東京農業大学教授 宮林茂幸さん

インタビュー

森林再生の重要性(全4回)

東京農業大学教授 宮林茂幸さん

都心にいても車で1時間も行けば、
緑の森や山を目にすることができます。
日本に森はたくさんあるのに、
どうして守らなくてはならないのだろう?
本の森林の現状や課題、森林の働きなどについて、
東京農業大学 地域環境科学部長の宮林茂幸教授に
さまざまな視点からお話をうかがいました。
4回シリーズでお届けします。

  • 第1回
  • 第2回
  • 第3回
  • 第4回

森林がもたらす 人・環境への影響

森林は生活の原点

最近、森林が人体に及ぼす影響が研究されるようになり、癒し効果があるということがわかってきました。唾液の中に、ストレス時に濃度が上昇するコルチゾールという成分があるのですが、それが森林に入ると低下したり、脈拍が安定する、という効果が科学的に明らかになっています。それから興味深いのが、都市部の人々と山村部の人々の体力差。山村の80歳の人の体力は、都市の60歳の人の体力とほぼ同じレベルという調査結果があります。水や食文化など、森林と共生する暮らしそのものが、健康や癒しに関係しているのかなと思います。

私たちの生活の原点は森林だと思うんですね。なぜかといえば、エネルギーの原点は太陽で、太陽の光を浴びて植物は葉緑素などいろいろなエネルギーに替え、それを草食動物が、そしてそれを肉食動物が、さらに死体は微生物によって分解され土に、というように森林はまさにエネルギーの循環工場です。その原点を意識してみてほしいと思います。

森がもたらすさまざまな効用

環境のほうへ目を向けてみると、最近は森林のCO2の吸収・蓄積効果が注目されていますが、それだけではありません。例えば地球温暖化の進行とともに北極の氷は解けているのに、寒い地域の森林周辺の氷は解けていない。これは蒸散作用といって、森林がカーテンの役割をして温度を一定に保っているからです。さらにCO2を固定させるため、二重の温暖化抑制効果があるわけです。

また、水質浄化機能といいますが、強い酸性の雨や有害な物質を含む雨が降っても、森林の土壌にいる微生物が分解してミネラル分に変えてくれます。森林が荒れればそうした機能も弱まるので、私たちの生活にも大きな影響を及ぼすことになります。

古くから武将は国を治める上で、山、つまり森を守ることを大変重要視してきました。森を守ること=国を守ることに直結することを昔の人はよく知っていたからです。森を守ることは定期預金のようなものです。手入れされた森は災害が起きにくいですが、もし起こっても木を切って家屋を建て直せますし、木材を売ることもできます。災害や財政難から復興させることができた。いわば、定期預金をしながら環境も守るスグレモノなわけです。

江戸時代の絵師、安藤広重の浮世絵を見ると、木がない山が数多く描かれています。当時は切りすぎて山が荒れていたのでしょう。けれど、現在の日本の森林は、植林活動によって国土の7割近くまで回復していますが荒廃しています。それは木を利用しなくなったことが一因。森を守るためには育てた木を使うことも大切なのです。

「木曽街道六拾九次 あし田」
歌川(安藤)広重 画
(国立国会図書館蔵)

宮林茂幸さん

宮林茂幸さん プロフィール

宮林 茂幸(みやばやし しげゆき)
東京農業大学 地域環境科学部 森林総合科学科森林政策学研究室教授(農学博士)日本森林学会会員、林業経済学会評議員、日本緑化センター理事、美しい森林づくり全国推進会議事務局長などを務める。
1953年(昭和28年)長野県生まれ。
宮林茂幸さん インタビューINDEX
第1回「森の国」日本の森が危ない
第2回“緑の砂漠”を生き返らせたい
第3回 森林がもたらす人・環境への影響
最終回 これからの森林保全への提言