変化を力に変える、強固な財務基盤と持続的成長への決意
JTグループは、長年の歴史の中で培ってきた規律ある財務運営により、さまざまな事業環境の変化にも対応し得るよう、強固な財務基盤を維持することを目指してきました。不確実性が増す現在においても、当社グループはこの基盤を背景とした事業運営を行うとともに、将来の成長に向けた事業投資を躊躇なく実行していく方針です。変化の波に飲まれることなく、むしろその変化を次なる飛躍の力へと変え、ステークホルダーの皆様の期待に応えながら、持続的な企業価値向上を実現していきます。
複雑化する環境変化
2025年度を振り返ると、結果を出せた一年だったと評価しています。売上収益、調整後営業利益、営業利益、当期利益は、過去最高を達成することができました。特に、2025年度は、日本、フィリピン、ロシア、トルコ、英国をはじめとする多くの市場でプライシング効果が力強く発現しました。これに加え、2024年10月に買収した米国Vector社も業績に寄与しました。また、加工食品事業においても増収増益を確保し、グループ全体の業績に貢献しました。これまで行ってきた将来の成長に向けた事業投資が成果として着実に実を結び、2025年度の実績はもとより、当社の収益基盤の強さに貢献する姿を改めてお示しすることができた一年であったと考えています。
一方で、CFOとして足元の事業環境を見渡すと、地政学リスクの高まりや、為替変動などのマクロ経済環境の不確実性に対しては、強い警戒感を持たざるを得ない状況にあると認識しています。為替変動一つをとっても、以前であればゆるやかなペースでの動きであったものが、一晩で動いてしまうような場面も増加しています。こうした環境を踏まえると、前提とすべき将来像や考慮すべきリスクを同定しておくことが、これまで以上に複雑化し難しくなっていると感じています。
しかしながら、このように外部環境が急速かつ大きく変動する中にあっても、将来に向けた事業投資を確実に実行できる財務体制にしておくことは変わらず重要であると考えており、不確実性の波に飲まれることなく、なすべきことを着実に実行できる財務基盤をしっかりと維持しておくことが、CFOとしての使命であると捉えています。
業績推移(売上収益・調整後営業利益・当期利益)(億円)
不確実性の高い環境における財務運営
近年のこのような環境において、私が財務運営上で最も重視しているのは、中長期的な視点で企業価値を高め続けられているかという点です。当社が常に目指しているのは、中長期に亘る持続的な成長であり、これまでもそうであったように、これからも将来の成長に向けた事業投資が最も重要であると考えています。そして、その事業投資を実現するうえでの中核の一つとなるのがキャッシュフローの創出力です。利益指標のみならず、事業活動を通じてどれだけ安定的にキャッシュを生み出し、同時に財務の健全性を維持しながらリスクを適切にコントロールできているかを、さまざまな観点から常に分析し検証しています。外部環境や市場環境がどれだけ変化しようとも、将来の芽を摘むような事態に陥ることがあってはなりません。持続的な価値創出につながる判断ができているかを常に意識しています。
また、将来の不確実性に備えるうえで重要なのは、可能な限り多くのシナリオを並行して持つことです。多様なシナリオを持つことで、状況に応じて取り得る意思決定の選択肢を広げることができます。昔はボタンを一つ押せばランプが一つ点灯するシンプルな因果関係で予測できましたが、今はボタン一つでランプが三つ点灯したり、すべて消えたりするような、複雑性の高い世界に直面しています。事前の準備を尽くしても、想定外の事象が突然現実となるのが今の時代です。また、経営の意思決定において、すべての情報が揃った状態で判断できる局面はほとんどありません。数値的なデータやトレンドだけでなく、想像力と経験値を総動員した総合的な判断が求められます。
だからこそ重要になるのが、リスクの大きさと質を見極める力です。そして、仮に想定どおりに進まなかった場合でも、軌道修正やリスクの最小化も含めた選択の幅を確保できているかどうかが重要になると考えています。切羽詰まった状態に陥る前に、最大リスクを把握し対応策を準備することで、いかなる状況でも柔軟に対応できるような幅を持つことが、変化の時代における財務運営の要となるのではないかと考えています。
グローバル化を支えた健全な危機感
私たちJTグループが、こうした財務規律を培ってきた背景の一つに、グローバル化の過程で経験してきた数多くの挑戦があります。私が入社した1993年当時、JTは国内市場が中心の事業構造でした。当時のたばこ事業は、国内では圧倒的なシェアを有していましたが、関税の撤廃などの市場自由化の進展に加え、たばこの総需要減少を背景に、世間からはその将来性に疑問を持たれているような状況でした。たばこの総需要が長期的に減少していくことは厳然たる事実であり、「このままでは我々のビジネスは縮小均衡で終わってしまう」というリアルな危機感を抱いていました。
