東京農業大学教授 宮林茂幸さん

インタビュー

森林再生の重要性(全4回)

東京農業大学教授 宮林茂幸さん

都心にいても車で1時間も行けば、
緑の森や山を目にすることができます。
日本に森はたくさんあるのに、
どうして守らなくてはならないのだろう?
本の森林の現状や課題、森林の働きなどについて、
東京農業大学 地域環境科学部長の宮林茂幸教授に
さまざまな視点からお話をうかがいました。
4回シリーズでお届けします。

  • 第1回
  • 第2回
  • 第3回
  • 第4回

これからの森林保全への提言

企業や国民が力を合わせて 森林に関わるべき時代

今後日本では、企業や国民が森林にどのように関わっていくかが重要になってくると思います。戦後間もない頃の日本は、あちこちの森林が伐採され、ハゲ山になっていました。そのため大雨の度に山崩れや洪水が各地で発生していました。また、終戦によって250万人を越す失業者もありました。この頃は、企業にも国民にも国にも力がなかったけれど、国はお金を借りることができました。そのお金を山に使い、山を造成することで失業者を雇用した。いわば、国全体で山を育ててきたわけです。ところが今は、不況続きで国にはお金がない、工場にも元気がない、木材が安くて採算が合わずに農家も厳しいという状況になってしまいました。ですが、環境問題がクローズアップされる中で国民は山(森林)に関心をもっていますし、企業のCSRへの取り組みなども盛んになっていますから、企業の力と国民、それにNPOの力とを結集させた国民総参加の運動にする必要があります。

20世紀を担ってきた企業には、さまざまなノウハウがありますから、それを林業とマッチングさせていくメリットは大きいでしょう。例えば伐採した木を乾燥させるのは木材生産にとって重要な工程ですが、そこに、乾燥をもっとも重視している楽器づくりのノウハウを取り入れたり、造船や精密機器関係の高度な技術を取り入れたりすることで、今の農山村に新たな旋風を起こすことができるはずです。それと日本では、木材を搬出する林道の整備にコストがかかりすぎているのがネックになっていますが、極端に高い場合で1メートルあたり70万円も出さなくても、3,000〜4,000円で作れるような技術を持っている企業もあるのではないでしょうか。資金繰りについては、「山は100年の計」ですから持続的な資金援助が必要となりますし、同時に、企業はただ資金援助をするだけではなく、山にある地下資源、水、木材あるいはCO2の吸収などを新しいビジネスチャンスに活用することが可能となります。大学が入って研究をしながら、企業が新しいビジネスを社会に出す、というつながりが出てくると面白くなりますね。21世紀型の環境産業ができて木を利用するサイクルが復活になれば、必然的に森林もよみがえるのです。

地域づくりの視点を持てば 「JTの森」の可能性は広がる

「JTの森」の特徴は、地域との関係を大切にしていることだと思います。過疎化の進行によって農山村でできなくなってしまったことが、JTが入ることで復活する、そして村に元気が出るんです。村に元気が出るということは、人々に生き甲斐ができるということ。そこに明るい光を入れるということにもなります。

地域づくりという側面にさらに目を向ければ、「JTの森」のあり方ももっと発展させることができるでしょう。例えば、地元の方に指導者になってもらい、イベント以外の日にも一般の人たちが森林に入って作業できる制度を作るというのもいいでしょう。長期的に見れば森林管理の新しい形にもなると思うんです。山で作業をしたら、その分、共通通貨のようなものがもらえて、それで地元で飲食などができるという仕組みがあってもおもしろいですね。あとは「JTの森」の地元と提携して、社員の保養施設のようなものを作るとか。そうすれば余暇を森で過ごしやすくなって健康にもいいですし、健康になれば医療費もかからなくなる。企業にも地元にもプラスになります。

将来へのビジョンが持てる環境教育を

JTの活動では「JTの森」が社員やその家族の環境教育の場となっていることも注目すべき点の一つですね。今は学校教育の中で、農業や林業は1ページも教えていません。国の産業を支える大切な部分がこの状態では後継者は育ちませんし、森林や自然への知識が養われないまま環境保護を訴えるのも問題です。考え方、価値観を変えるのは難しいことですが、まずは山に関わること、その中で関心や認識を高めていくという構造をもっと取り入れることですね。

環境問題というのは現象を捉えるのも大切ですが、将来どのような社会を残すかを提唱することが大切だと思います。私たちは先人から、国土の70%にも及ぶたくさんの緑をもらいましたので、この緑の多い国土をできるだけ健全なものにして後世の人たちに渡すという社会的責任があると思います。森林が国民の財産だとすれば、全員で守って、次の世代に残さなくてはなりません。まずそのためにやらなくてはならないことは、学校教育、地域社会から環境への意識を変えて、将来へのビジョンを持つことなのではないでしょうか。国土を守ることは、欠かせない安全保障です。

宮林茂幸さん

宮林茂幸さん プロフィール

宮林 茂幸(みやばやし しげゆき)
東京農業大学 地域環境科学部 森林総合科学科森林政策学研究室教授(農学博士)日本森林学会会員、林業経済学会評議員、日本緑化センター理事、美しい森林づくり全国推進会議事務局長などを務める。
1953年(昭和28年)長野県生まれ。
宮林茂幸さん インタビューINDEX
第1回「森の国」日本の森が危ない
第2回“緑の砂漠”を生き返らせたい
第3回 森林がもたらす人・環境への影響
最終回 これからの森林保全への提言

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