強化するための「経営資源」としてどのように活用できるか、という観点で整理・活用を進めています。将来的に重要性が高まる可能性のある情報や、経営判断に有用な指標を見据え、より俯瞰的な視点で非財務データを位置付けていくことは、長期的な企業価値向上に資する取り組みであると考えています。
サステナビリティに関する取り組みの多くは、短期的な成果が見えにくい側面を持ちます。しかし、外部不経済を適切に内部化し、将来顕在化し得る不確実で破壊的なコストを、現在の管理可能な投資へと転換することは、将来のリスク低減や安定的な事業運営につながります。結果として、それは中長期的なキャッシュフローの安定性や資本効率の向上を通じ、企業価値の維持・向上に寄与するものと考えています。
今後は、こうした非財務の取り組みがもたらす効果についても、可能な範囲で定量化・可視化し、投資家の皆様との対話を一層深めていくことに挑戦していきます。その過程においては、当社単独で完結することなく、専門的な知見を有する企業やパートナーとの協働も積極的に進めていく考えです。
不確実性が高まる時代において重要なのは、短期的な正解を追い求めることではなく、将来の選択肢を狭めない経営判断を積み重ねていくことだと考えています。事業と社会の持続可能性を同時に高めるという原点を忘れることなく、サステナビリティを事業の成長を支え前に進めるための基盤として位置付け、その取り組みを進めていきます。
私たちにとって、「心の豊かさ」という価値を、時代や社会とともに進化させながら未来へとつなぎ続けることは、当社グループの成長そのものであると考えています。引き続きステークホルダーの皆様との対話を重ねながら、「心の豊かさ」を未来へつなぐ持続的成長に、CSOとして強くコミットしてまいります。