そのような状況にあって、当時の経営陣が出した答えが、M&Aを通じた海外市場への本格展開でした。1999年に実施したRJRナビスコ社の米国外たばこ事業(RJRI)の買収は、当社における歴史的な転換点となりました。世間からはご批判を含めさまざまなご意見がありましたが、私たちの根底には「これをやらなければ会社が生き残れない」という、強く健全な危機感がありました。同時に、自らの強みを発揮して「グローバルに打って出る」という強い覚悟のもとで、大きく事業成長へと舵を切ることにつながっていったのだと思います。
もっとも、RJRIを買収したことだけでグローバルカンパニーになれるわけでも、成長を拡大していくことができるわけでもありません。当初は上手く行かないことの連続で、多くの社員が大変な苦労をしました。ただ、それらの苦労を乗り越え、蓄積されたさまざまな経験や学びを得られたことが、次なる英国Gallaher社の買収へとつながり、現在へと続く強固な事業基盤へと結びついているものと思っています。当時の社員に共通していたのは、足元の業績だけを追い求めるのではなくて、将来の世代においても、会社がサステナブルに成長できる状況を作りたいという長期的な視点でした。そしてこの長期的な視点こそが、現在の当社グループの強さの源泉となっているものと思っています。
堅牢性と柔軟性を両立する財務基盤
こうした歴史的な背景と経験を経て、現在の当社の財務戦略の基本方針が確立されました。それは「環境変化に耐え得る堅牢性」と「成長機会を逃さない柔軟性」を両立させるというものです。
当社は、「お客様を中心として、株主、従業員、社会の4者に対する責任を果たす」という「4Sモデル」を経営の基本理念として掲げています。この理念を体現するには、何よりも事業自体の継続性を担保しなければなりません。東日本大震災やコロナ禍においても痛感しましたが、社会全体が混乱しても事業を途切れさせず、お客様に商品をお届けし続けることは企業の根幹であり、そのためには財務面でも万全の準備が必要です。こういった有事の際にも揺るがない堅牢性を持っておくことは、事業会社としての責務だとも考えています。
当社は、新興国を含む世界各国の多様な市場で事業を展開しており、市場環境や規制、経済の状況などが大きく異なる中で事業を運営しています。こうした環境においても、将来の成長機会を着実に取り込んでいくためには、不確実性の高い局面においても事業を継続できる財務的な余力を確保しておくことも当然ながら重要です。
他方で、企業価値を中長期的に高めていくためには、M&Aを含む大規模な事業投資は欠かせません。こうした投資機会はいつでも訪れるものではなく、タイミングを逃さないことが極めて重要になります。絶好の機会が巡ってきたときに、資金面の制約によってせっかくの成長機会を逃してしまうことがないよう、平時から財務の柔軟性を確保しておくことも同じように大変重要です。
当社は、近年はM&A等の一時的要因により達していないものの、年間4,000~5,000億円規模のフリー・キャッシュ・フローを安定的に創出する力を有しており、この堅牢性と柔軟性を支えています。各事業体で生み出されたキャッシュを本社で一元管理し、「機動的な事業投資」「外部資源獲得」「株主還元」をバランス良く実行することで、グループ全体での効率的かつ規律ある財務運営を実現しています。
不測の事態に備える資金調達とリスク管理
強固な財務基盤についてお話ししてきましたが、今この瞬間のバランスシートが健全であるという静的な評価だけでは意味がありません。真に問われるのは、どのような場面においても適切かつ迅速に意思決定をすることができ、必要な対応を実行するための備えが整っているかどうかです。当社の財務の強靭性は、機動的な資金調達体制と、外部環境の変化に備えるリスク管理体制にも表れています。
資金調達の面では、手元にある資金だけでなく、外部からどれだけの幅と方法を持って資金を確保できるかが一つのポイントとなります。そのため当社では、複数市場での社債発行や金融機関との借入枠確保など、調達手段の多様化を進めてきました。重要なのは、調達先と平時から密にコミュニケーションを取り、相互理解を深めておくことです。こうした日々の積み重ねがいざという時の機動的な投資を支えています。
また、世界各国で事業を展開する当社にとって、為替変動や地政学リスクは避けて通れません。当社ではそれらのリスクを量と質の観点から出来うる限り把握し、短期・中長期と時間軸を分けてリスクへの対応を検討し、着実に実行に移すことで、リスク管理に取り組んでいます。
事業を展開している各市場に関する情報を収集・モニタリングし、必要なシナリオプランニングを行うだけでなく、事象が発生した場合に備えるようにしています。短期的には地理的に分散されたグローバルサプライチェーンを活用した商品の安定供給維持に向けた対応策の策定、中長期的には特定市場の影響がグループ業績に与える影響を緩和するため、グローバル事業基盤の強化・拡充を図り、継続的に利益創出が可能な市場の拡大等にも取り組んでいます。
リスク管理にあたっては、予測精度を高める努力を常に行い、変化への感度を高め、着実にリスクへの耐性を高めていくことが重要であり、こうした対応力の強化にも積極的に取り組んでいきます。
経営資源配分と株主還元
当社の経営資源配分の最優先事項は、将来に向けた事業投資です。たばこ産業にはさまざまな規制があり事業環境も変化していますが、当社のたばこ事業にはまだまだ成長の余地が十分にあると考えています。とりわけ、今後の成長を力強く牽引するRRP(Reduced-Risk Products)の中でも、Heated Products分野への投資は重点的に継続していく方針です。
一方で、当社の収益の柱であり、将来への投資原資を生み出すCombustibles領域においても、ブランドポートフォリオの最適化やプライシング、コスト最適化の取り組みを通じ、ROI(投資利益率)の改善を図ることで、盤石なキャッシュ創出基盤を維持・強化していきます。こうしたCombustibles領域のキャッシュ創出力を原資として、RRPへの中長期的な投資を継続しながら、事業成長を通じた株主還元の強化も図っていきます。また、加工食品事業についてはグループの利益成長を補完する事業として競争力の強化を図り、D-LABを通じた新たな事業機会の探索にも引き続き取り組んでいきます。
株主の皆様への還元も重要な責務です。資本市場において競争力のある水準として配当性向75%±5%を目安とする方針に変更はありません。2025年度は一時的にこれを超過しましたが、これは当社の財務基盤の強さと将来の利益成長に対する見通しを踏まえた判断であり、株主還元方針および経営資源配分の基本的な考え方に変更はありません。
一株当たり配当金の推移(円)
* 2017年から2025年における年平均成長率
- 1. 2025年度の配当性向は85.0%。カナダ調整およびスーダンにおける子会社の清算に伴うのれんの除却損を控除した当期利益 4,886億円を基に算出
- 2. 2021年に株主還元方針を変更し、一株当たり配当金をリベース
資本市場からの評価
財務戦略を推進するうえでも、投資家の皆様との対話は不可欠であると認識しています。当社は上場以来、株主・投資家の皆様との対話を通じて、当社なりのコミュニケーションを重ねてきましたが、それが常に最適であるとは限りません。市場環境や投資家の皆様などからの関心は絶えず変化しており、これらにきちんとお応えするためには、従来の枠組みにとらわれない対話を続けていく必要があります。対話の機会を増やすことで新たな気付きや示唆をいただきながら、当社のコミュニケーションの質を高めることにつなげ、同時に当社の財務戦略や情報開示の改善にも反映させていきたいと考えています。資本市場との建設的な対話を通じて、当社の中長期的な価値創造への理解を一層深めていただくことを目指しています。
また、投資家の皆様が企業を見る視点は、財務面でも業績面でも、あるいはESGの面でも、その持続性を期待されているものと理解しており、さらなる開示の拡充にも努めていきたいと考えています。
変化を力に、持続的な成長を実現する
最後に、企業価値向上に向けたCFOとしての私の決意をお伝えします。当社が持続的に成長するためには、外部環境の不確実性やさまざまな制約が存在する中においても、機を逸することなく投資や意思決定が実行できるように事業運営を維持していくことが重要です。その後ろ盾としての財務基盤・財務規律は確実に持っておかなければならず、外部調達も含めた選択肢を幅広く持っておくことはとても大事だと思っています。
企業は生き物であるため、ビジネスの血液となる資金やリソースをいかなる環境下でも途絶えさせず、不確実性の高い局面においても選択肢を確保し続けることが重要です。
私たちはこれからも、将来の成長に向けた投資を着実に実行していきます。財務基盤をしっかりと固め、適切にリスクを引き受けながら、将来花開くビジネスの種を多く持ち、事業を推進していきます。その過程では、さまざまな環境変化に直面することになると思いますが、それを自らの力へと変えながら、レジリエンスを一層高めていきます。ステークホルダーの皆様からの信頼に応えながら、JTグループの持続的な企業価値の向上を実現してまいります。
2025年度実績、2026年度見込、経営計画期間中の利益成長の見通し等
RRPビジネス成長に向けた戦略およびその進捗、医薬事業の承継を受けた中長期的な成長戦略および今後の事業ポートフォリオ
環境:気候変動、生物多様性、プラスチックや資源循環に関する取り組み
社会:人権デュー・デリジェンスの推進や人的資本拡充に向けた取り組み、喫煙と健康に係る課題への対応
ガバナンス:取締役会の実効性、グループ会社に対するガバナンスに関する方針および取り組み